導くもの
目の前に光が見える。
そして、こう言った。
「痛いですか?」
と。
痛いに決まってる・・・。
(死んだのだから)
そして光は、こう言った。
「アナタが好きな形になりましょう」
そして、俺が見惚れるほどの女性になった。
それは俺の理想と言える姿だった。
胸は丁度いいくらいで、お尻は非常に丸みと厚みがある。
だが、さっぱり分からない。
光だった存在が、なんで?
そして光だったものが言った。
「アナタの理想にしたのだけれど、不満?」
と。
気が付いた(ここは死後の世界なんだろう・・・と)
そして、あっけらかんと言った。
「正解です」
と。
「アナタは死んだのですよ?」
「はぁ?」
なんで意識があるのかが分からない。
「私はアナタを違う世界線に送るために存在している」
「は・・・はい?」
「深く考えるのは、また後にしましょう。良い眠りを・・・」
そして、気を失った。
-気が付いたら、俺は自室のベッドにいた-
そう、俺は死んでいなかった。だが、痛みと記憶が『俺は死んだ』と証明している。
どういうことなんだろう・・・。
混乱しかない。
頭が砕けた『音』まで覚えているのだから。
痛みがあるはずの身体は全く痛くない。
出た言葉は
「理解出来ない・・・。」
だった。
(まぁ、生きているならいいや。とエクスキューズを自分につけた)
そして、時計を見るといつもの起床時間だった。
理解することは諦めて、普段のように学校に向かう。
そこには、見慣れた光景が広がっていた。
いつもと同じクラスで、いつもと同じクラスメイト。
当たり前の日常だ。
(俺は本当に死んだのか?)
ふと考えてしまう。
だが、目の前に広がる世界に変わりは一切ない。
ただし、一つだけ変わったことがある。
このクラスの委員長である『五月 茜』が、妙に優しいのである。
今までなら、間違いなく俺は嫌われていた。
五月は、いわゆる模範生で頭脳明晰であり、容姿も悪くない。というかかなりキレイだろう。
そして、運動も得意だ。天は2物も3物も与えてしまった例みたいな子だ。
それに引き換え俺はなんの恩恵も与えられていない。
あえていうならば、頭の回転の速さ位だろう。
子どものころは、IQの高さも有り(天才には及ばないがIQは120↑だった)
「将来は、医者か弁護士か科学者だな」
と言われた時期もあったが、本人は面倒が嫌いだったのだ。
TESTの点数は良いが素行不良で、NOTEすらとらないのだから・・・。
ぶっちゃけ、肉親に恵まれなかったこともある。
高い知能指数も環境により生かされないこともあるのだ。
父親は学生時代に『人間そろばん』と言われていたそうで俺は『人間コンピューター』と言われた。
『0』と『1』しかないのだ・・・俺は。
『ON』か『OFF』それだけなのだ。
なので、早弁はもちろんサボタージュもたびたびしていた。
だから、俺は委員長には嫌われていたのだ。
が、今日の委員長はやけに優しい。
朝の挨拶も
「おはよう、善」
なのだ・・・。
そう呼ばれた記憶は過去にない。
「あぁ、おはよう。五月」
と言ったら
「なんで今日は五月なの?いつもみたいに『茜』で良いじゃない?」
と言われて初めて理解した。何かが違う世界なのだと。
その瞬間、恐怖にかられたのだ。
(よく考えろ、俺。俺は五月と名前で呼び合う仲じゃなかったはずだ・・・と)
全身に鳥肌が立つ。
(ココは俺の知ってる世界じゃない・・・)
その瞬間、俺の意識は飛んだ。
聞こえてきた声は、前に聞いたことのある声だ。
「少しは理解出来たようね?」
そこには、以前見た『俺の理想の女性』が立っていた。
そして、静かに言った。
「アナタの世界では『シュレディンガーの猫』という説があるのを知ってますか?
