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「旅の途中でもお前は剣を振るのか?」
黒骸騎士団の捕虜になっていたドワーフ達と一緒にフンベルトの集落へ向かう旅の途中、誰よりも早く起き少し離れた所で剣を振り始めたクランに、ドワーフの少女が呆れ顔で話しかける。
「おはようございます、ヴェローニカさん。僕はレナさんやクリスさんと違って才能無いですし、ユリさんやイヴさんみたいに魔法も使えませんから、その分努力しないと」
汗を拭きながらクランがヴィルヘルムの娘――旅の途中で名前を教えてもらった――に答えると、ヴェローニカは不思議な表情をする。
「お前は黒骸騎士団の二つ名持ちと一人でやりあったのだろう? お前の仲間はそれほどまでに腕が立つのか?」
「黒骸騎士団の‘死神’からは、無事に帰って来られるとは思っていませんでした。運が良かったんです。ですが、レナさんとクリスさんの腕は本物です。正直、本気でやりあえば僕に勝機は無いと思います」
カルラの事が話題に出た動揺を隠しながらクランが答える。
「そうなのか? ふん、丁度いい。お前達の手合わせを見せろ。お前の習っていたという武道とやらを見てみたい」
クランに興味を持ち始めたヴェローニカが言うと、彼は困ったように答える。
「今は旅の途中ですし、レナさんとクリスさんも休憩中だと思いますから」
「いいじゃない、やってみなさいよ。レナは多分暇だと思うし、なにより面白そうじゃない」
クランがやんわりと断っていると、何処からか現れたクリスに声をかけられた。
彼女の浮かべている軽薄そうな笑みを見て、クランは自分が暇つぶしの道具として照準を定められた事を悟ると諦めたように口を開く。
「レナさんに声をかけて来ます」
「時間もないし、早くしなさい」
言い返す言葉を飲み込むと、クランはレナを探すべく小走りに走り出す。
ドワーフ達が思い思いに休憩している間に、目的の人物を見つけると一縷の望みをかけて声をかけるが、返ってきた言葉は彼の希望とは違ったものだった。
「クランと手合わせするのも久しぶりだし、喜んで相手をさせて貰うよ。丁度いい、ユリとイヴもいい勉強になるだろう、声をかけて来るよ」
レナがドワーフの手伝いをしている二人に話していると、興味を持ったフンベルトとグスタフも見学する事になった。
いつの間にか、皆の暇つぶしのための余興といった様相を占めてきた事に、クランは知らず溜め息をついていた。
「こんなに見ている人がいるんじゃ無様な所は見せられないわね」
いつの間にか手の空いたドワーフの戦士達も集まっていた事に、笑いを噛み殺して辺りを見回すクリスをクランはジト目で見る。
「頑張ってください、クランさん。私達も応援していますから」
微笑むユリとイヴを見て、クランは気を取り直してレナと一緒に皆の場所から離れる。
お互い距離を開けて向き合う二人を見て、イヴが不思議そうに声を上げる。
「あれ、クラン腰に二本木剣差してる。長さも違うみたいだし?」
「お前は仲間なのに知らないのか? あれは元々あいつが修練していた刀と言うものらしい。今回は武道というものを見せるために急遽用意したのだ」
ヴェローニカの非難を含んだ説明を聞いたイヴは、不機嫌そうに言葉を呑む。
「仕方ないわよ、イヴさんとユリさんはクランさんが刀を振るった所は見た事ないものね」
クリスが言うと、ユリが聞き返す。
「クリスさんと、レナさんは見た事があるんですか?」
「ええ、一応ね。フンベルトさん達がクランさんの話を聞いて作った刀を見た事があるし、実際クランさんがそれを振るって杭を斬った所を見たしね」
「杭を斬ったのか?」
今度はヴェローニカが驚く。
「そうよ、綺麗に切れてたわよ。見てみないと信じられないくらい綺麗にね。だけど、切った刀は刃毀れしてたわね。普通に考えれば当たり前だけど」
「その時、あいつは何て言っていた?」
「自分の腕が悪くて刃毀れさせたって言ってたわね」
クリスが肩をすくめながら答えると、それまで黙って聞いていたフンベルトが口を開く。
「我らの技術が足りなかったのだ。クランが話した秘法とも言うべき刀工の、十分の一も我らは再現する事が出来なかった。もし、本当の刀を打つ事が出来れば、それは鉄の兜すら切り裂くだろう」
ドワーフ達の中でも鍛冶の技術では一目置かれていたフンベルトの言葉に、ヴェローニカは信じられないといった風に頭を振る。
「お前がそこまで言うほどの技術を必要とするのか?」
「クラン達と別れた後も刀を打ち続けたが、クランが満足できるものは一振りも無いだろう。一生かけても作る事が出来るか自信は無い」
「フンベルトの集落に着いたら今まで打った刀を見せてみろ」
ドワーフの長い寿命を持ってしても至らないという言葉に、ヴェローニカが真剣な表情で頼むとフンベルトは大きく頷く。
「話は終わったかしら? 始まるわよ」
クリスが声を上げると、丁度レナが二本の木剣を構える所だった。




