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異世界での過ごし方  作者: 太郎
願い(仮)
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クラン達は野生の雌鹿亭のテーブルに乗った昼食の前で難しい顔をしていた。


「確かに今のまま悪戯に時を過ごしても、有益な情報が得られるとは限りませんね。それと、先日実験体の計画を進めているのが帝国の“狂人”の二つ名を持つ人物だと判明したって言ってましたけど、どんな人物か分かったんですか?」


「いいえ、結局詳しい事は分からなかったわ。どうやら最近まで帝国でもその二つ名を知る者は少なかったらしいの。よほど情報統制が出来ていたらしいわね、結局名前も分からなかったわ」


「そうですか。そうするとただ待っていても、これ以上の情報も期待できませんね。所でその情報はどうやって入手したんですか?」


クランの問いにクリスは不思議そうな表情をする。


「帝国に潜伏させている密偵からだけど、なんでそんな事を気にするの?」


「いえ、有力な情報が入手できるルートが有るなら、人員を強化してはどうかと思いまして……」


クリスは小さく首を振りながら答える。


「敵地で情報を集めるのは難しいの。悪戯に人員を増やして目立つのは避けたいわ。今の密偵も潜伏してから数年はじっとして周囲に溶け込んでから動き出したの。不用意な事をして、折角渡りを付けた情報提供者との繋がりを無くしたくないしね」


「分かりました」


クランの案が却下され、皆が難しい顔で考え込んでいるなか、徐にイヴが口を開く。


「じゃあ、あたし達で施設を探しに行くしかないんじゃない?」


「……そうね、今のままじゃ帝国に潜入している密偵の情報も期待できないしね。余り目立つ事をして帝国の連中を刺激したくなかったんだけど……」


クリスが困った様に言うと、クランが打開策を提案する。


「だったら、フンベルトさんの所に行って、帝国と戦争をしていた当時の事を聞いてみますか? なにか有益な情報が入手できるかもしれません」


「……そうね、ドワーフ達には思い出したくない事でしょうけど、クランさんが聞けば教えてくれるかもしれないわね」


クリスの台詞に疑問を感じたイヴが聞く。


「クランが聞けばって、ドワーフに知り合いがいるの?」


「ええ、知り合いと言うより、友達らしいわよ」


「うそ! ドワーフが友達なんて言うのよっぽどの事だよ。なにかあったの?」


驚くイヴにクランが答える。


「大した事はしていないよ、ただ知ってる事を教えただけだよ」


「え゛? 疲れてる時でも神聖魔法使っちゃだめな事とか?」


「違うよ。ただ、余り知られている事じゃなかったけど……」


「ふーん、まあいいけど。じゃあ、ドワーフの所に行ったら紹介してね」


「あら、イヴさんはドワーフなんかに興味が有るの?」


イヴの願いを聞いたクリスが当然の疑問を口にする。


「興味があるっていうか…… お父さんがドワーフやエルフは精霊と仲が良いって、もしかしたら、彼らは人間より精霊に近い存在なんじゃないかって」


「面白い事を言うのね。人間じゃなくて精霊に近いなんてね。もし本当だったら、亜人じゃなくて亜精霊になるのかしら?」


笑いながら言うクリスに、クランが真面目な顔をして言う。


「僕達の国では彼等の事を妖精と呼んでました」


「妖精? 精霊とも人間とも違うのね。ふーん、それも面白いわね」


クランの真剣な表情に、クリスも自然と笑みを消して答える。


「それでどうするんだ? クリス」


それた話を戻すためにレナが口を開く。


「そうね、余りこちらの意図を感ずかれる事をしたくなかったんだけど、しょうがないわ。行きましょう、ドワーフの集落へ」


クリスが旅立つ事を決めると、皆が緊張した表情で頷く。


「出発は明日の深夜、ここにいるメンバーの他にグレックの六名で向かうわ。イヴさんとユリさんは初めての仕事なんだから、行って帰ってくるだけだからって気を抜かないようにね。この後、わたしはグレックと計画を詰めてくるから、あなた達はしっかり準備して、今日はゆっくり休んでおいて。予定も決まったし、さっさと食事を済ませて動くわよ」




野生の雌鹿亭で昼食を終えると、クリスはアジトに戻ると言い残して宿を後にした。

残されたクラン達は、イヴとユリの不足する装備と、保存食等の消耗品を確保するために市場へ向かった。


「そういえばクランは何で冒険者になろうとしたの?」


仕事のためとはいえ、市場を歩いている内に初仕事の緊張のほぐれてきたイヴが、思い出したように尋ねた。

突然の問いにクランは一寸びっくりした顔をする。


「そうだな。私も『剣を教えて欲しい』と請われて一緒に旅をするようになったが、クランがなぜ狩人をしながら剣の腕を上げたいと思ったかは聞いていなかったな。もちろん言いたくなければ無理には聞かないが……」


話をする事で彼女達の緊張が少しでもほぐれるならと、レナもクランを見る。

もちろん、彼女もクランが冒険者になろうとした理由に興味が無い訳ではなかった。

それは、最近では見る事も無くなったが、初めて会った時のクランの気配に危うい物を感じていたからだ。

自分に皆の視線が集まる中、クランは記憶を無くしていた時に、なぜあれほど剣にこだわっていたかを考える。

だが、いくら考えても心当たりは一つしかなく、それを口にして良いか判断できなかった。


「クランさん、言いたくないのでしたら無理に言わなくても……」


ユリが彼の苦渋に満ちた表情を見て言う。

だが、クランはイヴが冒険者を選んだ理由や、ユリが神の声の内容を話した事を思い出し、自分がなぜ冒険者の道に足を踏み入れたのかを語りだす。


「敵討ちです。そのために僕は生きています」


冒険者に憧れて、一攫千金を夢見て、強くなりたくて等のクラン位の少年が語りそうな事を想像していたイヴは凍りつく。

クランの答えを聞いたレナは、心の中でどこか納得している自分を感じていた。

彼がなぜあそこまで一途に剣を振っていたのか、なぜ憎しみの篭った眼差しをしていたのか、それらの疑問がすべて氷解したからだ。

そう、復讐とは最も強い感情の一つなのだから。


「……ごめん、聞いちゃいけない事だったみたいだね」


イヴがクランに謝ると、彼は儚く笑いながら答える。


「気にしないで、一緒に旅する人間になぜ冒険者になろうとしたか聞いただけなんだから。僕の方こそごめん、つまらない理由で」


その後、口数の減った一行が黙々と必要な物をそろえ終えると、クランが取って付けた様に三人に提案する。


「ごめん、旅の準備も終わったし、この後僕は用事があるからここで解散でいいかな?」


「あたしはいいけど……」


イヴがレナとユリを見ると二人も頷く。


「ごめん、じゃあ夜までには宿に戻るから……」


そう言い残して街の雑踏にクランが向かう。


「悪い事聞いちゃったかな……」


イヴの後悔の呟きに、一時期とはいえクランが冒険者の道を選んだ事を不満に思っていたユリも言葉なく俯く。

自分には気付かない所で苦しみを抱え、それを隠しつつも他人を思いやる彼の姿に、ユリは胸が締め付けられる。

そして、レナはクランの後姿を見送りながら複雑な表情を浮かべていた。


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