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異世界での過ごし方  作者: 太郎
願い(仮)
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昨夜、クリスからの話を聞き終えた後、彼女からアジトに泊るように告げられたイヴとユリは、自分達が今夜の宿泊場所の事をすっかり忘れていた事に思い至り、ルイザの街までの旅で蓄積された疲労で重くなった足で宿を探さなければならない事から開放された事にほっと息を吐いた。


だが、翌日早朝から起こされ、クリスに渡された安物でチクチクするが風通しだけは良い服を身に着け街の外を走るように指示されると、昨日の感謝の気持ちなど吹き飛び、イヴは思わず隣を走るユリに愚痴を口にする。




「何であたし達は町の外をひたすら走ってるのかな?」


早朝からルイザの街の外壁から放り出され、不機嫌そうに走っているイヴとは対照的に、邪魔にならないように一つに留められた栗色の髪が文句も言わずに彼女の走りに合わせ左右に揺れる。


「冒険をする上で ハァ 追い込まれた時に ハァ あきらめない精神力を ハァ 身に付けるためって ハァ 言ってましたけど ハァ」


イヴに比べ体力的に劣るユリが、苦しそうな表情ながらも途切れ途切れに律儀に返答した。


「あたしには、ただの嫌がらせにしか感じないんだけど」


「でも ハァ レナさんもクランさんも ハァ 賛成らしいですよ ハァ」


「そうなんだけどね」


もしイヴとユリが自分達の仕事の内容を聞いてもパーティーを組むと言ったら、二人の訓練は人目を避けるためにルイザの街の外ですると三人で決めていた。とよりによってクリスに言われた事を思い出し、イヴは不満そうに口を閉ざす。

その様子を見たユリは、三人で決めた事をクリスから告げられた事に不満そうな表情を浮かべているイヴに、二人の仲の悪さを憂い心の中でため息をついた。






「あら、思ったより早かったわね」


言いつけられた周回をこなし疲労困憊といった感じのユリと、さすがに肩で息をしているイヴを、ゴール地点と事前に決めていた街の外の木の幹に寄りかかっていたクリスが出迎えた。

辺りに人がいない事をいい事に、イヴがグランデル公国領らしく緑に溢れた草原に倒れこむと、クリスがそれを咎める。


「しゃんとしなさい。この位でへばってたら訓練にならないわよ。ほら、レナとクランさんも来るわよ」


クリスの向けた視線の先に二人の姿を見つけると、だるそうに返事をしながらイヴが立ち上がる。


「は~い」




「お疲れ様。大分走らされたみたいだね」


着いて早々、クランがイヴの様子を見て彼女を労う。


「本当に走る事に意味あるの?」


「昨日説明したでしょ。苦しい時こそ平常心を保つ事が生き残るのに大事なんだよ。これでも一応先輩なんだから、先人の知恵だと思って我慢して」


悪戯に走っていた事に納得のいかない様子のイヴをクランが宥めていると、苦笑しながらレナが二人に話しかける。


「二人は今まで使った事のある武器とかあるかな? あればそれを使ってもらうし、無い様だったら自分にあった武器を選ばないとならないからね」


「今まで武器を使った訓練はした事無いんだけど、使うならレイピアがいいな。お父さんとお母さんも使ってたから」


レナは精霊使いにレイピアを好む者が多い事を知っていたため、イヴの選択は特に問題ないと判断した。


「私はできれば人を傷つけるような物は使いたくないのですけど……」


レナがイヴの答えに頷くのを見たユリは自分の考えを口にするが、それが冒険者としては甘すぎる事だと自覚しているため、口にした言葉は尻すぼみになる。

レナとクリスもエリム村で彼女が経験した恐怖と絶望を考え、他人を傷つけたくないという彼女の気持も理解できるため難しい表情を浮かべる。

確かに冒険者として生きて行くのには自覚が足りないといえるかもしれない。

だが、愛と豊穣の女神 ファムの声を聞いた少女に剣を持って敵を討てと言う事は、決して強制できない事だ。

下手をすれば人を助けたいと冒険者になった彼女の想いを歪め、その事が原因で神聖魔法を失うかもしれない。

三人がジレンマに陥っていると、クランがユリに提案する。


「剣や槍ではなくて、杖はどうですか?」


「杖? 魔法使いが持つ様な? そんなのどうするの?」


クランの発言を聞いたクリスが当然の疑問を投げかける。

この世界で杖といえば、老人が持つ物か魔法使いが持つ物と相場が決まっているからだ。


「魔法使いが持つ杖がどんな物か知りませんけど、僕の国では杖術というものがあったので。あまり詳しく知っている訳ではないですけど、護身術として有効だったと思いますし、素手より何倍もいいと思います」


レナはクランの言葉を吟味するが、素手より良いというのには確かに一理ある。


「クランは杖術を使えるのかい?」


「うろ覚えなので自信は無いですけど」


不安そうなクランの様子に、レナとクリスが答えに窮していると……


「覚えている所だけでも教えてくれませんか?」


杖術に興味を持ったユリがクランに教えを仰いでいた。

クランがレナとクリスを見ると、レナの意を汲んでクリスが答える。


「取り合えずわたし達にも見せて貰おうかしら?」


未知の武器に対しての、ごく普通の要求にクランは二人に分かる範囲で杖術を披露する事にする。


「……でも、今杖持ってないので街で使えそうな杖を探してきますね」


「そこからなのね……」




杖術に適した杖を求めてクランがルイザの街に向かうと口にすると、レナもイヴの訓練に使うレイピアを見つけるために一緒に街に向かう事にした。


二人が席を外すと、持て余した時間をどう使おうか考えたクリスがユリとイヴに指示する。


「二人が戻ってくるまで走りましょうか?」


「え゛」


思わず言葉にならない声をイヴが出すと、クリスが笑みを浮かべ繰り返す。


「走りましょうか、ぼーとしていても仕方ないでしょ」


ユリが素直に返事をして走り出すと、しばらくクリスを睨み付けた後にイヴが走り出す。


「ちゃんと用意してから言いなさいよ! 恨むからねクラン!」


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