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異世界での過ごし方  作者: 太郎
異国
52/130

50

日の出と同時に出発した二人が薄暗い森を抜け、サリウス村に向かって歩きなれた道に差し掛かると、旅装束を身に着けたイヴが隣を歩くクランに尋ねる。


「ところでクランは何が得意なの?」


駆け出しとはいえ、いままで冒険者として曲がりなりにも過ごして来た少年が、どの程度の力を持っているか興味深そうにイヴが尋ねる。

だが、クランの答えは彼女の予想の斜め上をいく。


「料理はまあまあだと思います。一緒に旅をしていた仲間も文句を言わずに食べてくれました」


もっとも、クランの仲間が文句を言わなかったのは別の理由なのだが。


「料理って……、きみはモンスターと戦う時に包丁でも使うの?」


自分の希望していた回答を得られなかった彼女は、呆れた様な声を出す。


「あ、すみません。一応剣を使います」


料理はまあまあで、剣は一応使えるくらいなのね。

クランの言葉に、イヴは彼の評価を確定すると同時に彼の鞘を指差す。


「それで、一応使える剣が見当たらないんだけど」


「えーと、ちょっと邪魔になったんで、置いてきました」


クランは、視線をそらしながらばつが悪そうに答える。


「置いてきたって……、逃げるのに邪魔になったからとか?」


イヴはいくら何でもそれは無いだろうと、笑いながら彼に聞く。


「まあ、ある意味そうかも……」


彼の言葉に、彼女は一度決定した評価を再度見直す必要に迫られた。




朝から歩き続けた二人は、昼頃には目的のサリウス村に到着した。

サリウス村はエリム村に比べても規模は小さく、地区計画などで整備されている訳でもないため、クランはどことなく乱雑な印象を受けていた。


「お昼にしましょうか」


イヴの言葉に従い、彼女の顔見知りの宿屋に向かう途中、クランは村にどこと無く浮ついた空気を感じていた。



「着いたわよ」


少し歩いた後、イヴは一軒の宿屋の前でクランに声を掛け扉を開いて中に入る。

クランは急いで後に続くと、彼女がさっさと着いた食堂のテーブルの向かい合いに腰を下ろす。


「あら、いらっしゃい。今回は随分早いのね」


注文を取りに来た女性がイヴに気付くと、気軽に声をかける。

その様子から二人は顔見知りだと窺い知れる。


「ちがうよ女将さん、今日はいつもの買出しじゃないの。いよいよあたしも冒険者としてデビューしようかと思って、グランデル公国まで彼に案内してもらう所」


イヴの話に女将と呼ばれた女性は目を丸くする。


「本当!? まあ、あの両親の娘だものね。いつまでも森の中でじっとしているわけないか」


「そういう事、じゃあいつものお願いね。それと今日は泊らせてもらうからよろしくね」


イヴに「分かったよ」と言い残して、女将は厨房に戻った。


「女将さんのカブのスープ、とっても美味しいんだから」


自慢そうにイヴはクランに微笑んだ。




食事を終えた二人はこれからの事を相談し、まずクランの武器を購入しようと村に一軒だけある武器を扱う店に向かう事にした。


「こんにちは~」


イヴは声を出しながら店に入ると勝手に店の中を物色し出す。

クランが咎める様な視線を彼女に向けると


「なにやってるのよ、きみも早く探してよ」


「でも勝手に触ったら店の人に怒られますよ」


「大丈夫よ、ゼムさんとは長い付き合いだから。それとも、自分の武器をあたし一人に探させるつもり?」


クランは少しの間考えた後、武器屋と呼ぶ事をはばかられる様な店内を物色する事にする。


「これなら使えるかもしれません」


しばらくしてクランは、剣身70Cm程のショートソードを手にする。


「それでいいの?」


木箱の中をかき回していたイヴがクランに声をかける。


「ええ、この位の重さだったら僕でも使えます」


彼は鞘から抜いた剣を検めながら答える。

もっとも、この店にはクランが使えそうな剣は他にはないのだが。


「じゃあゼムさん呼んでこなきゃ、ところでこの剣買うぐらいのお金持ってるよね?」


