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異世界での過ごし方  作者: 太郎
異国
65/130

63

この所忙しくてなかなか時間が取れませんでした。

何とか今回の話を書きましたが、いつも以上に微妙な感じです。

今後、投稿頻度が下がるかもしれませんが、よろしくお願いします。

ジャックの裏切りが明るみになり、我に返った宰相が事後処理に追われている頃、クラン達はいつも打ち合わせに使用していた部屋で顔を突き合わせていた。


「まさかジャックがヘリオン帝国と通じているなんて……」


窓も無く、薄暗い部屋に置かれた質素な椅子に腰を下ろしながらジョセフィーヌが呟く。

今まで自分を支えてくれていた近衛騎士団団長がヘリオン帝国の謀略に加担し、自分の肉親である前国王と、ジャックの父でもある前近衛騎士団団長の殺害に関与していた事にショックを隠しきれないでいた。

イヴもミシェルも、俯いたまま椅子に腰を下ろしているジョセフィーヌに掛ける言葉が見つからずにただ見つめる。

しばらく皆が無言でいるとクランがおもむろに口を開く。


「あなたのご両親が生きていたらなんと言ったでしょうね?」


クランの言葉を聞いたジョセフィーヌは力なく彼を見る。


「王族としての勤めを果たせ、と仰ったのではないでしょうか。これから更なる混乱にみまわれる国を鎮められるのは貴方しかいません」


「ですが……」


彼女の言葉を遮りクランが話す。


「貴方にはジャックの他には頼れる人はいないのですか?」


ジョセフィーヌは唇を噛みながら小さく首を振る。


「ミシェルさんはもちろん、オットーさんもこれからは積極的に力を貸してくれるでしょう。幾万もの民が暮らすこの国の王は貴方なのですよ」


続けて口にしたクランの言葉にジョセフィーヌは小さく呟く。


「今までも頑張ってきました……」


その言葉を口にした事が切欠で、彼女は今まで胸の内に仕舞ってた思いを吐露する。


「今までも頑張ってきました! お父様の代りを務めようと一生懸命頑張ってきました! でも…… でも私では無理だったんです! お兄様だったら出来たのでしょうが、私はお兄様みたいには出来ないんです!」


ジョセフィーヌは拳を握り椅子から立ち上がる。


「クランさんには分からないでしょう?! 私みたいな人間の事は! 皆が貴方みたいに優れた人じゃないんです! 皆が貴方みたいに光の神々に愛されて生まれて来た訳じゃないんです!」


思わず口にしてしまった言葉にジョセフィーヌは自分の口に手を当てると、「ごめんなさい」と言い残して部屋を逃げるように後にする。

ミシェルはクラン達に小さく頭を下げると、主人の後を追った。

結局この日は有意義な話し合いなどできずに各人自室に戻る事となった。




「私は何をやっているのでしょう……」


自室で夜着に着替えたジョセフィーヌが天蓋の付いたベットに腰掛け呟く。

クランにかけて貰った厳しくも温かい言葉、イヴのやさしい視線、ミシェルの信頼を受けてなお、恩人にあのような言葉を吐いてしまった。

自分の父や、優秀だった兄。そして、偶然の出会いから自分の窮地を救ってくれた人の事。

特に、裏路地で偶然出会った、今年18歳になる自分より年下の彼の才能に嫉妬しそうになる。

素手で近衛騎士団団長を倒し、どうやったか分からないが今回帝国の謀略すら破って見せた。

その人物と自分とを比べ彼女は暗澹たる気持ちになった。

彼の才能に嫉妬が憎しみに移りつつあることに気付くと、彼女は大きく首を振りバルコニーに向かう。

普段なら隣の部屋に控えているミシェルに声をかける所だが、今自分の浮かべている表情を見られたくないのか、彼女は一人で月明かりの下へ現れた。

近くを流れる河の冷気をまとった風に当たっていると、先ほど恩人に感じていた気持ちが霧散する。

だが、一時でも彼に対して抱いた暗い思いに彼女はまた自分を責める。

バルコニーの手すりにつかまりうつむいていると、風切り音が聞こえてきた。

彼女は疑問に思い眼下に目を凝らしていると、雲の切れ目から一瞬射した月光に、剣のような物を振るう人影が見えた。

暗闇に目が慣れてくると、彼女の瞳には最近知り合った、だがよく見知った人物だと分かる。

思いもよらない時間、場所で彼人の修練を目撃した事に軽く驚きながらも、その人物がどのように今の力を得たか好奇心を抑えられず、なんとなく後ろめたい気持ちを持ちながら見続けた。

