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異世界での過ごし方  作者: 太郎
願い(仮)
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71

前話が短かったので、がんばって連投してみました。

ヘリオン帝国の黒骸騎士団の急襲を受け、廃墟となった村の外に生気を失った村人達が寄り添うように座り込んでいた。

長年住んできた愛着のある家を失った悲しみ、こんな田舎の村いつか出ていってやると思いながら、気付けばここで死んでゆくのも悪くないと思う様になっていた村への想い、胸中は人それぞれだったが、突然見舞われた悪夢によって全てを失った喪失感は村人の共通した思いだった。


そんな沈んだ雰囲気の集落のはずれに設置されたテントの中に、黒髪の少年が横たわっていた。

どことなく見た者に安心感を与える優しげな顔立ちは、深い疲労によるものか蒼ざめており、固く閉ざされた瞳は見る者に痛々しさを与えていた。

彼の隣に折り畳まれ置かれた毛織物がまだ温かい事から、先ほどまで誰かが傍らに座っていたと察せられる。


彼が小さく身じろぎすると、目蓋によって覆われていた黒い瞳が露わになる。

その瞳は意識が戻り切っていないのか、狭いテントの天井をぼうっと見つめていたが、視点が合うにつれ徐々に意識が覚醒してゆく。

記憶は混乱し霞がかかったようだったが、一つだけ分かる事がある。


「死に損なったのか……」


顔の前に手をかざしながらつぶやく。

彼の浮かべていた表情は、生きていた事に安堵する表情ではなく、劇の第二幕が本人の意思とは関係なく開始された事に対する苦悩。

自ら死を選ぶ事はしない。自分が殺めた命に帝国に復讐すると誓ったから。

だが、自分が生きている事に常に嫌悪感は抱いていた。

幼馴染が死んだのになぜ生きているのかと。

元の世界では幼馴染を殺めた犯人に復讐するためにだけ生きた。

しかし、元の世界で過ごした地獄のような七年間と、この世界で幾つかの季節を過ごすうちに、本人も気付かず心はすり減っていた。

元の世界には戻れない、ならばこの世界で凄惨に死ぬ。もう一つの復讐を果たすため。

その思いだけが心の片隅に泥のように蓄積していた。


物思いにふけっていた彼は見つめていた手を下す。

望んだわけではないが始まってしまったものは仕方がない。

殺めた少女への誓いを果たすためにあがき続ける。

死を迎えるその瞬間まで。


彼が暗い決意を固めたころ、テントの入り口から中を覗く姿があった。

太陽に照らされ金髪にも見える栗色の髪をした少女が、自分に向けられた視線に一瞬驚いた表情を浮かべるが、それはすぐに安堵の表情に変わる。


「クラン、よかった… 目、覚めたんだ」


這うように少年の傍らに近づき、力なく座り込んだ少女の大きなこげ茶色の瞳がうるむ。

自分が意識を取り戻した事に涙を浮かべながら喜びを露わにする彼女の姿に、彼は先ほどまで抱いていた自らの死を逃した失望を胸に仕舞い込む。


「イヴさん、怪我とかしてませんか?」


自分の事よりイヴの身を案じた言葉に、彼女は自然と笑みを浮かべながら答える。


「ばか…… 自分の事心配しなさいよ。死んでも可笑しくない位の火傷だったみたいなんだから」


彼はその言葉で黒髪の少女の事を思い出し、反射的に体を起こす。


「ユリさんは! 黒い髪の女の子は無事!?」


イヴはまだ自由にならない体を起こし尋ねるクランを優しく支える。


「その子は無事よ。だって、その子に何かあったらクラン助からなかったでしょ?」


「え?」


不思議そうに聞き返すクランに、イヴはそっと横になる様に促す。


「死にそうな君を、ユリって子が神聖魔法で癒したって聞いたけど?」


「ユリさんが僕を?」


クランは体を横たえながらいまだ霞のかかった記憶を呼び起こす。

おぼろげな記憶がはっきりして来るにつれ、今生きている事が奇跡に思える。

そう、本当に奇跡が起きなければ生きてなどいないのだ。


「そうか、ユリさんが神聖魔法を…… ファムの声が聞こえたんだ」


自分がなぜ生きているのかに思い至ったクランの嬉しそうな声色に、彼が記憶を呼び起こしている間黙って待っていたイヴが口を開く。


「まだ体を上手く動かせないならゆっくり休んで。皆にはクランが目を覚ましたって言っておくから」


クランは頷くとゆっくり目を閉じる。

枕元で彼をしばらく見つめていたイヴは、いつまでもそうしていたい気持ちを断ち切るとテントの外へ向かう。

自分の他に彼の心配している人達に目覚めた事を伝えるために。

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