「……公国銀貨20枚位で買えますかね? あと鎧が目立つので、隠すためにローブも欲しいのですが……」


イヴは買える訳ないじゃないという言葉を飲み込んで、自分の財布の中を確認する。

人選間違ったかもしれないと思いながら。


「すみません、お金は後で返します」


道を歩きながらクランは、自分の代わりに雑貨店(・・・)の主に代金を支払ってくれた事に礼を言う。


「まったく、お金は持ってないし、剣がいくらするかも知らないのに、よく冒険者なんかやってるわね」


軽くなった自分の財布の事を考えながら、イヴがクランに文句を言う。

もうここまで来れば、「毒を食らわば皿までだ」と彼女はすっかり開き直り直っていた。


「すみません」


クランは反射的に謝る。

どうも彼は怒った女性には下手に出る事が身に付いている様だ。


「それ、その言葉遣いもやめてよ。歳だってほとんど違わないはずなんだから」


「すみません」


「も~~~、今後敬語禁止。もし破ったらその剣返して貰うから。わっかた?」


怒った様子でイヴはまくし立てる。


「はい、……じゃなくて、分かったよ」


「よろしい。だけど剣のお金は返して貰うからね」


彼女はクランの返事に笑顔で答える。

その笑顔に、クランはまったく似ていない幼馴染の少女の姿が重なって見えた。


クランの武器と、旅に必要な品物も手に入れたイヴは、夕食にはだいぶ早い時間から宿の食堂で暇そうに時間を潰していた。

旅の連れが新しい剣に慣れるために素振りしてくると言ったので、初心者ながら頑張る年下と思われる少年を笑顔で見送る事にしたためだ。

だが、それは自分の話し相手がいなくなるという事だった。


「ひま潰しに話し相手になって貰えばよかった」


彼女はテーブルに突っ伏しながらぼやく。

そんな彼女を見かねた女将が、苦笑を浮かべながら近づき話しかける。


「若い娘がこんな所でぼうっとしてるなんて不健全だね。彼氏はどうしたんだい?」


「彼氏じゃないわよ、森の中で拾っただけ……」


イヴはまるで犬や猫の事を話す様に答える。


「まあどっちでもいいけどね」


女将は突っ伏したままの彼女の、隣の椅子に腰を下ろした。

イヴの両親は本人達の性格か、冒険者の性か家を離れている事が多い。

子供が小さい頃はそれでも家にいたが、彼女が物心つく頃にはほとんど家に寄り付かない様になっていた。

そしてイヴは、独りでいる寂しさを精霊達に話しかける事によって癒していた。

皮肉な事に幼少の頃の辛い思いが、彼女の精霊使いとしての能力を磨いていった。

そんな彼女の事を子供の頃から見ていた女将は、他人と呼ぶには余所余所しい思いを抱く様になっていた。


「さびしくなるね、あなたがいなくなると……」


「もう二度と会えなくなる訳じゃないんだから」


いつも笑顔を絶やさず、はつらつとしていた女将が、突然歳相応の疲れた姿を見せた事に、顔を上げたイヴはとまどいながらも彼女の手を握る。


「旅には気を付けるんだよ。一昨日からこの辺りにワイバーンが現れたとかで、近衛の連中も来て物騒なんだから」


「ワイバーンが現れたの!?」


女将の何気ない言葉に、イヴは驚きの声を上げた。




その頃クランは村の外れで慣れない剣と格闘していた。

今まで両手で剣を使っていたが、それが突然片手持ちの剣になったのだ、無理も無いだろう。


「話にならないな」


憔悴した表情で剣を鞘に戻す。

彼は思った通りに扱えない剣に苛立ちを感じていた。

この村で剣を置いてあるのはあの雑貨屋だけだ。

使い慣れたバスタードソードなど望むべくも無い。

大きな街へ立ち寄ったとしても、今度は手持ちの金が無い。

思考が負のスパイラルに陥る前に、考える事を放棄する。

いくら悩んだ所で、無いものは無いのだ。

普段は使わない筋肉を酷使したために、体に重い疲労を感じる。

明日の朝には旅立つのだ、筋肉痛にでもなって敵に襲われたら目も当てられない。

彼は修練を切り上げると、夕食はなにか考えながら宿に向かって歩き出す。


クランが村の中心に近づくと人だかりが目に付く。

近づいてみると、村人達が取り囲んでいる先には金属製の、フルプレートメイルと呼ばれる鎧を身に纏った者達がいた。


