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異世界での過ごし方  作者: 太郎
異国
67/130

65

行間を調整してみました。

今までと違いますが、よろしくお願いします。

「やはり行ってしまわれるのですか?」


レムリアース城の城門でクランとイヴを前にしたジョセフィーヌが思わず口にする。


今日まで彼女は旅立とうとするクランとイヴを何かと理由を付け引き止めていたが、ついに別れの日がやって来た。


本当なら自分に訪れた窮地を救ってくれた冒険者に感謝の気持ちを伝え、笑顔で見送りたい。

だが、本心では出来たらこの国に残って貰い手助けをしてほしい。

相反する気持ちがせめぎ合い、口から出た言葉は自分の弱さ。


しかし、ジョセフィーヌは自分が王族としての誓いを新たにする切っ掛けとなったクランの姿と、ミシェルから聞いた彼の想いを無にしないためにも気を取り直し言い直す。


「……クラン様、イヴ様。今日まで私の力になっていただきありがとうございました」


その言葉にクランは嬉しそうに答える。


「いえ、私達のした事など大した事はありません。ヘリオン帝国の謀略が明るみに出た後のジョセフーヌ様の迅速な対応こそ、この国の窮地を未然に防いだのです」


彼の言葉に、ジョセフィーヌは少し恥ずかしそうに微笑む。

名残を惜しみしばらく見つめあっていた二人だったが、それを断ち切るように彼女は口を開く。


「これはほんの気持ちです。どうぞ旅にお役立て下さい」


彼女は皮袋をクランに差し出すが、クランは謁見の間でこの国の重鎮たちが見守る中すでに恩賞を受け取っていたため、手を伸ばすことを躊躇する。


「この度の依頼に対する報酬はすでに頂いています。これ以上頂くわけには……」

「何遠慮してるのよ。ジョセフィーヌがくれるって言うんだから、貰えば良いじゃない。相手の好意を無下にするのは失礼よ」


そう言ってイヴはクランに変わって彼女から皮袋を受け取る。


「そうだね……」


クランが苦笑しながら答えると、四人の間に沈黙が訪れる。

言葉に出来ない想いを胸にしまいこむと、クランは意を決して別れを告げる。


「……じゃあ、僕達はこれで」


「はい、旅の無事を祈っています。レムリアースにいらっしゃる事がありましたら城までお越し下さい。いつでも歓迎いたします」


見送る二人に微笑むと、クランとイヴはきびすを返して歩き出す。


――が、少し進んだところでイヴは少し考えるそぶりを見せた後、先ほどから黙って主人の後ろに控えていたミシェルの元に取って返す。


突然目の前に現れ睨むように自分を見つめるイヴに、ミシェルは困ったような表情で話しかける。


「どうしました? イヴ様」


彼女の問いに、イヴは少し躊躇した後答える。


「……あなた、前にあたし達が依頼を受けたらどんな事でも聞くって言ったよね?」


「はい、確かに言いました」


ミシェルはイヴの問いに若干強張った声色で答える。


「だったらミシェル、あなた友達作りなさい」


「どういう意味でしょうか?」


ミシェルは、彼女の言葉の意図を掴めず怪訝そうに問い返す。


「あなたあたしが思ってたより直情型なんだもん。一人でため込まないで話し相手を作りなさい。じゃないと、クラン以外にも城の人に突然襲い掛かりそうで。まあ、あなたは友達作ったりするのは得意そうに見えないから、あたしがグランデル公国で落ち着いたら手紙を出すから、あなたも手紙を書きなさい」


「イヴ様……」


どんな無理難題を言われるかと思い身構えていたミシェルは、何時かの自分とクランのやり取りを彼女が最初から見ていたと悟ると同時に、人間達に拒絶され、そして人間達を拒絶していた自分を気遣う彼女の言葉の意味を理解すると自然に目頭が熱くなる。


