ゼスタの夢
「えぇー!?吟遊詩人になりたいなんて初めて聞きましたよ!?」
シーナが珍しく大きな声を出す。
「そうだぞ、だいたいこのご時世に娯楽みたいな職業なんて食いぶちないだろう?それに…」
ラドはちらりとルーの方を見る。
「ねぇ、冗談…よね?吟遊詩人なんて、からかってるんだよね?」
ルーがうつ向いてしまう。ルーにも話してなかったことだ。
「みんなに相談してなくてごめん。でも本気なんだ。」
僕はみんなを見渡してきっぱりと言った。
「ルー、君にも伝えてなくてごめん…」
「ゼスタ、15になったら一緒に冒険しようって約束したよね?嫌になっちゃったの?」
ルーが泣きそうな声で聞いてくる。
「違うよ、ルー。ちゃんと一緒に冒険したいと思ってるよ。」
「じゃあどうして吟遊詩人なの?モンスターと戦えないじゃない。あなたが戦士で私が魔法使い。それで二人でパーティー組んじゃだめなの?」
「笑われると思ってずっと言ってなかったんだけど、吟遊詩人になりたいって思ったのは、勇者の物語を読んだからなんだ。」
「あの、子供の頃にみんなが読むやつか?」
ラドの質問に頷く。
「たしか勇者の仲間にも吟遊詩人はいましたよね。でも、そんなに印象に残る活躍なんてありましたか?」
「普通は勇者や魔法使いに憧れるんじゃないか?」
確かに、勇者や魔法使い達の戦いは手に汗にぎるものだった。
僕もみんなと一緒に勇者ごっこなんかをしていた。
「昔、僕が勇者ごっこをしていた時、よくルーが勇者が助ける村の娘役をしてただろう?」
僕が勇者の役をする時のルーのお気に入りの役だった。
「いつも村を支配するモンスターを倒して終わり。それだけだったけど、ある日ふと思ったんだ。救った村や村娘はどうなるんだろうって。」
勇者達が立ち去った後、また魔物が攻めてきたら?今度は村娘が死んでしまうんじゃないか。
村娘にルーを重ねた僕は、勇者の活躍の後が気になり、勇者の物語を何度も読み返した。
「それで、気づいたんだ。魔物を倒すのは、勇者達。だけど、その後のことまで考え、村に歌の加護をかけたり、傷ついた人達の心を癒す。目立たないけど、勇者の仲間の吟遊詩人はずっとそうしてたんだ。最後の戦いでも、みんなに力を与えたのは吟遊詩人の言葉だったはずだ。」
「ルー、ラド、シーナ。僕はみんなの心まで救える職業に就きたいんだ。」
ルーはじっと僕の目を見て、溜め息をつき、にっこりと笑った。
「ずっと考えてたんじゃ、今更何言っても仕方ないよね。…でも、私達がゼスタの夢を笑うかもって言ったことは怒るよ。」
「そうだね、みんなごめん。」
ルーが納得してくれてよかった。
「話しが済んだなら早く行きましょう。受付の時間が終わっちゃいますよ。」
シーナが走りだす。
「どうせお前らは喧嘩したって飯食う時には仲直りしちまうんだ。俺もシーナも何とも思ってねえよ。早く終わらせてお祝いしようぜ。」
ラドはニカッと笑って僕とルーの背中を叩く。
「ゼスタ、行こう?」
ルーに袖を引かれ、職業登録所へと走りだした。