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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
6/130

4

街に旅立つ日がやってきた。

グレンとクランは、いままで狩りで得た毛皮や、街で売るために作った干し肉などをバックパックに入れ、旅立ちの準備をしていた。


「準備できたよ」


旅装束に身を包み、バックパックを背負い、腰に吊るしたバスタードソードの重さを確認しながら、クランはグレンに声を掛ける。


「ああ、こっちも準備できた」


腰にショートソードを帯剣し、60Kgは超えていると思われる荷物を背負ったグレンが答えた。

それを見たクランは、自分の背負っている荷物-それでも40Kg以上はある-と比較し、やっぱりほんとは熊なんじゃないのか、などと考えてる。


カルラに出立することを告げると、二人は近くのルイザ街道に向かって出て歩き出した。


グレンは歩きながら、クランに記憶喪失の事は変に思われても拙いので、なるべく気づかれないようにしろと注意し、この地域の一般的な地理と貨幣の事などを説明した。




今クラン達が住んでいる家は、三国の国境付近に有り、南に若き女王が治める森と湖の国、レムリアース王国。

東に建国より300年を数える肥沃な大地を持つ大国、グランデル公国。

そして北西に険しい山に囲まれた謀略の国、ヘリオン帝国に囲まれている。

現在の情勢は、ヘリオン帝国がグランデル公国の肥沃な大地を狙い、様々な謀略を仕掛け、二つの国の国境付近では小競り合いが頻繁に起きている。

そのため、戦争が近いとのうわさが絶えず、治安の悪化に伴い、盗賊や山賊による被害が増加の一途をたどっていた。

また、使われている貨幣だが、金貨1枚=小金貨10枚=銀貨100枚=小銀貨1000枚=銅貨10000枚となっており、一般的な労働者の日当が銀貨2枚、鳥一羽が小銀貨1枚、パンが1つ銅貨5枚で購入できる。




太陽が高くなってくると、踏み固められた街道からすこし横にそれた木陰で昼食を取る事にした。


「あー疲れたー」


そう言いながら座り込んだクランに、思ったより順調に進む旅路に満足しながらグレンが干し肉を渡す。


「このままルイザ街道沿いに東に進めば、あと1時間ほどで今日の目的地のグランデル領エリム村に着く。そこで一泊した後、さらに街道沿いに東に進めば今回の目的地、ルイザの街に着く」


固い干し肉を水で流し込んでいるクランに、グレンは苦笑しながら「今回はクランがいるから村まで時間がかかると思ったが、思ったより早く着きそうだ」と、思わぬクランの健脚ぶりを褒めるのだった。




食事を済まして歩き出すと、予定通り時1間程歩いたところでエリム村に着く。


エリム村は盗賊などから村人を守るためか、村の外周部に沿って防柵が作られていた。

防柵の中に入ると、街道を挟むように木造の店が建ち並び、その後ろに民家が建てられていた。村の人口は、どんなに多く見積もっても1000人は超えていないだろうと思われる。

クランにとっては記憶をなくしていることもあり、初めて見る村を興味深そうに見回していた。


村に入るとまず最初にグレンの顔なじみの店に行き、頼まれていた毛皮や干し肉を売る。

しばらく店主と世間話をした後、多少軽くなった荷物を背負い直し店を出るとグレンが立ち止まる。


「これから人と待ち合わせがあるから先に宿屋に行ってくれ。この道をまっすぐ行ったところにある木陰亭という宿だ。分からなかったら辺りを歩いている人に聞け」


言いたいことを言うと、クランが返事をする間も与えず、グレンは待ち合わせをしていると思われる方向に歩いて行ってしまった。






クランはグレンの言った通りに道をまっすぐ歩きながら、木陰亭という看板の掛かった宿屋を探していたが、「僕、字が読めないんだ……」と、今更ながらに自分が字を読めないことに気付く。

