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異世界での過ごし方  作者: 太郎
魔女
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翌朝、日が昇るより早い時間にドワーフの集落のある洞窟から少し離れた場所で、クランはいつもの様に訓練を行っていた。

心得の無い者が見れば悪戯に時間を浪費している様な動作を、自分の動きを確かめるように一つ一つ丁寧に行う。

太陽が山々の間から顔を覗かせる頃になると、気温が低いため全身から湯気を立たせたクランは一息入れるために天を仰ぎ見る。

息が整うと今度は愛用の剣を抜き素振りを始める。

それが終わると今度は足を肩幅に開き、目を閉じ呼吸を整えながら臍の少し下、丹田に意識を集中し呼吸を整える。

十分内気が練れると集中していた意識を大気に溶け込むように開放する。

すると、周囲の気配の様な物を感じ取る事ができた。

それは、クリス達と帝国の研究施設へ向かう途中から急速に開花した、聴勁の一種だった。

クランが意識をどんどん外へ向けてゆくと、一際大きな気配を感じる。

彼が目を開きその方向に視線を向けるとそこには昨日のドワーフの少女がいた。

かなりの距離を取っていたはずなのにクランに見つけられた少女は、一瞬体を強張らせるがそのままこの場を離れるのは逃げた様に思われる気がしたため、睨みながら彼の元へ歩く。


「随分熱心に人殺しの練習をするんだな」


クランの目の前に立った少女は、昨日からの敵対的な態度を崩さず辛辣な言葉を吐く。

身長差が有るため背伸びする様に睨みつける少女に、クランは戸惑いながらも真摯に答える。


「今は人を殺すためだけに訓練をしているつもりはありません。訓練は人を傷つけなくても済む力を得るために行うんだと、老師に言われていました。」


「……」


クランの矛盾する言葉に興味を持ったのか、少女は無言で続きを促す。


「僕の国には力を表す‘武’という言葉があります。ですが、それは‘二’つの‘矛’を‘止’める。つまり、争いを止めるという意味でもあります。そして、僕は老師に武の道‘武道’を教わっていました」


「お前は争いを止めるために剣を持ったのか?」


「いえ、その時の僕はそんな事を考える事も出来ませんでした……」


自嘲気味に笑うクランに少女は問いかける。


「なぜだ? 争いを止めるために剣の師事をしていたのだろう?」


「……僕が武道を習得したいと思ったのは、自分の大切な人を奪った奴に復讐するためです。あの時の僕にはそれしか無かったんです」


「……」


クランの告白に少女は口を閉ざす。


「あなたの気持は分かるつもりです。僕も大切な人を奪われましたから……」


「今も復讐するという気持は変わらないのか?」


「もう有りませんといえば嘘になります。ですが、僕には今やらなければならない事があります」


少女は視線でクランに続きを促す。


「二人の少女に誓ったんです。彼女達を死に追いやった帝国を許さないと。直接命を奪ったのは僕です。あの時は力が無くてそれしか出来なかった。だから僕は力が欲しい。彼女達の様に帝国によって不幸になる人を少しでも減らすために……」


「なぜおまえがそんな事をしなければならない? その少女達が死んだのだって、お前のせいではないのだろう? その上、帝国の行いで他の人間が苦しもうがお前には関係ないだろう?」


「彼女達に誓ったんです、帝国を許さないと。それに、苦しんでいる人が目の前にいたら手を差し伸べませんか?」


突然の問いにドワーフの少女は目を丸くする。


「人を助ける事に理由が要りますか? 理由が無ければ苦しんでいる人に手を差し伸べてはいけませんか?」


「何をいっている?」


クランの言っている事が理解できない少女は、聞き返すことしか出来なかった。


「あなたは倒れた子供がいたら手を差し伸べませんか? 苦しんでいる人がいたら声を掛けませんか?」


いわれなく帝国に父が殺され、襲い来る黒骸騎士から仲間と共に逃げ惑った少女は、クランの偽善ともいえる言葉に思わず声を荒げる。


「ふざけるな! だったらなぜ私達は散り散りになって暮らしている!? なぜ私の父は殺された!? 苦しんでいる人を助けるような人間がいるのならば、私達はこんな目にあっていないはずだ!」


「人間が、僕達があなた達にした事は決して許されない。ですが、人間全員がそうではないです。でなければ、僕達は苦しんでいる人達に手を差し出す事も許されない事になってしまう」


少女は怒りに震えるが、クランの言葉に耳をふさごうとはしなかった。

なぜかは自分でも分からない。

だが、亜人であるドワーフの言葉を真摯に聞き、自分の事を隠さず話すクランは、彼女の人間に対する固定観念の外にあった。


「僕達の国では、ひどい震災がありました。何千人もの命が失われた災害です。でも、被災地の人々は自分が寒くても毛布を分け合い、被災地から遠い所に住んでいた子供は、自分の欲しいものを我慢して苦しんでいる人達に食べ物を送りました。人間にも、そんな心を持っている人はいるんです。僕はそんな人達と同じ国で過ごしていた事を誇りに思います。どうか、どうか人間全員を憎まないで下さい」


真っ直ぐ自分を見つめるクランの瞳から、ドワーフの少女はいたたまれず視線を逸らす。


「その剣は……」


偶然視界に入ったクランの剣に少女は視線を止める。


「この剣ですか?」


クランが剣の柄に手を掛ける。


「その剣を見せろ!」


少女の剣幕に驚きながらクランが鞘ごと剣を差し出す。

受け取った少女は鞘から剣を引き抜くと、目に涙を浮かべ口を開く。


「父さんの剣だ…… 手入れも十分されてる…… 良かったね」


しばらく剣を抱きしめた少女は、鞘に納めるとクランに指し出す。


「人間は嫌いだ。だけど、父さんの剣を大切にしているおまえの言う事は、半分ぐらい聞いてもいい」


「ありがとう」


微笑を浮かべるクランに、少女は釘を刺す。


「半分だけだ、バカ。調子に乗るな!」


「それでも嬉しいよ」


「ふん!」


少女は顔を赤くしながら横を向き、言葉を続ける。


「フンベルトに鍛冶の技術を教えたんだってな。フンベルトが感謝の言葉をしつこく言っていた。仲間が世話になったんだ、おまえがここにいる事も許してやる。だからその間、私にも鍛冶の話を聞かせろ。どうせ大した技術ではないのだろうが」


「はい」


嬉しそうにクランが答える。


「ふん!」


顔を赤くしながら視線を逸らす少女をこっそり見ながら、クリスが岩陰で感心する。


「あらあら、上手く行っちゃうんだ。冒険者達の間で噂になっていた彼の人物像って結構当たってるのかしら? 街に戻ったら‘女たらし’って二つ名広めてみようかしら、二つ名持ちになるなんてきっとクランさんに感謝されるものね」


くすくす笑いながらクリスはその場を後にした。

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