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ルイザの街で新たな仲間の訓練を初めて一週間ほど経つと、ユリとイヴの動きに差が出てきた。
「ユリの方が軸がしっかりしてきたね」
最近始めたイヴとユリの打ち合いをいつもの場所で見ながら、レナが同じく隣で二人を見ているクランに話しかける。
「そうですね。イヴさんは反応しようとしていますけど体幹が弱い気がしますね」
「体幹?」
聞きなれない単語に、レナの陰から顔を出したクリスが聞き返す。
「えーと、体の胴体部分の筋肉の事です」
「ふーん、それが弱いとどうなるの?」
「十分力を発揮できなくなります」
「へ~、でもあの二人同じ訓練してるわよ。見て分かるほど違いが出るかしら? 最初の頃はイヴさんの方が良い動きをしてたんだから」
「ですよね~。二人に聞いてみますか……」
「……って事で、あなた達心当たりない?」
「心当たりない? って聞かれましても」
「ねー」
突然クリスに問いかけられた二人は顔を見合わせる。
「どんな些細な事でもいいんですけど……」
クランが聞くと二人は一日の事を振り返る。
「心当たりね~。朝起きたら街の外走って、お昼食べて、レイピアの練習して、クリスさんの家に戻って、体拭いて、固いパン食べて、ユリに神聖魔法使ってもらって、それで寝るだけかな~」
「あなた、固いパンって…… 肉も付けてるでしょ、肉も! あなたがお腹へったってうるさいから付けてるんだから! それと訓練して寝る前に神聖魔法って、どこのボンボン騎士よ……」
「だって、お肉固いんだもん。火を使っちゃダメって言うから、煮る事もできないし。それと、ユリに神聖魔法使ってもらうと、次の日体が痛くないの。より身の入った訓練ができるって感じ」
イヴの話を聞いているクリスが呆れている横で、クランがぶつぶつ独り言をつぶやいていた。
「どうしたんだい、クラン?」
レナが問いかけると、考えるのを中断したクランがクリスに尋ねる。
「訓練した後、神聖魔法をかけてもらう騎士って多いんですか?」
「そんな訳無いじゃない。いくらかかると思ってるのよ? そんな事するのは、金持ちの貴族の息子が騎士団に入った時だけよ」
「その騎士の腕は立つんですか?」
「そんな訳無いでしょ。訓練で疲れたからって、神聖魔法で癒してもらう人間が強い訳無いじゃない。何処の騎士団でもお荷物よ。やる気が無いのよ、やる気が」
「じゃあ、神聖魔法が原因かもしれないですね」
クランの言った事が理解できないといった感じで、クリスが疑問を投げかける。
「なんで?」
「なぜ人は訓練をすれば、強くなるか分かりますか?」
「訓練したからでしょ」
クリスは当然の答えを口にしたが、クランの答えは異なっていた。
「違います。訓練は手段であって、原因ではありません。偉そうなことを言って僕もきちんと説明できませんが、訓練を行う事によって体に負荷をかけると、その部分が今まで以上の負荷に耐えられるように超回復するんです」
「超回復?」
「そうです。例えば限界まで重い物を持った後に十分な休養を取る事によって、今まで以上の重量物を持てるように体が回復する事です」
この世界の人間でも理解できるように、言葉に気を付けながらクランが説明する。
「それあなたの国の知識?」
「はい」
「相変わらず変な事知ってるのね、まあいいわ。イヴさん、あなた今日からユリさんに神聖魔法かけてもらうの禁止ね」
「なんで!?」
クランとクリスの会話を聞き流していたイヴが驚きの声を上げる。
「なんでじゃないわよ。人の話聞いてたの? 神聖魔法で楽してたら訓練の効果が無いって言ってるの。ねえ、クランさん」
「無いとは言いませんが、十分な効果が出ないっていう事です」
クランの言葉にイヴは不承不承頷く。
「分かった。クランが言うならそうする」
「あなた…… まあ、いいわ。そうして……」
怒る気力もなくしたクリスが疲れたように口にした。