もちろん本人は知らないが、この辺りの国の識字率は低く、読み書きができない人の方が多いいから別に驚くようなことでもない。

そんな事は知った事ではなかったが、辺りに通行人も見当たらずクランは途方にくれる事になる。


「こんにちは、もしかして何かお困りですか?」


クランが声の方を振り向くと、そこには黒髪を肩で切りそろえ、クランより身長が15cm位低いため、大きな黒い瞳でやや上目づかい気味に自分を見ている少女がいた。


「いや、ちょっと探している店が見つからなくて」


クランはとっさにそう答えた。

字が読めなくて店が分かりません、と答えづらかったのも仕方の無いことだろう。

両手でカゴを持ち、街でよく見るような服を着ていたが、自分と同じくらいの年齢に見えるその子は、清楚な感じのかなりの美少女だったからだ。


「なんてお店を探していたんですか?」


少女は小首をかしげながらクランに聞く。


「えーと、木陰亭っていう宿屋なんだけど……」


「木陰亭ですか? でしたら用事も済んで家に帰るだけなのでご案内します」


そこまでしてもらったら悪いから、とクランがやんわり言うと「いえ、気にしないで下さい。木陰亭が私の家ですから」と、悪戯っぽく笑った少女はクランと並んで歩き出す。


「そういえばまだ名前を言っていませんでしたね、私ユリっていいます」


「あ、僕はクランです。えーと、その荷物重くない? よかったら持とうか?」


ユリが両手で持っているかごを指差しながらクランが言うと、彼女は嬉しそうに答えた。


「ありがとう。でもクランさんの方が重そうだし、私こう見えても結構力持ちなんですよ」


 そんな他愛の無い話をしていると、目的地である木陰亭に到着した。

ただいまと言いながらドアを開けたユリが、クランに振り返り「いらっしゃいませ、お客様」と笑顔で言った後、小走りに宿の中へ入っていく。

 クランはユリに見惚れたように立ち止まったが、我に返って宿屋の中に入るとすぐ受付があり、一般的な宿屋と同じく酒場兼食堂もあるようだった。

宿の規模としてはそれほど大きくなく、宿泊用の部屋が6部屋位、食堂もカウンターとテーブルが6卓あるだけだった。


「いらっしゃい、あんたがユリのいっていたお客さんかい」


愛嬌のある笑顔を浮かべながら、エプロンを付けた黒髪の女将と思われる女性が奥から歩いて来た。


「はい、ユリさんに案内してもらいました。宿泊したいのですが」


「もちろんいいさ、あんた一人かい?」


女将に、グレンと二人で宿泊したいと伝えると、


「なんだ、あんたグレンさんの連れかい。だったら早く言っておくれよ」


「すみません」


彼に落ち度が有る訳でもないのに、思わず反射的に謝ってしまうクランだった。

その後、宿泊代金を払ったクランをユリが部屋まで案内してくれる。


「お母さんから聞いたんですけど、クランさんはグレンさんと一緒に旅をしているんですか?」


「うん、そうだよ」


客室のある二階に上がる階段を登りながら、ユリの問いにクランが答える。

部屋の前まで来ると、ドアを開け中に入りクランはベッドの上に背負っていた荷物を降ろす。

その間にユリは、部屋の窓の木戸を開けてクランを見る。


「えーと、明日はルイザの街に向かうんですか?」


その予定だとクランが答えると、「そうなんですか……」と呟いてユリは夕食の準備をするために部屋から出ていく。

それからしばらくベッドの上で休んでいると、グレンが部屋に入ってきた。

グレンは荷物を降ろすとベッドに腰掛け、何かを考え込むように目を瞑る。

クランが話しかけてもどこか上の空で、夕食の時間までそれは続いた。




「グレンさん、クランさん、お願いしたい事があるんですけれど……」


クランとグレンが宿の食堂で夕食を食べている時、忙しそうに給仕をしていたユリが仕事が一段落したところで話し掛けて来た。


「なんだ」


パンと豆のスープをつまみに、エールを飲んでいたグレンがぶっきらぼうに答える。


「明日、ルイザの街に一緒に連れて行ってくれませんか?」


ユリが言うと、グレンがお前が話したのかとジロリとクランを見る。

丁度そこへ三人で話をしているのに気づいた女将がやって来た。


「ごめんね、グレンさん。この子がルイザの街にあるファムの神殿に行きたいって言うの。近頃物騒だし、一緒に連れて行ってくれないかい」


女将がすまなそうにグレンに頼むと、「毎月礼拝に行ってるんです。お願いします」と、ユリも頭を下げながら頼む。


「グレン、連れて行ってあげようよ」


そうクランが言うと、グレンは渋い顔をしつつ頷く。


「ありがとうございます」と礼を言った後、ユリは軽い足取りで給仕の仕事に戻る。


女将の方は一度厨房に戻ると、「ありがとうね。これは私の奢りだよ」と言いながらエールを一杯持ってきた。

食事が終わると、グレンがユリに日の出と同時に出発すること告げ部屋に戻ろうとすると、小走りにやってきたユリがクランを引き止める。


「クランさん、さっきは一緒にお願いしてくれてありがとう。おかげでルイザの街に行くことができます。それと、明日もよろしくね」


そっと言うとユリは後片付けのため厨房に戻った。

クランは部屋に戻ると、嬉しそうに口元に笑みを浮かべながら、濡れタオルで体を拭き就寝するのだった。


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