だが、彼女の体が夜風に冷え切っても彼は剣のような物を振り続ける。

月が直上に差し掛かる頃、彼は荒い息を整えながら手に持った物を地面に突き刺した。

体感的にかなり長時間の修練を行うのだな、と彼女はこれで彼が自室に戻ると思ったが、彼は今度はジャックを倒したと思われる技の修練を開始する。

彼女は彼が修練を続けることに驚きつつも、それを見つめる。

そして、それは月がかなり傾くまで続けられた。




「そろそろ時間ですね」


主人の気持ちを思い昨夜なかなか寝付けなかったミシェルは、朝の挨拶の時間を待ちかねたように一人呟くと、ドアをノックして主人の部屋に入室した。


「お早うございます、ジョセフィーヌ様」


「お早う、ミシェル」


すると一睡もしていないのか、目の下にひどいクマを作ったジョセフィーヌが彼女を迎える。

だが、その顔色とは裏腹に、ミシェルには彼女がどことなく晴れ晴れした表情をしているように見えた。







ジャックが拘束されてから蜂の巣を突付いた状態だった城内も、近衛騎士団団長の後任問題や、ジャックに加担していた騎士の洗い出しなどの作業は残っていたが、数日も経つと一応の落ち着きを取り戻していた。

変わった事といえば、いつも不機嫌そうにしていた宰相は笑顔を浮かべる事が増え、女王の補佐を精力的にこなす様になった。

女王に苦言を呈していたのも、国王の代行を勤めようとしたのも、前国王を謀殺したのが誰か分からなかったため彼女の身を守るために言い出した事だった。

説明してくれればと言うジョセフィーヌに、オットーは犯人を捜していると思われるより、権力を我が物にしようとしている様に思われた方が、犯人の油断を誘えるとの側近の進言に従った事をしきりに詫びていた。

後は、クランが一方的な展開で武器を持ったジャックを倒したため、彼には本当に封印された人外の力が宿っているとの噂が流れ、今まで気軽に話していた侍女達がどことなくよそよそしくなった。

クラン自身は、ジャックの自分に対する警戒心を緩めるために侍女達に話しかけていただけなので、別段残念などとは思っていなかったが、最近不機嫌そうだったイヴの機嫌がこの所良さそうなのは素直に嬉しかった。

そして一番の変化が訪れたのはジョセフーヌだった。

彼女はジャックが動けるようになると玉座の間に呼び出し極刑を言い渡す。

それと同時に、彼に加担しようとしていた騎士達の身分を次々に剥奪し、私財没収した上で国外追放する。

今までの彼女であれば側近の進言でしぶしぶ承認した事を、自らの意思で行うようになった。

その姿に、女王の事を軽んじていた一部の重鎮たちも、この国の主が誰か思い知らされる事になる。






依頼を果たし、ジョセフィーヌの公務が忙しくなった事もあり、当面の仕事も無くなったクランが城の中庭で、ここ数日の日課となった木の棒を使った素振りをしていると声をかけられた。


「こんにちは、クラン様」


「あ、ミシェルさん。こんにちは、どうしたんですか?」


手に持った棒を地面に突き立て、汗を拭いながらクランが答える。


「ちょっとお話をさせていただきたいと思いまして」


「いいですよ」


クランの気軽な返事とは対照的に、本人は上手く隠しているつもりだったが、ミシェルの表情は緊張をたたえていた。

クランまで十メートルほどの距離まで進んだところで彼女は足を止める。


「帝国の密偵を発見した時の事や、アラン様の御令嬢を救出した時の事を教えていただきたいのですが……」


「……グランデル公国での知り合いに手伝ってもらいました。僕一人じゃ何も出来ませんから。ミシェルさんも僕の公国での噂は聞いているでしょう?」


笑いながら口にしたクランの言葉をミシェルは黙って聞く。


「どうしたんですか急に? ジャックさんも罪を認めましたし、彼に加担した騎士達からも証言は取れたと思いましたけど……」


「そうですね、まるで最初から決まっていたかのように上手く犯人が捕まりましたね」


いつの間にかクランに厳しい視線を向けていたミシェルが言う。


「ははは、偶然ですよ、偶然」


クランはそれに気付かないように答える。


「クラン様が現れてから、こちらで把握していたグランデル公国の密偵が数名姿を消しました。まるで後任者と入れ替わるように…… 貴方はグランデル公国の密偵ではないのですか?」


「違いますよ。ミシェルさんの考えすぎですよ」


なおも笑いながら答えるクランに彼女は小さく首を振る。


「もう貴方が密偵であろうとなかろうと、どちらでもかまいません。この国の内情を知りすぎた人には死んでもらうだけですから」


そう告げると同時に、ミシェルは風の精霊に呼びかけクランに『風の刃』を放った!


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