始まりの歌
「よ、よ、妖精よ、お父さん。」
少女がアーノの腕を引きガクガクと揺らしている。
アーノも驚いて固まってしまった。
「ちょっと、オルタ。駄目じゃない。びっくりさせてごめんね。」
ルーが少女に謝る。
「ん、お願いがあるの。さっき話してた、森の入り口に連れていって。」
「おい、オルタ。どうしてそうなるんだ。わけわかんねえよ。」
「ゼスタのお手伝いもできるはずなの。お願い。」
「何だかわかりませんが、どうしてもと言うなら一緒に行きますか?」
少女はオルタのワガママを聞いてくれる。
「ん、ありがとう。アーノさんも一緒にね。」
「父もですか?まぁ、もう暗いですしね。お父さん、ついて来てくれる?」
アーノはしばらく迷ったが、同行してくれることに決めたようだ。
アーノと少女にお詫びし、森への道すがら、
オルタのことを聞いてくる少女に、オルタとの出会いを教えた。
「すみません。オルタがワガママを言って。」
「いいえ、妖精に会えるなんて、ちょっと感動しちゃった。お父さんも、驚いてつい一緒に出てきちゃったみたいだし。」
少女は引きこもっていた父が、久しぶりに外に出たのが嬉しいようだ。
オルタに話しかけて笑う少女を見て、アーノは何だか申し訳なさそうな顔をしている。
「着きました。ここがその森の入り口です。」
少女が森の方を指差す。
既に日は沈み、森は奥の方が見えないほど暗くなっていたが、不思議と恐怖は感じない。
「この辺りに座り、父と母と3人でお弁当を食べたりしていました。」
少女が座り、それに習いアーノも隣に座る。
すると、オルタが飛び立ち、森の方へ向かう。
「お願い、この森に住んでる小鳥さん達。力を貸して……」
オルタがそう呟くと、既に夜だというのに、小鳥達が出てくる。
「なに……これ……」
小鳥達はアーノと少女の周りに降りたった。
「じゃあ、ゼスタも、アーノさん達も、少しだけ私の歌を聞いてね。」
そう言って、オルタは歌い始めた。
「~~♪……」
オルタの歌声は、小さな体に見合う、鈴の音のような声だった。
「……これっっ、母さんのっっ……」
少女とアーノはオルタの歌を聞き、声を詰まらせて泣き出した。
オルタは、歌い終わるとゆっくりとアーノと少女の前に立つ。
「今のは、母さんが一番好きだった歌でした。でも、どうしてあなたが……?」
少女の問いに、オルタはゆっくりと答える。
町に着いてすぐ、この町が活気に溢れていることに気づいた。
次に、酒場を覗いた時、そこには沢山の歌の名残が見えた。
お酒を飲んで騒ぐ人達と歌の名残は強く結びついて見えた。
それで、私はこの町の人達の活気は、歌から湧いているんだって気づいたの。
アーノさんに会って、すぐに酒場で歌っていたのはアーノさんだってわかったわ。
みんなを包む、歌の名残の暖かさが同じあなたと同じ色をしていたんだもの。
そして、この小鳥達には、特別に強い歌の名残が見えたわ。
あなた達家族は、小鳥達に特に強い思い入れがあったからかしら。
アーノさん。あなたが歌えなくなってしまっても、
この町の人達や小鳥達はあなたの歌を覚えてる。
あなたの歌を、生きる力に変えているの。
あなたは声を失っても、みんなを応援し続けているの。
だから、どうか、塞ぎこんでしまわないで。
みんなを照らしてきたあなたが、落ち込んでいると、
あなたの一番大切な人に陰を落としてしまうわ。
歌を小鳥達に聞いてわかったの。
あなたの奥さんが一番好きだった歌は、大切な人を思いやる歌。
あなた自身が歌えなくても、あなたと奥さんが紡いできた歌は、
他の人や鳥達を通じて、これからもあなたの色をのせて歌われ続けるの。
声がでなくても、これからも立派な吟遊詩人なんだと私は思うわ。
前を向いて、あなたの大切な娘さんと、町のみんなも、あなたを待っているわ。
「オルタさん。ありがとうございますっ。」
少女が頭を下げると。アーノも立ち上がる。
「…………ア……ガッ……ゥ」
アーノは苦しそうに喉を押さえ、ひゅーひゅーと息を漏らしながら、深々と頭を下げた。
「ん、どういたしまして。」
オルタは照れくさそうに頭を下げ返すと、くるんと僕の肩に止まった。
「ゼスタ、私の歌、ちゃんと聞いた?」
「あ、あぁ。ありがとうオルタ。」
もちろん、しっかりとこの耳に刻みこんだ。
オルタの手を借りて、僕は吟遊詩人のスキルを手にした。
デールの町の吟遊詩人が紡いだ、活力の歌
アーノと彼の妻が大切にした、彼らの娘と同じ名を冠した歌
始まりの歌『アイオの歌』