「我ら王国近衛騎士団が、この地に現れた凶悪なワーバーンを討伐した。ついては森より彼奴の死体を運搬する。この村の男達は我らの指揮の元、作業に従事しろ」


騎士と思われる男は、高圧的な態度で村人達に命令する。


「まずは死体を運搬するための台車の作成を――」


男が村人達に作業の指示をする中、クランは面倒に巻き込まれない様宿への道を急ぐ。

どうやらワイバーンは、騎士の手によって無事倒されたらしい。

さすがにクランの事を恨んで、人に尋ねながら追ってくるなどという事は無かっただろうが、どこと無くほっとする。

ただあの様子だと、ダガーを回収するのは諦めたほうが良いだろう。

それを残念に思いながら、彼は一度振り返った。



宿に着いたクランが食堂に向かうと、彼の来るのを待ちかねたイヴが、頬を高潮させ興奮した様子で話し出す。


「ねえ、ワイバーンが出たんだって!」


「そうみたいだね、今、そこで近衛騎士団っていう人が討伐したって言ってたから」


そう言ったクランに、彼女はもどかしそうに答える。


「うそ! さすが騎士ね~、ワイバーンを倒すなんて。何人位いたの!?」


村人達に声を張り上げていた男達を思い出しながら答える。


「え~と、四人だったかな?」


「すっご~い、ワイバーンってドラゴン族なんでしょ。それを四人で倒すなんて流石近衛騎士だよね!」


クランが「亜種だけどね」と言おうとした所で食堂に入ってくるグループがいた。

それは、先程村の中央で村人達に指示を声高に叫んでいた騎士達だった。

彼らは空いているテーブルに座ると、兜を置き女将を呼ぶ。


「おい! 酒だ! それと食事を持って来い!」


「はい、ただいまお持ちします」


女将は答えながら男達にエールを出す。


「俺達が来なかったら、この村はワイバーンに皆殺しにされていたんだ、感謝しろよ」


「ありがとうございます」


顔に愛想笑いを張り付かせた女将が答える。


「そうか! だったらここの支払いは分かっているな?」


「はい、もちろんでございます」


女将の言葉に男達は下卑た笑いをする。


「なら酒をじゃんじゃん持って来い!」


男達はエールを一気に飲み干した。




えばり散らす男達を、イヴが嫌悪感の篭った視線で見ていた。


「なにあれ?」


最初に男達が現れた時には、ワイバーンを倒した彼らを憧れる様な目で見ていた。

だが、女将に接する態度を見て、それが嫌悪に変わるまでさしたる時間は掛からなかった。

勇者を見るような目で見ていた分、その反動も大きいのだろう。


「近衛騎士って、王族を守るエリートなのよね。あんなのがなれるの?」


彼女はやり場の無い怒りを、目の前にいる人物に向ける。


「いろいろな人がいるからね。もしかしたら、激しい戦闘で気が高ぶっているのかも」


クランの言葉に、彼女はうなり声を上げながらスープに入っていたカブを噛み砕く。

その様子を見ていたクランは、彼女をなだめつつ部屋に向かうタイミングを探っていた。

だが結局クラン達は、女将が男達に掛かりっきりになっていたため、彼らが部屋に戻るまで待つ事になった。



「なんなのあいつら! 『こんな田舎の宿の料理、期待していなかったがやはり予想通りだったな』ですって、だったら食べるなっていうのよ!」


完全に沸点を超えていたイヴは、クランに食って掛かっていた。


「まあまあイヴちゃん、そんなに怒らないでよ。別に彼が言ったわけじゃないんだから」


クランを不憫に思ったのか、男達を部屋まで送り届けた女将が彼女を宥める。


「だけど女将さん、あいつら女将さんの料理馬鹿にしたのよ!」


自分のために激昂してくれている事に、女将はうれしさを滲ませながら告げる。


「ありがとう。でもあなた達明日早いんでしょ? 早く休みなさい」


女将の心配そうな視線を向けられたイヴは、「わかった」と言うと、肩を怒らせ部屋に向かう。

クランも苦笑しながら教えられた部屋に向かう事にする。


翌朝、女将に別れを告げ、二人は次の村に向かって旅立った。


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