猫と、天才
パンを咥えてた女の子。
この子もクラスメイトだった。
「あれれ?善ちゃん?」
「あれれ?じゃないだろう・・・どっかのアニメみたいな突撃しやがって」
「あ・・・あはは」
「わざとか?」
軽い沈黙。
「えーと、そう言う訳じゃなけど・・・なんとなく」
「アホかっ」
この、わざとらしくパンを咥えてぶつかってきた子は
『師走 愛』
この子も中学からの顔見知りだ。
身長145cmで、またもや小さい。
ただし、存在感が違う。親が日本人の父とアメリカ人の母という、いわゆるハーフだ。
なので、髪は金髪で、瞳は黒い。
それで、いつも『ポニーテール』だ。
オマケで言うと、母の家系が軍人の血統で自宅に『本物の拳銃』があるらしい。
さらっと言ったが以前に、クラス対抗サバゲをしたときに、ソレを撃ったんじゃないか?と噂されている。
理由は簡単。男子がチビったのだ。
なんで、そんなことをしたのかは未だに謎である。
当時
「なんかしたの?」
と聞いたら
「な~んも?」
と言われてしまったので、追求はしなかった。
(まぁ、顔に殺意があったのは伏せておく)
基本的に、社交性に乏しく『大丈夫』と思う人としか会話しないのだが、どういう訳か『俺』はセーフゾーンだったらしく、それからは『困る』or『必要』なときに俺にパンを咥えて当たってくる。
今回も、きっとSOSなのだろう。
「どうしたの?」
俺は聞く。
「えへへ」
バレたか?という顔で俺を見てる。普通に分かるがな・・・といいたいが堪える。
「それで?」
「えーとね、ウチの『マリアン』が逃げ出しちゃったの!」
「ん?」
マリアン・・・猫の名前だったような気がする。
「猫ちゃん?」
「そうそう。今日起きたらいなくなってて」
「それで、パン・・・か?」
「何、それ?」
「いや、こっちのことだ」
猫は気まぐれだ。甘えたい時は甘えるし、必要なければ自分の好きなことをする。
中学時代に少しの間、付き合っていた彼女が両親と旅行に行くことになって『少しの間バイトとして猫の面倒を見てもらえないか?』と言われたことがあった。
まだ子猫が少し成長したくらいだったが、彼には自我があった。
(寂しい)と感じたのだ。
食事を与えに行くと『すりすり』してくるので、しばらくは一緒に遊んでいた。
そして、家を出ようとしてドアノブに手をかけた瞬間に、『彼』は『その手を回さないで』とばかりに手に飛びついた。
行動で、示したのだ。
猫は寂しがりやさんと一般的に言われるが、それを実感したのは初めてだ。
ビックリしてる俺を横目に、その猫『MAY』は訴える。
『行かないで!』と。
俺の中で、PETは家族と思わせた瞬間でもある。
「えーと、マリアンだっけ?行きそうなとこは?」
「分からない。だって、今までずっと家の中だったし・・・」
「OK。探すの手伝うよ」
「あはっ、ありがとう」
ずっと俺と師走の会話をだまって聞いていた瞳がボソっと言った。
「私はOUT OF 眼中なの?善・・・」
あ・・・忘れてた。
顔をピクピクさせていたが気にしないでおこう。
そして、微妙な空気の中、3人で登校した。