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異世界での過ごし方  作者: 太郎
願い(仮)
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地面に目を向けたまま口を閉ざすイヴを三人が見つめる。

レナもクリスも意識不明のクランを献身的に介護するイヴの様子から、彼女が彼に対して特別な感情を持っている事はうすうす感じていた。

時々交わした言葉から、彼女もクランと同じ冒険者になろうとしている事も理解している。


だが、自分達に関われば駆け出しの冒険者の危険度は跳ね上がる。

彼女の身のこなしや、細腕を見れば冒険者として生きていくには相応の訓練が必要だろう。

最初は薬草取りや荷物の配達などで生活の糧を得ながら、ゆっくり時間をかけて技術や経験を身に付けていった方が彼女のためになる。

それら皆の共通の考えをレナが言葉にする。


「イヴさん、あなたが冒険者になろうとしているのは前に聞いた。だが、いきなり熟練の冒険者と同じ事をするのは危険だ。あなたの両親もそんな事は望んでいないだろう。幸いルイザの街は大きな街だ。駆け出しの冒険者でも生活するには困らない位の依頼は有る。そこで徐々に力を付けてから難しい依頼に取り組んだらどうだろう? その過程で仲間も出来るだろう」


「……両親は、今は居ません。それにあたしは精霊魔法なら四大精霊すべての力を借りられますし、中級の『岩槍』の魔法も使えます。冒険者として必要な事は両親から教えられてきました。きっと役に立てます、だから……」


イヴは顔を上げてレナを見る。


彼女の真摯な視線を受けたレナは思う。

イヴの歳で中級の精霊魔法が使え、その上四大精霊すべての魔法が使える。

生まれながらに精霊使いとしての才能を持ち、その上努力もして来たのだろう。

熟練と呼ばれる冒険者にも中級の精霊魔法を使えない者もいる。

魔法使いにしろ、精霊使いにしろ、絶対数が少ないからだ。

きっと彼女なら上級の精霊魔法にもいつか手が届くだろう。

本音を言えば精霊使いが仲間になれば心強い。

先日のワイバーンの時もあれほど苦戦しなかったかもしれない。

だが、それでも歳若い彼女を危険な仕事に巻き込む事ははばかられた。




「中級の精霊魔法で使えるのが『岩槍』って事は、あなたの得意な魔法は土系? 地味ねー」


レナが考え込んでいると、二人の会話を黙って話を聞いていたクリスが茶化す。


「いいでしょ、別に! そもそもあなたには関係ないじゃない! クランのパーティーメンバーじゃないんだから!」


パーティーに入れてもらうお願いをしている最中にも関わらず、本人も気にしている事をずけずけと指摘してきた人物に思わず敵意の篭った視線を向ける。


「何で冒険者なんかになりたいのよ? わざわざ危険な仕事に就く事なんかないでしょ? 早死にしたいの?」


イヴがはじめてみる真剣な表情でクリスが問う。

そんな彼女にイヴは自分の思いをぶちまける。


「子供の頃から精霊魔法を冒険者の両親から教わってきたあたしは、他の生き方を知らない。だけどその事を不満に思った事はない。両親は、命を預けられる仲間と共に必死に生きる事は何事にも変えがたいと言っていた。死んでしまう事も有るかも知れない。でも、誰もいない家で一人で生きてそこで人知れず死ぬ事に意味が有るとは、あたしは思えない。もしかしたらルイザの街で簡単な依頼をこなしている内に、この人達となら死んでもいい、そんな仲間に出会えるかもしれない。でも、今あたしはそんな人に出会っているの!」


真っ直ぐ自分を見据えながら、最後は叫ぶように話すイヴに、クリスは悩んだ後一つの提案をする。


「……しょうがないわね。そんなに早死にしたいならわたしと戦いなさい。あなたが勝ったらクランさんのパーティーに入れて貰いなさい。でもわたしが勝ったら諦めなさい。ルールは簡単、生きていた方が勝者で、死んだ方が敗者よ。どうせ早死にするなら今日死んでも一緒でしょ。レナもクランさんもそれでいいわね」


突然の提案にも関わらず、イヴは迷う事無く頷く。

レナも彼女の意思が固い事を見ると、クランを一瞥した後二人に告げる。


「私が立会人を勤める。どんな事があっても双方相手を恨まないように」


「わかったわ」

「はい」








「ごめんなさいね~、準備に時間掛かっちゃって」


松明を持った三人が辺りに人のいない場所で待っていると、愛用の剣と皮鎧を身に着けたクリスが歩いてきた。

全員揃った所でレナは緊張した面持ちのイヴに声をかける。


「準備はいいかな?」


「はい」


答えながらイヴは持っていた松明をクランに渡す。

彼女の装備といえば、丈夫に作られた旅の服に、剣の修練などした事が無かったため上手く扱えない武器は持たず、攻撃の手段は精霊魔法だけだった。


クリスとイヴは立会人であるレナからお互い十歩ほど離れた所で向き合う。

イヴは何度か手を握り締めると軽く重心を落として初めての戦闘に備える。

それを見たクリスはゆっくりと双剣を抜く。

瞬間、辺りに殺気が満ちる。

いままで余裕のある笑みを浮かべ、どこか人を食ったような態度からの豹変にイヴは息を呑む。

自分に向けられた殺気に自然と膝が震え出す。

生まれて初めて向けられた視線に、同じ人間同士で命をやり取りする恐怖に視界が歪む。

だが、彼女本来の負けん気の強さと、クランと共に旅をするという強い決意が逃げ出したい気持ちを押さえ込む。

覚悟を決めるために自分の頬を叩き、大きく息を吐き出すと膝の震えが収まる。




レナは、イヴがクリスの殺気に飲み込まれず抗おうとする事に感嘆する。

'殺人鬼'の二つ名は伊達ではない。

駆け出しの冒険者はクリスの放つ殺気に気味の悪さを感じるが、気付いた時には死んでいるだろう。

多少腕のある冒険者なら殺気に飲まれ本来の力を発揮できないうちに勝負がつくだろう。

だが、イヴはクリスの危険性に気付きながら、それに飲み込まれないように自らを奮い立たせた。




「へ~、いい目をしてるじゃない。殺すのが楽しみね」


自分に向けられたイヴの目を見てクリスが唇を舐めながら構える。


二人が共に構えた事を確認すると、レナが殺し合いの開幕を宣言した。


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