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「なんのつもり?」
イヴの命を刈り取るはずの剣を持った自分の右腕を掴んでいるレナを見てクリスが問う。
「勝負はついた」
「その子、まだ生きてるじゃない」
クリスはイヴに剣を突きつけたままレナに言った。
「イヴさんが生き残ったら私達のパーティーに入れてもらえ、とお前は言っただろう?」
「ええ、そう言ったわ」
「なら問題ない。私達が今イヴさんをパーティーに誘う。そうすればお前達が戦う理由も無い」
剣先を逸らさずクリスは器用に肩をすくめる。
「あら、随分勝手ね。わたしはあなた達が困ってたから、憎まれ役を買って出てあげただけじゃない。もっとも、こんな気の強い子を殺せるなんてわたしにとっては役得だったけどね」
自分に剣を突きつけている人物から視線を外さないイヴを見てレナが言う。
「死が目前に迫っても自分の信念を貫く。なかなか出来ない事だ。それに、お前との戦いは見事だった。これほど将来有望な冒険者の卵をここで終わらせるのは惜しい」
「……そう、じゃあ好きにすれば。でも本当に使えるようになるの、その子? 得意な地味魔法も簡単に避けられたわよ、わたし」
つまらなそうに吐き捨てたクリスがレナの手を振り払い双剣を鞘に収めると、流石にほっとした様子のイヴが口を開く。
「これから訓練すれば、きっとあなたより強くなれます」
「これからって…… そんな時間無いって言ったでしょ、わたし。精霊魔法のほかに出来る事ないの?」
一瞬言葉に詰まると、イヴは小さい声で答える。
「……野営の準備とか、料理とか……」
「料理?」
クリスに聞き返され恥ずかしそうにイヴは俯く。
やはり料理はないかと考えながら。
「旅の間に作った事あるの?」
クリスの更なる質問に、どんな嫌がらせだと彼女に対する嫌悪感を募らせながら、やけくそ気味にイヴは答える。
「当たり前です。クランといる間は私が作ってました」
「そう、クランは何か言った?」
「別に、いつもニコニコしながら食べてくれてました」
イヴの答えを聞いた瞬間、クリスは笑みを浮かべながらレナに話しかける。
「レナ、わたしはこの子をパーティーに入れる事に賛成よ。まったくイヴさんも意地が悪いわね、そういう事は最初に言わないと」
「は?」
突然豹変したクリスの態度にイヴは間抜けな声を上げる。
「そうだな、そういう事は最初に言わないとな」
「え?」
腕組みをして頷くレナに思わず間抜けな声を出す。
「クランさんもいいわね。じゃあ今日からよろしくね、イヴさん」
パーティーメンバーに話を通しておかないと不味いだろうといった感じで、クリスがクランに聞こえるように言った。
「私達の仲間になったからには他人行儀な呼び方は止めないとな。今日からイヴと呼ばせてもらう。私の事はレナでいい」
クリスに切られたイヴの傷口を止血しながらレナが言う。
「あ、よろしくお願いします」
事態の急変について行けないイヴは、喜びも沸くまもなく彼等の仲間になっていた。




