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影になる

作者: 高岩 唯丑

 私は今とても幸せなのだ。君たちにはわかるまい。理解できまい。それでも語ろう。これは幸せに満ちた幸福物語だ。



 私は君が好きだ。それは街で君を見かけた時からだ。とても衝撃的だった。

 私はその時、君を思わず追いかけた。昼下がりだったから、君は友人とランチに行って、微笑んでいたね。

 夕方、帰路に着くとようやく私に気づいてくれた。足音はたててないつもりだったのに君は走り出したのだ。とても足が早いね。一つ、君が知れて嬉しいよ。それから、それが私に気づいてくれた紛れも無い証拠だった。

 君の家はとても豪華で豪邸だ。裕福な家庭に、幸せな家族の団欒。それが君を天使たらしめる物か。私とはとても違いすぎる。

 私は決めた。君が私を愛してくれなくても、触れ合うこともなくていい。君をずっと護りたい。



 君は夜の十一時頃、寝るんだね。そして朝は七時くらいに起きるんだ。規則正しい生活だ。



 君はよく和食を食べるね。白米に味噌汁は絶対だ。大和撫子。素晴らしい。



 君は友達が多いね。常に誰かいて君を気付かう。良い友達を持ったね。



 君は少し痩せたかな。頬がこけている。ダイエットもいいけど健康も気をつけないとね。


 君は、君は、君は、君は。

「すこしよろしいですか?」

 そいつは国家権力をチラつかせ私に言った。

「藤堂玲奈さんにつきまとうのはやめてください……次はありませんよ」



 なんだアイツは、なんだアイツは、なんだアイツは。

 私は彼女を護っているだけなのに。

 君はなんでそんな奴に微笑みを向ける?



 なんとかしなければ。何かいい方法は。誰にも邪魔されず彼女を永遠に護る方法は。

 私はうつむいた。いつだって私はうつむく事しか知らない。でも悪い事ばかりではなかった。

 足元にある黒い暗い陰を見つけた。

 あぁそうだった。いつだって共にある暗い友。うつむいた時、いつも必ずそこにいてくれる暗い友。



 私は彼女の前に立ちはだかる。

「私を君の影にしてくれ!」

「いやっ、ストーカー、助けて、助けて!」

 私は必死で彼女に食い下がった。護りたい。その一心で。

 彼女はとても強い力で私を押した。とても強い力で。私は踏ん張って、それでも勢いは消えず、地面に叩きつけられた。



 私は気付くと地面に寝そべっていた。いや、寝そべっているのとは少し違う。違和感だ。

 ふと自分が移動している事に気づいた。足が勝手に動いている。寝そべったままなのに。足に目をやる。見覚えのある足につながっていた。

 君の陰になれたのだ。私は笑みがこぼれた。止まらない歓喜の心に震える。

 ふと君がこちらを見た。その瞬間、恐れ慄き、走り出す。置いていかれることもない。これでずっと君を護れる。



 君は可愛い下着をつけてるね。ピンクでフリフリで可憐だ。



 君は意外と小さいね。その二つの小山の山頂は桃色にグラデーションされていて愛らしい。



 君は隠していたんだね。その秘密の草原を。小さく控えめな可愛らしい黒々とした草原を。


 君は、君は、君は、君は。

 最近、君は元気がないね。窓を塞いでしまった部屋から一歩も出ない。真っ暗な部屋から一歩も出ない。

 そうか、君は私と溶け合い混ざり合いたいのだね。だから陰である私と闇の中にいるのだね。

 嬉しいよ。さぁ、一つになろう。闇に包まれ、陰に溶け込もう。



「確かに失踪するまで玲奈さんはここにいたのですね?」

 刑事は玲奈の部屋を見回した。いきなり、いなくなった。確かにそう感じる部屋だった。

「あれ? お母さん、このシミなんですか?」

 刑事が指差すその壁には黒いシミがあった。

「そんなのありませんでしたわ」

「人のサイズと同じで、人型に見えなくもないな、なんかダブってるというか二重に見えるような」

 刑事は首をかしげながら玲奈の母と部屋をあとにした。



 部屋のライトは消される。部屋には再び闇が訪れた。

あらすじに偽りはありません( ̄ー ̄)ニヤリ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が読みやすくてきれいでした! [一言] すごく素敵な文章でした 私もこういうような文章が書けるようになりたいと思いました
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