誰にも言えない夢の話
その夜に見た夢のことを、わたしは誰にも言っていない。
四方を高いビルに囲まれた交差点の真ん中で、少年が空を指さしていた。
ぼろ布のような服をまとったボサボサの髪の彼は、空を指さして叫んでいた。
「ほうら、よく見てみろ! あの空のどこに真実があるというのだ! 太陽が燃え尽きても、月がひび割れても、我々にはそれをどうすることもできない!」
高いビルの中のひとつ、そこからわたしは彼を見ていた。どうしてか、そこにいても彼の言葉ははっきりと聞こえていた。
彼の言葉に応えるように、けれど、彼には聞こえないように、わたしは呟いた。
「真実なんて、最初からないんだよ。それでも、いつか届くように、知らないものを知るために、生きてるんだよ。それが人間なんだよ」
つぶやき終えて、はっとした。
わたしの言葉は届いていないはずなのに、彼がわたしをにらんだ気がしたからだ。
頬を伝う冷たさに目を覚ました。
一瞬、自分がどこにいるのかわからなかったけれど、いつもと同じベッドの上だった。
枕元に置いてある携帯電話を手に取る。
ストラップの先についている二頭身のキャラクターが、どこか夢の中の彼に似ていた。
携帯電話の電源が切れていることを確かめて、わたしはため息をつく。
「真実なんて、かぁ」
ベッドの上には、青空が広がっている。
四方を廃ビルに囲まれたベッドの上、世界に独りきりのわたしは、ボロボロの袖口から出ている腕を、
そっと、空に向ける。