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この章はあと1話で終わる予定ですが、6月よりレポート提出などあるため5月中に投稿したいと思います。
次章の再開は、8月頃になると思います。
勝手を言いますが、今後ともよろしくお願いいたします。
「何だ、お前は?」
ユリが恐怖に震えながら目を瞑っていると、襲ってくるはずの炎の代わりに赤毛の少年の不機嫌そうな声が聞こえる。
「知り合いが暴漢に襲われているように見えたんで割って入ったんだけど、もしかして劇の練習でもしてたのかな?」
突然目の前に現れた人間の人を食ったような答えに、赤毛の少年は村に着てからずっと浮かべていた下卑た笑みを無くす。
「お前、ムカつくな。死ぬか?」
「いや、まだやる事があるんで出来たら止めてもらいたいな」
大げさに肩をすくめ、わざとらしく首を左右に振る。
赤毛の少年は視線だけで殺せるのではないかと思うほどの怒りの表情を浮かべ睨みつける。
ユリは誰かが目の前にいた赤毛の少年と話している事に気付くと、勇気を振り絞り目を開く。
「……クランさん?」
そこに二度と会えないと覚悟していた人物と良く似た後姿を見て、こみ上げる思いに声を震わせつつ呼びかける。
「久しぶりですね。ユリさん」
もう二度と聞く事の出来ないと思っていた声に、ユリは今置かれた状況を忘れ涙を流しつつ話しかける。
「クランさん…… 死んだって聞いて、もう会えないかと思って…… 言いたい事たくさん有って…… ぐすっ……」
クランは目の前にいる危険人物から視線をはずさずに、斜め後ろに座り込んでいるユリの姿を見る。
その時一瞬見えた彼の横顔にユリは更に涙する。
クランは自分と再会できた事に涙するユリの気持ちに嬉しさを覚えるが、その感情を仕舞いこむと目の前にいる少年を目で牽制しつつ口を開く。
「ユリさん、立てますか?」
クランの呼びかけに今の状況を思い出したユリは、涙を拭き立ち上がろうとするが右足を地面に付いた瞬間苦悶の声を上げ座り込む。
クランは苦痛に歪んだユリの表情を見て、少なくとも足を捻挫をしている事を悟ると表情に出さずに心の中で舌打ちする。
(不味いな。イヴさんはしばらく来れないだろうし、何より目の前の人が黙って見逃してくれるとは思えない)
街道から火事に見舞われたエリム村に気付いたクラン達が、逸る気持ちを抑え村に走り込み息を整えながら辺りを見回すと、黒い鎧を着た戦士に村人達が襲われている所に出くわした。
思わず戦士と村人の間に割って入ったら、問答無用で襲われた。
クランは咄嗟に戦士の注意を引き、何とかイヴの精霊魔法で相手を無力化する。
辺りに戦士の仲間がいない事を確認して村人に声をかけると、恐怖の余り半狂乱になった村人達に縋りつかれた。
要領を得ない村人を落ち着かせて話を聞くと、突然村が炎に見舞われ、ヘリオン帝国の黒骸騎士団に襲われたという事が分る。
クランの事を覚えていた村人にユリ達家族を見かけなかったかを尋ねると、すでに宿は焼け落ち、ヨーゼフの消息は不明、母親も宿の客達と逃げ出したがその後の事を知る人はいなかった。
ただ、村の中をユリが父親を探して走っていたのを見かけたという話を聞くと、クランはイヴに村人達を村の外に退避させるように指示して走り出す。
今思えば、その時イヴと分かれた事が悔やまれる。
相手の情報を少しでも得ようと、無駄話に興じているように演じながら目の前にいる赤毛の少年を観察すると、尋常じゃないほどのプレッシャーを感じる。
それは、ルイザの街でリズから感じた物と同一の物だった。
胸に飛来する後悔を無理やり押さえ付けると、ユリを庇う様に二人の間に移動する。
「話は済んだのか?」
軽薄そうな笑みを浮かべた赤毛の少年が口を開く。
「ああ、待たせて悪かったね」
「気にするな、お前が目の前で焼かれていくのを見て、後ろの女がどんな風に泣き叫ぶか想像したら焦らされるのも悪くない。ひゃはは!」
楽しくてたまらないといった感じで笑う。
「名前を教えてくれないか?」
