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遅くなりましたが、何とか12月中に再開できることが出来ました。
これからも、よろしくお願いします。
木漏れ日がさす森の中を一人の少女がバックパックを背負い、手に荷物を持ち歩いていた。
下草を踏み分けながら進む少女の歩調に合わせ、背中まで伸ばされた栗色の髪が揺れ、こげ茶色の瞳は目的地と思われる方向を見据えている。
一心に足を動かしていた少女がふと視線を逸らすと、一瞬人らしきものが視界に入った。
少女が少し躊躇した後、恐る恐るその方向に足を踏み出すと、草花に隠れるように銀色の鎧を身に着け倒れている少年を発見した。
少女は思わず駆け寄ると、手に持っていた荷物を地面に置き、少年の顔を覗きこみながら声を掛ける。
「きみ、どうしたの!? 大丈夫!?」
少女が呼びかけ続けると、少年はゆっくりと目を開く。
少年は焦点の合わない目で少女を見ると、今まで少女が見たことのないような幸せそうな表情を浮かべながら、かろうじて聞き取れる声を出す。
「理沙……」
そう言い残すと、力尽きたように少年は目を閉じた。
「ちょっと、起きてよ!」
その後少女は、いくら呼びかけても少年が目を覚まさない事に困り果てたような表情をするが、このまま少年を置いていく程冷酷では無い彼女は、自分のやろうとしている事に眉をひそめながら呟く。
「はー、この子が盗賊とかだったらどうするのよ」
でも、こんなかわいい顔をしている盗賊なんかいないか、と自分に言い訳すると意識を集中しだす。
『大地の精霊ノームよ、この少年をあたしの家まで運ぶのを手伝って』
すると、彼女の呼びかけに答えて地面より四人の小人が現れた。
小人達が少年を持ち上げると、少女は自分の家に向かって歩き出す。
その後ろを小人達が少年を運びながら、短い足で必死に追いかけた。
『ありがとう、大地の精霊達』
自分の家に着いた少女が、ここまで少年を運んでくれた精霊達に労いの言葉を掛けると、役目を終えた精霊達は姿を薄くしながら大地へと帰って行く。
「さてと、頑張って運びますか」
少女は少年を見ながら呟く。
少女より少年は10Cm程背が高いのだ、彼女にとって彼を運ぶ事はかなりの重労働になるのだろう。
「よいしょっと」
少年の肩を支えながら、少女は掛け声をかる。
「重~~い」
意識の無い少年に文句を言いながら、少女は何とか自分のベットに寝かせる。
「は~~、疲れた。とりあえずベットに寝かせたから大丈夫だよね」
少女はそう呟くと、近くの村で手に入れた物をバックパックから出して整理を始めた。
「ん……、どこだここ?」
クランは頭を振りながら呟く。
彼が辺りを見回すと、丸太で組まれた家の中にいる様だった。
そこで、この世界へ来た自分が最初に口にした言葉と、同じ言葉を口にした事に思わず苦笑する。
「まったく、ちっとも進歩してないな……」
自嘲気味に呟いた後、彼はこの家の主に会うべく部屋の扉に手を掛けた。
「ん~、こんな物かな~?」
クランが扉を開けると、少女がダイニングキッチンで料理をしていた。
味見をしていた少女は、自分の部屋から現れたクランに気付くと笑顔を浮かべる。
「目が覚めたんだ、よかった~。このまま起きなかったらどうしようかと思ってたんだ」
「ご迷惑をお掛けしました」
そうクランが口にすると、少女は屈託の無い笑顔で答える。
「気にしないで、それよりお腹空かない?」
少女の言葉にほんの少しちゅうちょした後クランは頷く。
どの位寝ていたのか分からないが、腹の虫が空腹を主張していた。
「クランって名前なんだ、あたしはイヴって言うの。よろしくね」
食事を終えた二人は遅い自己紹介をしていた。
「それで、きみはなんであんな所にいたの?」
イヴが不思議そうに尋ねる。
「ちょっとモンスターと戦闘になりまして」
クランの言葉に彼女が「ふーん」と相槌を打つ。
この森にはそれほど脅威になるようなモンスターはいないため、イヴはクランの事を駆け出しの冒険者だと思い込む。派手な鎧を着けているくせに、との感想と共に。
そして、クランはクリスに依頼の事については口止めされているため、それ以上は口にしなかった。
そんな二人の間に気まずい沈黙が流れる。
「……ところで、ここどこですか?」
沈黙に耐えかねたクランがイヴに尋ねる。
「サリウス村の西の森だけど……」
まさか分からないって事は無いわよね、といった感じでイヴが答え、クランは更に黙り込む。
「それでこれからどうするの?」
噛み合わない会話を切り上げ、イヴはクランのこの後の予定を尋ねる。