「じゃあ必ず手紙書きなさい。その時にはイヴ‘様’じゃなくて、イヴでいいから」


彼女は笑顔で告げると、立ち止まってこちらを見ていたクランに向かって走り出す。


「……ありがとうございます。イヴ様」


彼女達の後姿を見送りながらミシェルが呟いた。






◆ ◆ ◆






「ふむ、王国の件はやはり失敗したのだな。まあ、あのジャックという男では役者不足だったからな」


重厚な机が置かれた部屋で中年の男が呟く。


「はい、ただレムリアースに潜入している者の話だと途中までは順調だったようです」


「途中まで?」


部下からレムリアースで進めていた謀略の報告を聞いていた男が、怪訝そうな表情をする。


「女王が引き込んだクランとイヴという名の冒険者がこの件の阻止をしたそうです」


「ふむ、もともと期待していた訳ではないが、いい気がしないのは確かだな」


「はっ」


不機嫌そうに話す主人に、男は言葉少なく答える。


「まあいい、その冒険者の事は調べておけ。今後も我々の邪魔をするようなら始末しろ。それと今回の件でレムリアースはまだ混乱しているだろう、以前より潜入中の者に積極的に動くように指示しておけ」


部下に今後の方針を伝えると、男は手元の書類に視線を落とした。






◆ ◆ ◆






「それで本当にその女とは何もなかったのね?」


「なにもないって、信じてよ!」


日が暮れようとしている街道を歩きながら、レムリアースから何度となく繰り返されるイヴの問いにクランが答える。


昨日まで順調に旅路を消化し、すでにグランデル公国領内に入っていた二人だったが、道中思いついたようにレムリアースでクランが夜を一緒に過ごした女性の事をイヴが聞いてきたため、クランは自分では気付かないうちに精神的な疲労が蓄積していた。


「ふーん、ミシェルとも城の中庭で楽しそうにしていたし、どうだかね」


イヴはレムリアース城でクランとミシェルが突然争いだした所を、お気に入りの城の窓から見て慌てて中庭に向かったが、彼女が着いた時には二人並んで何やら話し込んでいた。

先ほどまで争っていた二人が何を話しているか気になり、音を立てないように近づいて悪いとは思いつつ聞き耳を立てたが、クランは純粋にミシェルの事を心配して励ましと自分自身を大切にするように話している所だった。

普段なら密偵でもないイヴが近づいたら気付くはずだが、その時のクランは話に夢中だったのか彼女の気配を察知できず、その姿を見るとひどく狼狽した姿を晒す。

その事にイヴは自分でも分からなかったが、なぜか胸のムカつきを覚え、事あるごとに彼に八つ当たりしていた。


『だってしょうがないじゃない、思い出すとなんかイライラするんだもん』とは彼女の心の弁だった。


「そろそろエリム村だよ。この調子だと着くの日が暮れてからになっちゃうかな」


クランが露骨に話を逸らそうとすると、イヴは一瞬彼を睨みながら文句を言おうとするが、今日の目的地への到着時間が遅れているのは自分のせいでもあるため、別の言葉を口にする。


「ごめんね、馬車の修理に結構時間かかっちゃたから……」


今日街道を歩いている途中出くわした行商人の事を思い出しながら、彼女はクランに詫びる。


「そんなつもりで言ったんじゃないよ! 街道で車輪の壊れた馬車の修理を手伝ったんだからしょうがないよ!」


急にしおらしくなったイヴに慌ててクランが答える。


「でも、あたしが手伝おうなんて言わなければこんなに遅くならなかったし……」


一人で馬車と悪戦苦闘していた商人に声をかけ、手伝う事を申し出たのはイヴだった。


「イヴさんは優しいから放っておけなかったんでしょ? 僕はイヴさんのそんな所好きだよ。ただ……」


突然のクランの『好きだ』という言葉に、イヴは自分でも知らずに顔を赤くし彼に続きの言葉を求める。

彼女の真直ぐな視線を受けたクランは、その視線から逃げるように顔を背けながら口を開く。


「馬車の修理が終わってすぐ商人に無言で右手を出すのはどうかと…… あの人顔引きつってたし……」


すっかり汚れたクラン達に、商人が礼の言葉を口にするより早く右手を差し出したイヴの姿を思い出しながら話す。


「ばか! あのままだったら、きみ謝礼を貰わずに分かれたでしょ? 正当な報酬を受け取るのも冒険者の仕事よ!」


「そうだね」


怒ったように言うイヴにクランが答えた。


だが、彼は今までの付き合いで、本当は彼女は商人に礼を言われるのが恥ずかしかったんじゃないかと考えていた。


「でも、あの商人ケチよね。あれしかお礼くれないんだもん」


貰った謝礼を思い出し、不満を口にする彼女の言葉に、彼は自分の勘違いかなと思い直すことにした。






そしてクランの言葉通り、辺りが暗くなる頃に二人はエリム村に辿り着く。


村全体を炎が包み、夜空を茜色に染め上げたエリム村に――


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