83
遅くなりましたが、83話投稿いたしました。
また、0話を追加いたしましたので、興味がある方はご覧になって下さい。
今後も、よろしくお願いいたします。
「それ、ただの落ちてた棒じゃないの?」
手に120cm程の杖を持ったクランを出迎えたクリスの第一声がそれだった。
刃引きしたレイピアを持ってクランと一緒に戻って来たレナも思わず苦笑する。
「失礼ですね、れっきとした杖です。ところで二人はどうしたんですか?」
クランはクリスの言葉に憮然とするが、地面に座り込んでいたユリとイヴを見て疑問を口にする。
何処と無く恨めしそうな視線をイヴが向けているのは気のせいだろうか?
「気にしなくていいわ、さっきまで走っていたから休んでるだけ。わたしがクランさんと打ち合ってみるから、あなた達はそこで見てなさい」
二人が分かりましたと答えると、クランが珍しく愛想笑いをしながらクリスに相談する。
「杖術は自信が無いんで、剣は一本だけでお願いできますか?」
クランと距離を取り双剣を構えようとしたクリスは、苦笑して左手を剣の柄から離し右手だけ剣を持った。
「さて、その棒で何処までやれるか見せなさい!」
クリスの声を合図にクランも構える。
右足を前にした右半身構え。
左手で杖の端を持ち頭の上に置き、右手は杖の真ん中を持ち肩の高さで相手の方に腕を突き出した上段下の構えを取る。
クリスは前下がりに杖を持つ独特の構えに困惑する。
クランの上段には杖があって切り込めない。
足を狙おうにも、杖が前下がりに膝辺りまで来ているために少し動かすだけで簡単に防げるだろう。
(確かに相手の攻撃を受けるのには適しているかもね。クランさんも護身術って言ってたし。だけどこのまま見ててもしょうがない、仕掛けてみようかしら)
考えがまとまると、クリスはフェイントのため真っ直ぐ右足を踏み出た後、クランの背中に回りこむように左にサイドステップする。
クランもクリスと正対するように時計回りに動くが、一瞬早くクリスが右手に持った剣で左上から袈裟懸けに切りつける。
だが、クランはクリスの振り下ろそうとする右腕の下に杖を差し込む。
クリスは斬激を止められた事に舌打ちをしながら、今度は右に移動すると、クランは杖を持った左手を中央よりにずらし、左足を踏み込みながら杖の左端で打ちつける。
クリスは突然間合いの変わった相手の攻撃を、持ち前の身体能力を発揮し後ろに飛び退る。
相変わらず想像を超えるクリスの動きに驚きつつも、クランは左手を離し右手を突き出す。
流石にそれは避けきれなかったクリスは、初めてクランに一本取られる事になった。
「驚いたな」
クリスがクランの突きを避けきれなかった事に、自然とレナの口から感嘆の言葉が漏れる。
普通の棒一本で、本気では無かったにしろクリスの攻撃を凌ぎ反撃まで加えたのだ。
イヴとユリもクランの巧みな杖さばきに見入っていた。
「間合いが持ち方で変わるのが厄介ね」
クリスが鞘に剣を収めながら杖術の感想を口にする。
実際に戦った相手からの賛辞にクランは胸を撫で下ろす。
「真正面から剣を受け止めたら流石に木なので折れますけど、そこは体術と組み合わせたり、金属で杖を補強したりすれば実戦で使えるようになると思います」
クランの説明を聞いたレナは、杖の有用性を認め最後の判断をユリに委ねる。
「相手を打ち倒すのには殺傷力に不足するところもあるが、身を守る事に関しては十分有効だと思う。ユリはどう思う?」
「私に覚えられるでしょうか?」
クランの流れるような動きに見惚れていたユリが不安そうに尋ねる。
「大丈夫です。僕もできる限り手伝いますから、一緒に覚えましょう」
クランの言葉に、ユリははにかみながら彼に向かって頭を下げる。
「よろしくお願いします」
その表情には、必要な事だと理解していた辛い訓練に、一縷の楽しみが加えられた喜びが溢れていた。
二人の得物が決まったところで、クリスが今後の予定を告げる。
「イヴさんにレイピアの使い方はわたしが教えるわ。ユリさんに教えるのは勿論クランさんね。レナは見ていて気になったところが有れば指摘して。遅くなったけど街に戻って昼食を食べた後、ここで二組に分かれて訓練を再開しましょう」
皆が頷き街へ歩き出すと、最後尾を歩くイヴがクランとユリの後ろ姿に思わず本音をつぶやく。
「いいな~、ユリはクランと一緒に訓練できて」
ただ一人、そのつぶやきを聞き取れたクリスは思わず口元に笑みを浮かべた。