その問いに赤髪の少年は不思議そうに問い返す。
「なんでだ?」
「自分が殺した相手の名前は憶えておきたいだろ?」
その答えを聞いた瞬間、けたたましい笑い声が辺りを包む。
「はっ! そうだな、確かにそうだ! これから殺す相手の名前を知っていた方がたしかに楽しいな、どんな風に死んだか思い出す時にそっちの方が興奮しそうだ! 俺の名前はフレイムだ! 本当の名前は忘れちまった! お前の名前はなんだ?!」
「クランっていうんだ、よろしく。所で、サラって名前の知り合いはいなかったかな?」
「あん、サラ? ……思い出せねえな。誰だそれ? 俺が殺した女か?」
「風の力を使えた子だったんだが、そこで亡くなった人はフレイムが殺したんだろう? 君達には同じものを感じたんでね」
クランの視線の先をたどったフレイムがめんどくさそうに少し考え事える。
「ああ、そういえばいたなそんな奴が。殺されたとか聞いたが、お前が殺ったのか?」
フレイムの言葉を聞いたクランは、強く唇をかみ締めた後答える。
「そうだ、俺が殺した。苦しむ彼女を、ただ無慈悲に切り捨てた」
飄々とした態度をかなぐり捨て、瞳に激情を秘めフレイムを睨む。
クランの豹変にフレイムは口元を歪める。
「はっ! ただの人間に殺されるなんて馬鹿な奴だ。俺はこれからもっと殺すぜ! まずはお前を殺して、その後、後ろの女だ! せいぜい楽しませてくれ!」
その言葉を合図にクランは剣を抜き、フレイムは右手を高く掲げる。
「クランさん! あの人が右手を振ると……」
クランは分かっているとユリの忠告に頷く。
そう、現れる形は違えども、これから振るわれる力を彼は決して忘れることなどないのだから。
「じゃあ、いくぜーーー!」
掛け声とともにフレイムの右手が振り下ろされる。
それと同時に、クランのいる場所に炎が現れる。
だが、一瞬早くクランは自分に向けられた殺意に反応するように右に転がる。
フレイムは立ち上がろうとしているクランを見ながら、今まで外れた事の無い自分の攻撃を避けられた事に唇を釣り上げる。
「ひゃは! いいぜ、お前! 俺の攻撃を避けたのはお前が初めてだ! もっと楽しませてくれ!」
興奮した様子でフレイムは次々にクランに炎を放つ。
クランは突然何もなかった空間に現れる攻撃を、少しずつ最小の動作で避けるように修正していく。
十数回攻撃を避ける頃になると、クランはフレイムが右手を振るおうとする時の気配、炎の大きさを見極め、傷を負わないぎりぎりの距離で避ける。
フレイムが攻撃してクランが避ける。次第にいらいらした様子になるフレイムを見ながらクランは攻撃の機会を待つ。
だが、どのような原理で発動しているかは分からないが、いつかは息切れするだろうと思っていた攻撃の手は、クランの考えとは裏腹に弱まることなく続けられる。
一向に自分の間合い近づく事のできない膠着した状況に、クランは焦りを覚える。
このままずるずると時間が経過すればイヴと合流できる可能性は高くなるが、敵の増援が現れる可能性も高くなる。
村人達から聞いた話では、黒骸騎士達は複数いるらしい。
次第に焦燥感が高まる中、先に今の状況に耐えられなくなったのはフレイムだった。
「いい加減にしやがれ!」
叫び声とともに、フレイムが右腕を大きく振り下ろす。
今までより大きな炎が出現するが、クランはあらかじめ分かっていたかのように大きく右にステップすると走り出す。
フレイムは大きい炎を出すために力を入れたためなのか、自分の体が泳いでいる隙に間合いを詰めようとするクランに向けて強引に横なぎに右手を振る。
腰の高さでフレイムを中心に扇状の炎が現れるが、クランはスライディングで潜るとフレイムまでの間合いを測り右踵でブレーキを掛け、その抵抗を利用して一気に立ち上がる。
フレイムは自分の攻撃をかいくぐり、クランが目前で今にも剣を振り下ろそうとする姿に目を見開く。
フレイムの右手は振り抜かれ、すでにクランは剣を振り下ろそうとしている。
勝敗はすでに決している。
そう思われた瞬間、クランの体は炎に包まれた。




