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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
9/130

7

エリム村に帰る予定の日を迎えたクラン達は、ユリの叔母に挨拶し朝日が昇ると同時に出発した。




「そういえば、サラ神官は神殿にいたの?」


ルイザ街道をエリム村に向かって歩きながらクランはユリに話しかける。


「いいえ、サラ様は今王都にいるそうです。村でお見送りしてからお会いする機会も無かったので、一目お会いしたかったのですけれど……、」


ユリは心残りな表情を浮かべながら答える。


「ファムの神殿へ礼拝に行ってるんだからまた会えるよ」


クランはユリを元気付けようと声を掛けた後、いままで疑問に思っていた事を尋ねる。


「そういえば、神聖魔法ってファムの神官だったら誰でも使えるの?」


クランに尋ねられたユリは、最初に世界の始まりの伝承から話し、その後神官についての一般的な説明をする。

グレンに「お前は田舎者だから知っている話しでもちゃんと聞け」と釘を刺されていたこともあり、クランはさも知っているかのような顔をしながら相槌を打ち聞いていた。


一般的に伝えられている世界の始まりの伝承は次の通りだ。

太古に神竜と呼ばれる光の存在がいた。ある時、神竜は病にかかった。そのとき4つの爪が抜け落ち、そこから四人の光の神が生まれた。

戦の神バド、愛と豊穣の女神ファム、知恵と知識の神ウィズ、運と芸術の女神ノウ。

そして神竜が口から吐き出した病から、暗黒の女神ネイが生まれた。

光の神々は世界と妖精や精霊、人間や亜人などを作り、暗黒の女神は妖魔や悪魔を作った。

その後、力を使った神々は長いまどろみに落ち、今では姿を現すことは無くなり、一部の者たちに神託や神聖魔法などで神の奇跡を見せるのだった。


次に、神聖魔法は神官なら誰でも使えるわけではなく、神の声を聞いた人だけが使うことができるとの事だった。

神職に就く人のほうが神の声を聞く可能性は高いが、一般の人でも聞く事がある。

逆にいえば、神の声を聞けない神官もいるという事になる。

神の声を聞く場所は神殿が一番多いが、そこ以外でも聞くこともあるらしい。

クランは思わず神の声をトイレで聞いた時のことを想像し、シュールな光景に微妙な表情をした。



クランが歩きながらユリの話を聞き終える頃には、太陽がかなり高いところに昇っていたので昼食の準備に取り掛かる事にした。

ルイザの街に向かっていたときと同じように、簡易的な竈を作った後、ユリが調理する。

今日は軽くあぶったパンに、柔らかくなるまで煮た干し肉とチーズを挟み、干し肉の出汁が出たスープに野菜を入れ、野菜に火が通ったところで竈からおろす。

出来上がったスープを器によそい、全員に配ったところで昼食となった。

食事を美味しそうに食べるクランをユリは嬉しそうに見つめ、皆が食べ終えると一休みをした後、鍋と器、火を片付け旅路に戻るのだった。




日が暮れる頃にエリム村に着いた三人が木陰亭のドアを開け中に入ると、給仕をしていたユリの母親が出迎える。


「おかえり、ユリが迷惑かけたね」


屈託のない笑顔でグレンとクランを出迎えた女将は、店を手伝おうとするユリに「今日はいいから」と言い聞かせ三人を食堂に案内した。


一度厨房に戻った女将は、鳥の丸焼きとカゴに入ったパンとチーズ、そして大き目のジョッキにエールを注いで持ってきた。


「帰りも送ってくれてありがとう。今日は私の奢りだよ」


女将はクラン達にそう言うと、テーブルの上にご馳走を並べていく。

四人はルイザの街で見た事を身振り手振りで説明したり、女将がユリのつけている髪飾りの事でクランをからかったりして気づけば夜も更けていた。


夜も遅くなりクラン達が休むというので、ユリも自分の部屋に戻ることにした。


「お母さんてば、余計なことばかり言って、もう」


ユリは母が自分の着けている髪飾りを見て、クランをからかったことを思い出して不機嫌そうな声を出した。

母曰く、「もう年頃なんだけれど浮いた話一つ聞かない」「男にプレゼントを貰ったのなんて初めてだ」「うちの娘を貰ってくれるのかい」などなど、一緒に聞いていたユリは顔を真っ赤にしてクランの顔を見られなかった。


「クランさんだって困った声をしてたし……」


ベッドに腰掛けながらユリは自然とクランのことを考えていた。

始めて会ったときは、看板の見方が分からなくて困った顔をしていたのが印象的だった。

ただ、話し方や態度からやさしそうな人だなとは感じていた。

一緒に旅をしてみると、道がぬかるんでいたり荒れている所では、さりげなく歩きやすいところに導いてくれたり、人ごみが多いところでは人にぶつからないように気を配ってくれていた。

村にいる同年代の男の子に比べると、なんとなく行動に余裕があるように見える。

そんな彼の事を、ユリは憎からず思うようになっていた。


「ただの友達なのに、明日から気まずくなったらどうするのよ」


髪飾りを外し大事そうにしまうユリは、自分が母への文句を言っている間、嬉しそうに微笑んでいたことに気づいていなかった

H25.1.12 ファムの神官セラ → ファムの神官サラに変更させていただきました。

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