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早朝からクラン達は、突入予定の帝国施設の近くで最後の確認を行っていた。
「昨日の夜から今日の朝まで、施設に出入りする人影は無かった。また、施設内から漏れる光も確認できなかった。だが油断はするな、敵が我々を事前に察知し、罠を張っている可能性もある」
クリスが今回の作戦に参加した者、一人一人を見ながら説明する。
「では突入作戦の概要を確認する。第二グループ、第三グループが配置についた事を確認後、わたし、グレック、レナ、クランで施設の正面から侵入する。陽動だから派手にやらないとな。わたし達が敵に発見され戦闘開始を確認後、裏口、及び窓二箇所より各2セルが突入する。上手く行けば敵の不意を突く事ができるだろう。その間、残りの4セルは周囲の警戒、脱出時の援護を行う。また、今回の作戦は敵機密書類の確保だ。戦闘継続が困難になった場合は、書類持ち出し担当員の脱出を優先しろ。以上だ、なにか質問はあるか?」
誰からも質問がない事を確認すると、彼女が口を開く。
「作戦を開始する。各員配置につけ!」
密偵達は音も無く自分達の役割を果たすべく移動を開始した。
「行くわよ」
クリスの言葉を合図にクラン達も移動を開始する。
全員が配置についた事を確認すると、クリスとグレックが音も無く正面玄関に走る。
二人は玄関にたどり着くと扉に罠が無いか調べ、クランとレナにクリアのハンドサインを出すと、クランとレナは彼女達に合流すべく走り出す。
四人そろったところで、クリスが玄関扉を静かに開け中を覗う。
彼女は敵の姿が無い事を確認すると、中へ体を滑り込ませるせ、その後をグレック、クラン、レナの順番で続く。
施設の中に入った四人は、周囲を警戒しながら一階の捜索を開始した。
玄関から近い部屋から確認しだした四人は、徐々に焦燥感を募らせていった。
「クリア」
一階の最後の一部屋を捜索した所で、四人は新たなプランの立案に迫られた。
「誰もいないな」
「そうね。この階の部屋は全部見たから、あとは二階と地下だけね」
小声で話すレナに、途中で見つけた階段の事を考えながらクリスが答えた。
この階にあった部屋はベットの置かれた部屋が三つ、改装して大きく拡張されたキッチンと、ダイニング。そして会議室のような大き目の部屋。
だが、いずれの部屋も人の生活している気配が無かった。
「第二グループを待機させている必要が無くなったので、彼らにもこの施設の捜索をしてもらいましょう」
自分の副官の言葉にクリスが頷く。
「クランとレナは第二グループに施設の捜索を指示してた後、2セルを連れて二階の捜索をして。3セルは一階の捜索、残った1セルを地下に下ろして。先にわたしとグレックが行ってるから」
「大丈夫ですか?」
増援を待たず先に進もうとする指揮官にクランが心配そうな顔をする。
「わたしを誰だと思っている?」
彼女は不敵な表情を浮かべていた。
「行くぞグレック」
クリスは左手に松明を持ち、信頼する自分の副官に声をかけ地下室の階段を下りる。
グレックもまた、左手に松明を持ち自分の上官に続く。
階段を下りた二人はカビ臭い通路を進む。
「どうやら、目的の施設で間違いないようだな」
クリスが小声でつぶやく。
石で組まれた通路には、人を閉じ込めるため格子でふさがれた部屋が並んでいた。
それらの部屋を松明で照らしながら進んでいたクリスは、ひとつの部屋の前で足を止める。
そこには、格子越しにクリスを見つめる子供達が閉じ込められていた。
彼女は懐から密偵の七つ道具を出すと。格子の鍵穴に金属の棒を差し込む。
しばらく鍵穴と格闘していると、鍵の開く音が地下室に響き渡る。
閉じ込められていた子供達は、鍵を開け自分達の部屋に入ってきた女性を見た。
クリスが子供達を照らすと、いつから閉じ込められていたのか、ぼろぼろの粗末な服を身にまとい、骨と皮だけの体をしていた。
クリス達の来るのがもう少し遅ければ、餓死した子供もいただろう。
そんな子供達を見ながら彼女は口を開く。
「わたしはグレンデル公国のクリス……」
そこで一度言葉を区切ると、子供達を一人一人見る。
そして、子供達の自分を映す瞳を確認した後、続きの言葉を口にした。
