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月明かりが照らす路地裏を一人の女が歩いていた。
「?」
物音を聞いたような気がした女が足を止めて振り返る。
女はしばらく暗闇に目を凝らしていたが、気のせいだと思い前を向くと、そこにはいつ現れたのか月明かりに反射する剣を抜いた男が二人いた。
咄嗟に後ろを振り向くが闇の中から更に男が現れる。
前後を塞がれた女は一縷の望みを託して男達に声をかける。
「あんた達が誰か知らないけど、人違いじゃないかい?」
だが、男達は答えることも無く一歩踏み出す。
女は小さく舌打ちすると、覚悟を決めて男達の囲みを突破するために走り出そうとする。
その時、後ろから男達に襲いかかる黒い影がいた。
男達は咄嗟に剣を振るが、黒い影は難なく避けると一瞬で男達を倒し女の下に向う。
「こっちだ」
言葉少なく告げると黒い影は女の手を引いて来た道を走り出す。
女は一瞬躊躇した後、走り出した。
女の姿が見えなくなると、倒されたはずの男二人がゆっくりと立ち上がる。
「女に見抜かれると意味無いから殺す気で攻撃しろと言われましたけど、こうも簡単に避けられると流石に傷つきますね、シドさん」
言葉とは裏腹に、いつもと変わらない口調でサイが話す。
「まったくだ、一応俺達もお頭の手下の中では腕が立つ方なんだがな」
苦笑しながらシドが答える。
「まあ、ワイバーンとやり合って生き残るような奴だしな」
「そう言えば、あの後どうなったのか聞いてませんね」
「そうだな、なんとなく聞かない方が自信を無くさなくて済みそうだが、今回の件が片付いたら聞いてみるか」
「俺はもう自信を無くしてますけどね」
サイが答えると、シドは笑いながら口を開く。
「だったら、お頭に二度と笑えなくなるまで訓練してもらえ、ちっとは自信も取り戻せるだろ」
シドの言葉にサイは思わず震える。
その姿を見てシドは笑いながら思う。
クランと今日まで過ごした日々の事を、雨の中で張り込み、駆けずりまわりながら調べた女とレムリアース王国の要人達の事を。
そして、心の中で「上手くやれよ」とクランに声をかけた後、サイの肩を叩きながら別れたクランと落ち合う予定の場所へ向かった。
「どうやら撒いたようだな」
女が手を引かれるまましばらく走っていると、周囲を見回した後黒い影は立ち止まり口を開く。
「あんた、何で助けてくれたんだい?」
女は手を放すと警戒しながら尋ねる。
「お前が裏切られたからバックアップしろと指示を受けた」
月明かりに照らされた人物が子供だと分かると女は一瞬怪訝そうな表情をするが、自国には子供を工作員にする機関がある事を思い出しほっとしたような表情を浮かべる。
だが、それはすぐに怒りに満ちた表情に変わった。
「裏切られたって……、あいつ、あれだけ好き勝手したくせにいまさら、ふざけるんじゃないよ!」
女が自分の言葉に怒り出すと、子供が声をかける。
「部屋に証拠は残してないな?」
「ああ、全部処分してあるよ!」
女は怒りが収まらないのか、怒鳴るように答える。
「本当に帝国のからの証拠は残してなかったんだな?」
シドから女は帝国の密偵の可能性が高いと聞いていたクランは、自分の姿を見た女がどこか納得したような表情をした事もあり、危険な賭けになるが帝国の名前を出す。
「しつこいわね! 本国からの指示書は読んだらすぐに燃やしてるわよ!」
「それならいい」
賭けに勝ったクランの口元には笑みが浮かんでいた。
女を新しい隠れ家だと偽りシド達の監視する宿に案内した後、クランは事前に打ち合わせていた場所へ向かう。
先に待っていたシドとサイが彼を出迎えると、この街でのアジトの一つに場所を移動する。
「上手くいったみたいだな」
質素な家具の置かれた部屋の椅子に座り、シドがクランを労う。
「皆さんのおかげです。アランさんの娘さんは?」
「ああ、衰弱しているが無事だ。アランには娘は俺達が救出して保護してあると言って、今回の件の事を聞いている所だ。朝には報告書が届く手はずになっている」
シドの話を聞いたクランは、複雑な表情で頷いた。
「悪いな、一応俺達もグランデル公国の密偵なんでな。折角の機会にレムリアース王国の情報を得る機会を逃すことは出来ない。必要な情報を引き出した後、娘は必ず返す」
クランが不承不承頷くと、サイが口を開く。
「取りあえず朝まで休みましょう」
その声を号令に、各自思い思いの場所に横になった。
仮眠をした後、アランの屋敷からもたされた報告書を確認したクランは、気合を入れるために両手で頬を叩くと立ち上がる。
「行くのか?」
クランが報告書を読んでいる間じっと目を瞑っていたシドが尋ねる。
「はい」
「今日一日俺達は休日だ。好きにやれ」
シドは今日レムリアース王国に訪れるであろう混乱に乗じた行動を行わない事を暗に伝えると、目を瞑る。
クランは彼の心遣いに感謝すると城に向けて歩き出す。
(がんばれよ)
シドは声に出さずに彼を見送った。