「はい、グランデル公国に戻ろうと思います」
「ふ~ん」
それっきりイヴは、クランを見定めようと視線を向け黙り込んだ。
そして、クランも彼女の視線に晒されながら話を切り出せずに口を噤む。
再度訪れた気まずい雰囲気の中、考えが纏まったのか、イヴが手を出しながら口を開く。
「そうそう、あなたを助けたお礼頂戴。金貨10枚ね」
クランは彼女の言葉に息を呑む。
今回の依頼で街を離れる際、クリスのアジトに貴重品はほとんど預けてきたため、通貨はほとんど持っていなかった。
「すみません、今そんなに手持ちが無くて……」
そもそも謝礼としては法外な金額だ、本当に貰えるなどと考えていなかったイヴは、彼の言葉に唖然とした。
この人お金を持っていたら払うの? と。
多少心惹かれるのを感じながら、彼女は再度口を開く。
「払えないんならしょうがないね。じゃあ代わりにあたしも一緒にグランデル公国まで連れて行って」
そこで本当にお願いしたかった事を彼女が要求した。最初に無茶な事を言ったのも、このお願いを相手が断りづらくするためだ。
クランは、悪びれた様子も無く笑顔を浮かべているイヴをまじまじと見つめながら答える。
「かまいませんけど、家族は承諾しているんですか?」
「大丈夫。あたしの両親は冒険者で、そこら辺を好き勝手に飛び回っているから。この間戻ってきたのも、半年位前だしね」
「そうなんですか……」
クランはイヴの話を聞いて、なんとなく気まずそうに視線をそらす。
「気にしないでよ。昔っからそうなんだから。あたしがついて行くって言っても、半人前は連れて行けないなんて言うし、こんな所で上達しようにも一人じゃ無理じゃない」
両親の言葉を思い出したのか、彼女は頬を膨らませながら此処にはいない人物に文句を言う。
彼女のそんな姿を見たクランは、少し考えた後、彼女に告げる。
「……わかりました。グランデル公国まで案内します」
「ありがとう、足手まといにはならないと思うから。精霊魔法も使えるしね」
嬉しそうにクランに礼を言いながら、彼女は心の中で自賛していた、あたしの交渉術も大したものね、と。
だが、次のクランの言葉で彼女は早まったかなと考え直す事になる。
「精霊魔法ってなんですか?」
「……きみ、冒険者よね? そんな格好してるんだから……」
旅の道中、人畜無害そうな彼なら危険な目に合わないだろうと考えて道案内を頼んだが、別の意味での危険はありそうね、と彼女はこめかみに冷や汗をかく事になった。
その後、クランの体調の事を考えて出発を三日後に取決めると、その日が訪れるまでクランはイヴに時間のゆるす限り、疑問に思った事を質問していた。
まず、精霊魔法についてだ。
それは自然界に存在する精霊達に力を借りる事によって発動する魔法だ。
これも神聖魔法と同様に誰でも使えるものではなく、精霊と意思の疎通が出来る一部の者しか使用できない。
精霊には四大精霊として大地の精霊、水の精霊、火の精霊、風の精霊が存在する。
その他にも、名も無き精霊達もいるが、それらの力を借りた魔法を使える精霊使いの数は数えるほどしかいない。
そして精霊との相性という物もあり、まったく力を借りる事の出来ない精霊がいる者や、力を借りる事は出来るが多くの魔力を必要とする者もいる。
イヴは四大精霊すべての力を借りることが出来るが、一番相性の良い精霊は大地の精霊だ。
それを聞いたクランが、「すごいですね」と純粋に感想を口にしたら、「地味で悪かったわね」と嫌味だと思ったイヴがすねて機嫌を取る事に苦労したが。
他に魔力についてクランが尋ねると、精霊に力を借りる時に渡す物といった抽象的な答えが返って来たため、その質問は保留する事にした。
古代魔法を使う人の方がそこら辺については詳しいらしい、という事だけは分かった。
そして、今いる場所はレムリアース王国の西、途中の二つの村を越えた先にある森の中らしい。
らしいと言うのも、イヴは森から一番近い村までしか外に出た事が無いからだ。
なんでも、精霊使いとしての力を身に付けるためには、出来るだけ精霊達の声が聞ける場所、自然の中にいたほうがいいという両親の意向が有ったからのようだ。
そして、イヴの「冒険者なのにそんな事も知らないの?」といった視線に晒されながら、出発の日を迎える事となった。
家を離れるのなら動物達が入ってこないように入り口を塞いだ方が良いと言うクランに、両親が大地の精霊に加護を願ったから平気と答えたイヴの言葉を信じ、身の回りの準備だけ済ませ、最初の村 サリウス村に向かって二人は旅立った。