それくらいは、もちろん知ってる。
理解した。
これは『俺が死んでない世界』だと。
「やっぱり、頭の回転は速いようですね?」
続けて女は言う。
「アナタは、1:1の世界の全てを越えていける存在。そして、絶対に交わらない世界のために力を尽くす存在。」
「何を言っている?」
「アナタ自身は存在するが、アナタが死ぬたびに力が『ある世界線』に影響をもたらすのですよ?」
(言ってることがまるで分からない)
「絶対に交わることがない。いえ・・・交わってはいけない世界線です」
「わけワカメだぞ?何を言いたい?」
俺は応えた。
「う~ん・・・問題はないかな?」
そういって、また話し出した。
「アナタは神を信じますか?特に現人神ですけど・・・」
「神様なんていねーよ!!!」
「ですよねー」
と、その女は笑った。
「どういうことだ?」
今の状況が普通でないことは百も承知している。
「別の世界線の『アナタが現人神』になるためのステップだとしても?」
(やっぱり、分からない)
「まぁ、今はココまでにしておきましょう。いずれ分かりますよ。」
そして、現実に戻った。
すごく長い時間に感じたのだが、数分だったようだ。
「善、今日のお弁当は大好きなから揚げだよ♪」
そういって、五月は俺に弁当を差し出したのだ。
(弁当って、付き合ってるみたいじゃないか?)
「この前、もう少し『にんにく』効いてる方が良いって言ってたから、にんにく増量しましたーーー」
(これは・・・彼氏と彼女の会話だよな)
「あ・・・あぁ、ありがとう」
それしか答える事が出来ない。
「じゃぁ、昼休みに屋上でいつものように食べましょう」
(いつものように・・・か)
「OK!楽しみにしてるよ」
「うん」
と彼女は笑った。
全然、状況が把握出来ない。
今は昼休みで、屋上に来た。
いつものように、授業中に『カレーパン』と牛乳で腹を満たしたのだが、今は状況が違う。つか、違いすぎる。
そこには、委員長がいた。いや、待っていた。
「善、今日は遅かったねー。いつも楽しみに私のお弁当食べるの待ってるのに」
と彼女は笑った。
(この世界の『俺』すげー)と内心思ったが声には出さない。
「そういえば、今日は3時限目にカレーの匂いが教室に充満してたけど、アレは善?」
「あー・・・はい。俺だよ」
「もう!」
軽くふくれた顔をしてるが怒ってる気配はまるでない。
「良くバレなかったね?」
「いやぁ、きっと分かってたよ。言わなかっただけさ」
「だったら、しなきゃいいのに・・・内申ひびくよ?」
「いいんだよ。俺には関係ないとこだからな」
「大学いかないの?」
「俺には必要ねーよ」
とウィンクしてみせる。
「・・・もったいない。」
この世界の俺がどういう感じだったか知りたくて『カマ』をかける。
「ウチの家庭事情は知ってるだろ?」
「・・・うん。」
「大学に行く余裕なんてねーよ。」
「知ってるけど・・・それだけの実力があって進学しないとか、普通ないでしょう?」
「ココにいること事体が奇跡みたいなもんだしな。」
これは嘘でもなんでもない。たまたまオカンの実家がT県で、それでココに来れたのだ。
普通に考えると、ココは良家の子女しか来れない高校なのだが『地元』の人は優遇されるのだ。
(頭数合わせでね・・・)
「善なら、推薦でも特待でも取れるんじゃ?」
なるほど、この世界の俺は意外と頑張ってたらしい。
「基本的に、高校出たら働いて」
という親だからな。苦笑する。
言い終わる前に五月が言った。
「お金なら、ウチの父に頼めば多分何とかしてくれますよ?一般扱いでも・・・。」
そうだった・・・コイツの親は金持ちだったな。俺の学費なんか軽く出してくれるかもしれないけど、借りは作れない。
「気持ちだけ、もらっておくよ。」
「善・・・」
「そんな話よりも俺は『から揚げ』を堪能したいんだけど?」
「自信作ですよ?覚悟してくださいね?」
2人とも軽く笑った。
そして、弁当を広げて『から揚げ』を口に放り込む
「うめぇぇぇぇぇぇ」
五月が、すごく嬉しそうな顔をしている。
「やったーーーーー」
「これは、100点満点中、97点の出来だよ!!!マジで美味い」
五月の顔が真っ赤になってる。
「嬉しい。ありがとう。」
なんか、少し照れくさいけど・・それくらい美味かった。
そして、その少し後に俺はスゴイ体験をすることになる。