花瓶
オルタをパーティーに加えた僕たちは森をさらに進む。
やはり、モンスターの気配はない。
「ねぇ、オルタ。この森ってモンスターいないの?」
「ん、私はツボミの中で寝てたから、外の様子はわからなかったなぁ。」
「寝てたって、そもそもどうしてあんなところに?」
道すがら、オルタのことを聞く。
しかし、わかったことはほとんどなかった。
そもそも、オルタ自身が自分のことがよくわからないようだ。
オルタという名前。
妖精であること。
起こしてくれた者のパートナーとなるように言われたこと。
はっきりわかっていることはこれだけだと言う。
「パートナーになれっていうのは、誰に言われたの?」
「ん、お母さん。だったと思う……」
どうやら、ツボミに入る前の記憶が曖昧らしい。
「まぁ、急ぐ必要もないからゆっくり思いせばいいさ。」
ラドはオルタの寝ていた花をくるくる回しながら言う。
「ん、ありがとう。でもお花は潰さないでね。」
オルタはラドの頭に乗る。
「でも、ちゃんとゼスタが起こしてくれてよかった。ゼスタは吟遊詩人になってどれくらい?」
「え?僕が吟遊詩人だって言ったっけ?」
ラドとルーは首を振る。
「歌にね、魔力が乗ってたの。それって吟遊詩人の能力よね。」
「歌に魔力?」
「ん、そう。私を起こしてくれた歌って、ただ歌うだけじゃだめ。魔力を乗せないとツボミは開かなかったわよ。」
吟遊詩人は専用スキルを覚えることができる。
これが僕の認識だ。歌に魔力を乗せるというのは知らない。
「確かに僕は吟遊詩人だよ。でも、ついこの前なったところなんだ。」
「だから歌の魔力が弱かったのね。魔力の乗せ方があんまり上手くなかったもの。途切れ途切れでかろうじてって感じ。」
「歌に魔力を乗せられるってことも初めて聞いたよ。それが普通なのかな。」
吟遊詩人であることを伝えたついでに、今回の旅の目的をオルタに教える。
「そのデールの町で、スキルを教えてもらうついでに、歌に魔力を乗せる方法も聞いてみよう。何だか役にたちそうだ。」
「ありがとね、オルタ。でも、歌に魔力が乗っているか分かるなんて凄いわね。私にはさっぱりだわ。」
「ん、どういたしまして。」
オルタはルーに誉められて、嬉しそうに1回転した後、ラドの手から布団代わりの花を受け取り、再びラドの頭に乗る。
「私はゼスタのパートナーになったんだから、スキルを覚えるのも、魔力を乗せる練習も手伝うわ。」
そう言いながら、ラドの頭に花をくくり付ける。
「おい、ちょっと待て、おい!」
「ちょっと、兄さんなにそれ!?」
オルタに大きな花を付けられたラドの頭を見てルーが吹き出す。
ラドが凄くメルヘンな感じになった。
「何だこれは!嫌がらせか!?オルタ!」
「お願い!その花、ラドの頭に付けてて!」
ラドが花を外そうとするが、オルタはラドの手にしがみつき阻止する。
「何でだよ!どこの世界にこんなでっかい花を頭に乗せた野郎がいるんだよ!ドン引きされるわ。ゼスタかルーにつけろ!」
「やだやだ!だってラドの頭が一番お日さまに近くて、日当たりが良いんだもん!」
オルタは花が外されないようにラドの手に噛みつく。
どうやら、3人で一番背の高いラドの頭を花瓶代わりに日光を浴びせようとしているらしい。
ラドも僕も散々花瓶扱いされることに抵抗したため、最終的にオルタの花はルーの髪飾りにくくり付けることに落ち着いた。
しかし、不思議な花だ。萎れる気配も、崩れる気配もない。土で咲いている時と同じようにみずみずしい。
オルタは祠の件といい、花の件といい、何やら秘密がありそうだ。町に着いたら妖精のことも調べてみよう。
結局、一度もモンスターに出会わないまま、森を抜けた。
目の前には、デールへ向かう街道が伸びている。




