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小高い丘に一本だけ生えていた大きな木の根元に、一人の男が跪いていた。
男の目前には腰ぐらいの高さの岩が置かれ、男の視線はその岩を通じて違うものを、磨り減った自らの記憶にかろうじで残っていた少女の面影を思い出し、訥々と語りだす。
「やっとここまでたどりつく事が出来た…… 君を守る事が出来なかった…… 僕の力が足りなかった……
だけど、今はあの時とは違う。もう少しで君の命を奪った帝国に……」
そこまで口にすると男は黙り込む。
唇をかみ締めた男の頭部には、いつの間にか白いものが見られるようになっていた。
今まで自分の歩んできた決して短くは無く、平坦でも無かった道のりを振り返り目を瞑ると、一瞬黄金色の髪をした少女の事が脳裏を過ぎる。
数年間、一度も思い出した事の無かった彼女に対しての罪悪感が生まれるが、目を開けると同時にそれを振り払う。
「僕はもう前に進むだけだ。たとえどれだけの犠牲を出そうとも……」
男は呟くと、立ち上がりその場を後にする。
決して後ろは振り返らずに。
H25,8/19 一部文章の表現を変更させていただきました。




