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異世界での過ごし方  作者: 太郎
願い(仮)
86/130

84

昼食のためクランとレナの定宿である野生の雌鹿亭に着くと、草々にクリスがエールを注文していた。


「ちょっと、お酒なんか飲んであたしにちゃんと武器の使い方を指導できるんですか?」


「大丈夫よ。あなた相手に酔ってるからって不覚を取る訳ないじゃない」


クリスが笑いながら答えると、イヴが「見てなさい」と聞こえないように一人ごちる。

レナが二人を楽しそうに眺めていると、昼食時から外れているため頼んだ食事が直ぐにテーブルに運ばれた。


「食べようか」


レナの合図に皆が舌鼓を打つ。


「やっぱりちゃんとした宿の食事は美味しいね。誰かさんの所に泊まってるから、昨日の夕食はろくなもの出なかったもんね、ユリ」


昨日からクリスのアジトに泊まっているイヴが、自分と同室で生活している少女に話しかけた。


「そんな事無いですよ」


アジトの主の前で、出された食事の不満を口にするイヴにユリは困ったように答える。


「え~、固くなったパンに干し肉だよ。あたしは顎が痛くなって全部食べられなかったんだから」


「噛めば噛むほど味がするのよ、お酒のあてに丁度いいじゃない。ワインの入った水筒も一緒に渡したでしょ」


エールを口に運びながら、心外だといった様子でクリスが抗議する。


「あたしもユリもお酒飲まないもん。クランも飲んだ所見た事無いから、クリスさんだけじゃないの? お酒飲むの」


「レナも飲むし、クランさんも……」


そこまで口に出した所でクリスは自分の失言に気付く。


「クランもお酒飲むの?」


だが、一足遅くイヴがクランに話しかけていた。


「好きで……」


「さて、そろそろ訓練に戻りましょうか!」


クランが答えようとすると、エールを一気に飲み干し、声を張り上げたクリスが言葉をかぶせる。


「ちょっと、あたしもユリもまだ食べ終わって無いよ」


「早く食べるのも冒険者の必須技能よ!」


聞く耳持たず、といった具合のクリスに辟易したイヴは、レナに助けを求めるが――


「……クリスの言う通りだ」


無理やり口の中に食事を詰め込み飲み下したレナが答えた。


「うそ!」


味方だと思っていた人物に裏切られたイヴは、絶望の表情を浮かべ無謀な戦いに挑むのだった。




「気持悪い……」


野生の雌鹿亭を後にしたクラン達が街の外へ向かい歩いている最中、イヴはおぼつかない足取りで口元を押さえていた。






「さて、始めましょうか!」


ルイザの街から出た一行は、午前と同じ場所でイヴとユリの訓練を開始する。

クランはユリに杖の基本的な構えや持ち方、そして相手からの攻撃を受けた時の足さばきや、体の使い方を丁寧に説明する。


一方、イヴにレイピアの使い方を教える事になったクリスは、彼女に剣の持ち方を教えた後、早速打ち合いを始めた。

クリスの突きを中心にした打ち込みに、イヴは体勢を崩しては何度も倒れこむ。

二人の様子を見ていたレナは流石に二人に打ち合いを止めるように告げた。


「この位で倒れてどうするのよ、ちゃんとやりなさい」


荒い息をしながら地面に座り込んだイヴにクリスが言う。

イヴもいつもの様に文句を言うではなく、黙ってクリスの言葉を聞きながら息を整えていた。

二人の様子を見ていたクランもユリに休憩を取る様にいうと、イヴの元に向かう。




「大丈夫?」


自分に向けられたクランの心配そうな視線を受けたイヴは、立ち上がろうと足に力を入れるが、あと少しの所で膝から崩れ落ちる。

(これじゃあ最初にクリスさんに言われた通り役立たずじゃない!)

思う様に動かない自分の足を、潤んだ瞳で見る。

自分の不甲斐なさが涙となって瞳から溢れそうになると


「大丈夫ですよ」


いつの間にかイヴの足元に跪いていたユリの声が聞こえた。


「大丈夫」


もう一度言葉にすると、ユリは小さく祈りの言葉をつぶやいていた。


「どうですか?」


ユリの問いかけにイヴがゆっくり立ち上がると、先ほどまで痛みで力が入らなかった足が嘘の様に軽くなっていた。


「もう平気みたい……」


イヴが口にすると、ユリはいたずらっぽい目をする。


「じゃあ、次はクリスさんにお返ししないといけませんね」


「そうね、あたしがクリスさんに『ちゃんとやって』って言ってやる」


笑いながら言うと、イヴは意気揚々とレイピアを持ちクリスに向かった。




「神聖魔法を使ったのに休まなくて平気?」


イヴに奇跡を願って休む間も無く杖の練習に戻ろうとするユリに、クランが気遣う声をかける。


「私が辛そうにしていたらイヴさんが気を使います。だからクランさんも心配しないで下さい」


クランはユリに頷くと、彼女に気付かれないように訓練のメニューを変更する事にした。


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