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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
8/130

6

翌朝、目を覚ましたクランとグレンは、ユリが朝早くからファムの神殿に礼拝に出かけていたため、いつもより遅めの朝食を二人で取っていた。

朝食を食べ終えた二人は、荷物を背負い持ってきた毛皮と干し肉を売りに出かける。

何件か店を回り、最も高い値をつけた店で買い取ってもらった後、一度宿に戻り荷物の整理をする。



「クラン、お前の取り分だ」


部屋でバックパックを広げているクランに、グレンが銀貨4枚を差し出す。


「え、いいの?」


思ってもいなかった事に驚いたクランに、ぶっきら棒にグレンが言う。


「お前が仕留めた雌鹿の分だ。遠慮するな」


居候をさせてもらっている上に金銭を受け取る事にクランは躊躇するが、グレンは彼の手に強引に銀貨を握らせる。

恐縮しながら礼を口にするクランに、彼に気付かれないように口元をほころばせながらグレンは黙々と荷物の整理を続けた。




荷物の整理が終わったクラン達は、昼にユリと待ち合わせの約束をしていたので街の中心部にあるファムの神殿に向かう。


クランが興味深そうに石造りのファムの神殿を見ると、窓にはほとんど見かける事の無いステンドグラスが嵌められ、建物の中には60人位は余裕で入れそうだった。

神殿の建てられている場所も考えると、ファムはこの街では大きな力を持っている事が容易に想像できる。

礼拝にくる人々の邪魔にならないように、クラン達が神殿の少し離れた場所で待っていると、ユリが小走りで向かってくる。


「ごめんなさい。待ちました?」


息を切らせているユリに、クランは今着いたところと答えると三人で市場に向かう。


市場は多くの人々で賑い、露店の店員が大きな声を出し道行く人々に商品を売り込んでいた。

まずは腹ごしらえをしようということで、三人は食べ物を売っている露店を探すことにする。

肉を焼く香ばしい匂いにつられて行ってみると、豚肉を串に刺し塩とハーブで味付けした後、薪で焼いている店に辿り着く。

あまりに美味しそうに見えたので、昼食には少し早かったが店員に代金を支払い、熱々の肉の刺さった串を3本受け取る。


「私、こんなふうに歩きながら食べるの初めてです」


串に刺さった肉を上品に口に運びながらユリが楽しそうに言う。


さっさと肉を食べ終えたグレンは、小麦粉や塩などの食料品の他に洋服などを物色する。

グレンに遅れて食事を終えたユリとクランは、一緒にアクセサリーを取り扱っている店を興味深そうに見て回る。


「にーちゃん、彼女にどうだい?」


木製のアクセサリーを主に取り扱っている露店をユリが見ていると、男の店員が声を掛けてきた。

ユリが顔を赤くしながら律儀に彼女じゃありませんと訂正すると、調子に乗った店員が更にからかいの言葉を口にする。

その間にクランは置かれている商品を見ると、調子の良い店員に声をかける。


「これとこれを下さい」


クランは店員に二つの商品を指差した。

一つはユリがじっと見ていた小さな花が彫られた可愛いらしい髪飾り、もう一つはシンプルな髪留めだった。


「彼女が可愛いから特別に二つで小銀貨6枚でいいや、まいどありー」


代金を支払ったクランに、威勢よく礼の言葉を口にしながら店員が商品を渡す。

商品を受け取ったクランは、ユリに髪飾りを差し出しながら言った。


「これ、エリム村で宿まで案内してもらったお礼なんだけど、受け取ってもらえるかな」


ユリは手を左右に振りながら答える。


「そんな、悪いですよ。私の家まで行っただけですし、そもそもお客さんだったんですから」


「でも僕も親切にしてもらってうれしかったし、ほんの気持ちだから」


二人のやり取りをニヤニヤ見ていた店員がユリに言う。


「せっかく彼氏がプレゼントしてくれるんだから貰っちゃいなよ」


ユリは店員に彼女じゃありませんと言った後、クランの差し出している髪飾りを受け取る。


「ありがとう、大切にするから」


ユリは胸に髪飾りを抱きながら、嬉しそうにクランにお礼を言うのだった。




買い物を終えたグレンが先に宿に戻るというので、クランはユリと二人で露店を冷やかしながら歩く。

途中で大道芸人を見つけると、口にするか悩んだ末にユリが見たいとクランにお願いする。

クランは彼女の見やすい場所を確保すると、ジャグリングやアクロバットなどの大道芸を顔を目を輝かせたユリと一緒に見る。


その後も二人で市場を見て周り、すっかり暗くなって来た頃に宿屋に戻った二人をニヤニヤした顔のユリの叔母が出迎えた。


「こんな時間まで嫁入り前の娘を連れまわして、それともあんたがユリを貰ってくれるのかい?」


「叔母さんなに言ってるの! クランさんに迷惑でしょ!」


ユリは顔を赤くしながら叔母に文句を言うと自分の部屋に走っていった。


「あらあら、からかいすぎたかしら」


そう言いながら肩をすくめたユリの叔母は厨房に歩いてく。


「遅かったな」


クランが部屋に戻ると、暇そうにしていたグレンの言葉が出迎えた。




夕食の時間になりクランとグレンが食堂に行くと、プレゼントされたばかりの髪飾をつけたユリが遅れてやってきた。


「似合ってるよ」


クランが自然に思ったことを口にすると、彼女ははにかみながら小さな声でありがとうと答える。

今日までにだいぶ親密になった二人は、食事をしながら旅の最後の夜るを惜しむように夜遅くまで話をした。

その間、居心地が悪そうにしていたグレンはひたすらエールを飲み、すっかり酔いの回ってきたグレンが部屋に戻って寝るというので、二人も部屋へ戻ることにする。


「今日はとても楽しかったです。ありがとう」


別れ際、ユリは名残惜しそうにクランに就寝の挨拶をして自分の部屋に戻り、それを見送ったクランも部屋に戻り眠りにつくのだった。

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