「……あなた達の命を刈り取る者よ」
そう言うと、唇を吊り上げる。
それはこれから起こる事を考え、愉悦に打ち震えているようだった。
そして、彼女の剣が松明の光を反射して閃く。
数分後、返り血で真っ赤になったクリスが顔に嘲笑を浮かべていた。
動かなくなった子供達の数を数え終え、彼女が部屋の外を見ると、いつの間に現れたのかクランと目が合った。
「二階にも誰もいなかったので、レナさんと密偵の人達に任せてきました」
部屋から出てきたクリスにクランが報告する。
「そう、ご苦労様。なに? なにか言いたい事あるの?」
自分から視線を逸らさない彼に尋ねる。
「いえ、任務中ですから。ただ、血は落としておいて下さい。帰りに肉食の動物が寄ってきますから」
「わかったわ、それとこの階の捜索をするのなら、子供達を見つけた時には、わたしに報告しなさい」
「……わかりました」
そう言い残してクランは奥に進んだ。
「申し訳ありません。クラン様の気配に気付きませんでした」
グレックは自分の失態を目の前に立つ上官に詫びる。
「気にするな、知るのが遅いか早いかの違いだ。だが、今後こんな殺しに悦びを感じる者の依頼は受けてくれないかもしれないな」
上官の言葉を、彼は俯いて聞いていた。
数人で捜索した地下室にも敵は発見できなかった。
地下にあったのは、子供達を閉じ込めておくための部屋、ネイを祭る祭壇、そして実験をしていたと思われる部屋だけだった。
「上を見に行くわよ」
地下の捜索を部下たちに任せて、可能な限り血を落としたクリスは、クランとグレックを連れて二階に向かう。
「どうレナ?」
二階に上がったクリスが、書庫の中にいたレナに気付き声をかけた。
「たいした物はないな」
数人の密偵と共に書類を調べていた彼女が、所々血の付いているクリスに眉をひそめながら答える。
「そう、やっぱり廃棄された施設みたいね」
歯抜けになっている本棚を見ながらクリスがつぶやく。
「ん? どうしたのクランさん。調べるの手伝ってくれない?」
部屋の隅で立ったままじっとしているクランにクリスが話しかける。
「すみません。僕は字があまり……」
「ああ、字が読めないんだっけ?」
彼女が思い出したように口にする。
「じゃあ、えーと、レナの手伝いでもしてて」
「わかりました」
そう言うとクランはいそいそとレナの横へ移動した。
「名簿かな? これは?」
「見せてください。」
書類を持ったレナのつぶやきに、クランが手元を覗き込む。
「日付と名前と性別、それと……識別番号と種族ですか?」
記憶を取り戻してからレナに文字の読み方を教わっていたクランが、何とか読解する。
「よく読めたな」
自分の教え子の成長に、レナはうれしそうに目を細める。
「貸して貰えますか?」
クランの言葉にレナは頷くと、彼に書類を渡し自分は他の書類を調べだす。
書類を受け取ったクランは、一ページずつ羊皮紙をめくる。
「あった……」
クランが指差した所には、自分が無力だったために助けられなかった少女の名前が記されていた。
彼は『サラ』と書かれている場所を、慈しむ様に見つめる。
そして、彼の瞳には光るものが浮かんでいた。
レナは彫刻のように動かないクランに気付いたが、見なかったふりをして次の書類に手を伸ばす。
そして、クリスもクランを一瞥した後、手元の書類に視線を落とした。
静かに時間が流れる中、突然クランが顔を上げる。
「レナさん、持ってて下さい」
そう言って名簿を渡すと、書庫を出て廊下の突き当たりにある窓へ走り出す。
レナは一瞬呆然とするが、いち早く後を追ったクリスに続く。
「突然どうしたの?」
クリスが窓の外を見つめるクランに話しかける。
「嫌な感じがします。撤収準備を始めたほうがいいかもしれません」
クリスは彼の言葉に躊躇するが、いつの間にか側らに控えていたグレックに指示を出す。
「撤収する、準備しろ」
そう言うと彼女もレナと一緒に引き上げる準備を始める。
そして、密偵達が持ち出す書類や、備品をまとめ施設から出た所でそれはやって来た。
高さは3メートル強、太ももは丸太のように太く、体は緑の鱗で覆われ長い尾を持ち、腕は無い代わりに広げれば8メートルは有ろうかという翼を持つ。
「ワイバーン……」
誰かが突然現れた死神を見てつぶやいた。




