影になる
私は今とても幸せなのだ。君たちにはわかるまい。理解できまい。それでも語ろう。これは幸せに満ちた幸福物語だ。
*
私は君が好きだ。それは街で君を見かけた時からだ。とても衝撃的だった。
私はその時、君を思わず追いかけた。昼下がりだったから、君は友人とランチに行って、微笑んでいたね。
夕方、帰路に着くとようやく私に気づいてくれた。足音はたててないつもりだったのに君は走り出したのだ。とても足が早いね。一つ、君が知れて嬉しいよ。それから、それが私に気づいてくれた紛れも無い証拠だった。
君の家はとても豪華で豪邸だ。裕福な家庭に、幸せな家族の団欒。それが君を天使たらしめる物か。私とはとても違いすぎる。
私は決めた。君が私を愛してくれなくても、触れ合うこともなくていい。君をずっと護りたい。
君は夜の十一時頃、寝るんだね。そして朝は七時くらいに起きるんだ。規則正しい生活だ。
君はよく和食を食べるね。白米に味噌汁は絶対だ。大和撫子。素晴らしい。
君は友達が多いね。常に誰かいて君を気付かう。良い友達を持ったね。
君は少し痩せたかな。頬がこけている。ダイエットもいいけど健康も気をつけないとね。
君は、君は、君は、君は。
「すこしよろしいですか?」
そいつは国家権力をチラつかせ私に言った。
「藤堂玲奈さんにつきまとうのはやめてください……次はありませんよ」
なんだアイツは、なんだアイツは、なんだアイツは。
私は彼女を護っているだけなのに。
君はなんでそんな奴に微笑みを向ける?
なんとかしなければ。何かいい方法は。誰にも邪魔されず彼女を永遠に護る方法は。
私はうつむいた。いつだって私はうつむく事しか知らない。でも悪い事ばかりではなかった。
足元にある黒い暗い陰を見つけた。
あぁそうだった。いつだって共にある暗い友。うつむいた時、いつも必ずそこにいてくれる暗い友。
私は彼女の前に立ちはだかる。
「私を君の影にしてくれ!」
「いやっ、ストーカー、助けて、助けて!」
私は必死で彼女に食い下がった。護りたい。その一心で。
彼女はとても強い力で私を押した。とても強い力で。私は踏ん張って、それでも勢いは消えず、地面に叩きつけられた。
私は気付くと地面に寝そべっていた。いや、寝そべっているのとは少し違う。違和感だ。
ふと自分が移動している事に気づいた。足が勝手に動いている。寝そべったままなのに。足に目をやる。見覚えのある足につながっていた。
君の陰になれたのだ。私は笑みがこぼれた。止まらない歓喜の心に震える。
ふと君がこちらを見た。その瞬間、恐れ慄き、走り出す。置いていかれることもない。これでずっと君を護れる。
君は可愛い下着をつけてるね。ピンクでフリフリで可憐だ。
君は意外と小さいね。その二つの小山の山頂は桃色にグラデーションされていて愛らしい。
君は隠していたんだね。その秘密の草原を。小さく控えめな可愛らしい黒々とした草原を。
君は、君は、君は、君は。
最近、君は元気がないね。窓を塞いでしまった部屋から一歩も出ない。真っ暗な部屋から一歩も出ない。
そうか、君は私と溶け合い混ざり合いたいのだね。だから陰である私と闇の中にいるのだね。
嬉しいよ。さぁ、一つになろう。闇に包まれ、陰に溶け込もう。
*
「確かに失踪するまで玲奈さんはここにいたのですね?」
刑事は玲奈の部屋を見回した。いきなり、いなくなった。確かにそう感じる部屋だった。
「あれ? お母さん、このシミなんですか?」
刑事が指差すその壁には黒いシミがあった。
「そんなのありませんでしたわ」
「人のサイズと同じで、人型に見えなくもないな、なんかダブってるというか二重に見えるような」
刑事は首をかしげながら玲奈の母と部屋をあとにした。
部屋のライトは消される。部屋には再び闇が訪れた。
あらすじに偽りはありません( ̄ー ̄)ニヤリ




