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異世界での過ごし方  作者: 太郎
異世界
48/130

46

翌日。

目を覚ましたクランが、自分がレナに寄りかかって寝ていた事に軽くパニックを起こす。

それが収まるとクリスに当直に立たなかった事をしきりに謝る。

クリスが気にするなと言っても沈んだ表情をしているので、仕方なく彼女はクランに言う。


「なに? わたしがあなたを起こすのを忘れていたのよ。それとも、わたしに忘れていた事を謝ってほしいの?」


クリスの言葉にクランは黙り込む。


「過ぎちゃったことはしょうがないじゃない。今夜はグレックに起こしてもらいなさい」


とりあえずクランを納得させることには成功したが、この日から彼を起こすはずの人間が必ず起こす事を忘れるため、クランは最後まで当直に立つ事ができなかった。




いつもの様に森の中を進み、やがて夜がやって来た。

周囲の捜索を終えたクランが野営地に戻ると、レナが彼にパンと水を差し出す。

クランは礼を言って受け取ると、食事を開始する。

そんな彼を見ながらクリスが口を開く。


「今日は昨日よりましな顔色してるじゃない。ゾンビじゃなくてヴァンパイア位かしら」


「どちらにしろうれしくないですね」


クランがクリスの軽口に答える。


「昨日より今日の方が負担が少なかったのかな?」


レナがクランに話しかける。


「そうですね。皆さん慣れてきたのか森を歩くのもスムーズでしたし、ハンドサインも積極的に活用して周りのセルとの連携を上手く取ってたので、僕は後ろの方をあまり気にせず、前方に集中できたのでかなり楽になりました」


聞き耳を立てていた密偵たちが、心の中でガッツポーズをする。無論表情には出さないが。

そのため、昨日に比べ静かながらも雰囲気は悪くなかった。


「そうか、じゃあ昨日のクリスの演説は無駄じゃ無かったんだな」


そう言いながらレナがクリスを見る。


「言葉はタダだからね」


そんな二人のやり取りを、クランは不思議そうに見ていた。




森の中を捜索して五日目。

手持ちの食料も少なくなり、全員の疲労も無視できないほど蓄積されていた。

森の中を進みながら、クリスは作戦の中止も選択肢に入れだした頃、クランが全員に姿勢を低くして止まる様に指示を出して一人で奥へと進む。

全員が待つ事にストレスを感じ出した頃、クランが姿を現した。

密偵達の視線が集まる中、クランは報告する。

目的の施設を発見したことを。


レナとグレックはクランに案内されて、潜んでいる藪から30メートル程離れた施設を見ていた。

施設は木造の二階建てで、各階10室はありそうな大きな建物だった。


「クランさんの言った通りね、見張りがどこにもいないわ」


「はい。周囲に人の気配もありません」


クリスの言葉にクランが答える。


「アンブッシュの可能性も低いか……」


クリスが施設を見つめたまま考える。

まさか見張りがいないとは考えていなかった。そのためもしかしたら目的の施設ではないのかもという事も考えられる。

いたずらに突入して、もし間違っていたら本命の施設の警備レベルを上げてしまうかもしれない。

思考の迷宮に入りかけた所で、クランに声をかけられた。


「一旦皆の所に戻りませんか?」


確かにここで考えていても仕方ない、そう思いクリスはこの場所を離れる事にした。


「……というわけだ」


皆が待機している場所に戻ったクリスは集めたリーダー達に状況を説明する。


「結局の所、突入してみなければわからないのでは?」


誰かがもっともな意見を口にする。

そして、クランが続けて口を開く。


「そうですね。事前の情報通りあの施設の奥には妙な気配があります。あれが迷いの森かもしれません。それに、皆の疲労も戦闘の可能性を考えると限界に近いと思います」


クリスは意見を一通り聞いた後決断する。

明日の朝まで施設を少人数で監視し、人の有無を確認する。

そして、結果に関わらず突入すると。


「僕も監視の任務に就きます」


クランが施設の監視に向かうクリスに話しかける。


「馬鹿なことを言わないでクランさん。ここまであなたにおんぶに抱っこで来たのよ。このぐらいやらなきゃ格好付かないじゃない」


クリスが苦笑しながら答える。


「でも……」


「今日のあなたはきちんと休むのが仕事。明日は最初に突入してもらうんだから」


なおも渋るクランに、密偵達が声をかける。


「やっと出番が来たんだ、任せてくれ」

「給料分は働かないとな」

「このぐらいやらないとクビになっちまう」

「働きすぎだ、今日ぐらい休め」

「少しは頼ってくれ、頼りないけどな」


そんな彼らにクランは頭を下げる。

それを見た密偵達はにわかに色めき立つ。

いままで足手まといだった自分達がやっと役に立てる。

年下の仲間が頑張り続けているのに自分達は見ている事しかできなかった。

疲労は確かにある、だがそれがどうした。そんなもの今までの無力感に比べれば無きも等しい。


「行くぞ、お前達」


クリスの言葉に彼らは静かな闘志を燃やす。


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