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異世界での過ごし方  作者: 太郎
異世界
47/130

45

今回の作戦に参加する全員に作戦概要を説明し、セルを決めハンドサインを教え、迷彩をほどこす頃には日はかなり高いところまで上っていた。

改めてクリスが作戦開始の声を上げると、ツーマンセルを組んだクランと一緒に森に踏み込む。

二人の後に続いて他のセルが森に入り、最後にグレックとレナのセルが殿を勤める。

クランは、周囲の気配を探り森の外からは発見されない位置取りをしながら、外周部すれすれに進む。

そのスピードは速く、森に慣れていない者など遅れないようにするのに必死だった。

それでいて誰も気付くことの出来ない距離で野生動物の気配に気付き、いたずらに動物を刺激しないように、ハンドサインで停止や迂回などの指示を後続に出す。

そのため、後ろの方を歩く者等はこの森には動物やモンスター等いないのでは、などと思ったりしていた。

そして辺りが暗くなると、脱落者が出ないように早めに野営の準備を始め、固いパンや干し肉の他に、森を歩きながらクランが採った果実等が夕食に並べられた。


「思ったより進めたわね」


クリスが干し肉をかじりながらグレックに話し掛ける。


「はい、森に入る時間が予定より遅かったのに、かなり距離を稼げたようです」


「これもクランさんのお陰かしら」


「そうだな、ゴブリンの調査に森に入った時もかなり助けてもらったからな」


レナが途中から二人の会話に加わる。


「ああ、ウォーベアーを倒した時の事?」


クリスの言葉にレナは笑いながら話す。


「あの時はもっとすごかったよ、付いて行くのがやっとだったから。目の前を歩いているクランを見失いそうになった。それでいて大型の動物に最初に気付いて迂回したり、風下に移動してやり過ごしたりしたよ」


いつの間にか周囲の者達もレナの言葉に耳を傾ける。


「正直信じられないわね」


クリスが皆の言葉を代弁する。


「クリス。お前はもう分かってると思うが、見た目や態度でクランを図るな。クランは私などよりよほど強い心を持っている。本人は過去を振り返り、自分を弱いと思っている様だが、それらを乗り越えるうちに彼は強くなった。でなければ、私はウォーベアーに殺されていた」


野営地を決めるために周囲を索敵し、大型動物の縄張りでもない事を確認した後、泥の様に眠りについたクランを見ながらレナが言った。


「冒険者ギルドで彼は、レナ様の尻を追いかけていると言われている様ですが……」


グレックが言いずらそうに口を開いた。


「グレック、あなたもそう思うか?」


彼の言葉にレナが問い返す。


「いえ」


「相手の事を知りもしないのに想像で決め付ける。そしていざという時に足元をすくわれる。それを三流と言うんだ」


レナが思いつめたような真剣な表情で話す。


「まあ、それ以外にもレナのお気に入りだからってのもあるわよね」


ちゃかすクリスの言葉にレナは顔を赤くする。もっとも暗いため本人以外には気付かないが。


「なにを言い出すんだ、おまえは!」


「あら、図星?」


「ちがう!」


クリスの軽口に皆が笑う。

(ちょっとは緊張がほぐれたかしら?)

慣れない任務に従事させている周囲の部下を見回しながら、クリスが心の中でつぶやく。

そして、当直を決めると残りの者達が眠りについた。



翌朝、当直に立たなかった事をしきりに謝るクランを落着かせ、簡単な朝食を取った後、帝国の施設の捜索を再開する。

昨日と同じようにクランとクリスが先頭に立ち周囲を索敵しながら森の中を進む。

だが、その速度は昨日を更に上回る。

そして、ハンドサインを使用した情報も比例するように増えてゆく。


(後続は着いてこれてるの?)


クリスは自分の前を進むクランに遅れまいと必死に足を動かす。

後ろを見ても木々が邪魔をして、全員を確認できない事に徐々に焦燥感が沸き起こる。

休憩のためか、姿勢を低くしてこの場所に止まるようにクランが指示を出したタイミングで話しかける。


「クランさん、進むのが早過ぎない? 後続が付いて来てるかわからないわ」


「殿のレナさんとグレックさんなら、あと15秒程で追い付くはずです。僕はこの先を見てくるのでその間休んでいてください」


そう言い残すと、彼は森の奥に向かって音を立てない様に走り出す。

クリスからその姿が見えなくなるとほぼ同時に、レナとグレックが合流した。

それから昼食の時を含め、クランは全員に休憩を取らせながら周囲の捜索を続けた。




日も傾いてきた頃、クランが今日最後の休憩を取って貰おうと止まれの指示を後方に出す。

そして、自分が捜索に出るため足を踏み出そうとすると後ろから肩を掴まれた。

彼が振り返ると、クリスが険しい顔でクランを見ている。


「どうしたんですか?」


「今日はここで野営をするわ」


クランの問いに、彼女は言葉少なく答えた。


「まだ日が出てるので……」


もう少し進みましょうと言おうとする彼の言葉を遮り、クリスが怒ったように言う。


「ふざけないで、あなた今自分がどんな顔してるか分かってる? ゾンビだってもう少しマシな顔をしてるわよ。わたしの言うことが聞けないんなら街に帰りなさい」


「……わかりました。でも、周囲の安全確認だけは行かせてください」


クリスの目を見ながら言うクランに、彼女は頷いた。




密偵達が野営の準備――といってもやる事はほとんど無いが――を終え、思い思いに夕食を取り出した頃にクランが戻ってきた。

クランは木の幹に体を預けると、そのまま重力に引かれる様に座り込む。

その姿に辺りは静まり返る。


「クラン、今日は昼食も食べてないだろう。体が持たないぞ」


レナが固いパンと、煮沸してある水をクランに差し出すと、クランは弱々しい笑みを浮かべながら彼女から食事を受け取った。

パンを千切り、水で流し込む姿に辺りに重苦しい雰囲気が立ち込める。

それを破るように密偵達のリーダー格の男の一人が、軽口を言う。


「今日は昨日よりは進むのが早かったから、はぐれない様に頭に手を引いて貰おうと思ったぜ」


「馬鹿、頭って呼んだら怒られるぞ。盗賊じゃないって」


近くで答えた別の密偵の言葉に笑いが起こる。


「進むスピード速かったですか? 殿の位置を確認しながらハンドサインで調整したつもりだったんですけど……」


パンを飲み込んだクランが、リーダー格の男に声をかけた。


「いや、冗談だけどよ。だけど、先頭からだと木が邪魔で殿まで見えないだろ」


男が当然の疑問を口にする。

それもそうだろう、男は殿の一組前にいた。そこからでは木や草で先頭までとても見えなかった。


「はい、視線は通りません。だから、気配で確認していました」


クランの言葉に男は絶句する。

当たり前だ、先頭から殿まで余裕で30メートルは離れている。


「それは本当ですか? クラン様」


それまで黙って聞いていたグレックが口を開く。

グレックはクリスには戦闘技術、交渉等では及ばない。

だが、密偵の技術、たとえば、敵の気配を察知したり、気配を消したりする事では勝る事は有っても劣る事は無いと自負している。

その自分でさえ、周囲の数セルの位置しか察知できなかった。

そのため、とてもクランの言っている事を信じる事ができなかった。

だが、そんな彼の胸中には気付かず、クランが口を開いた。


「さすがにきっちり何処と言える程はわかりませんが、大体の位置はわかります。ただ、グレックさんは気配を隠していたので、レナさんの気配を探る様にはしていました」


気配を隠していたのを認識していたという事は、クランは僅かに漏れていた気配を感じ取っていたという事になる。

完全に気配を殺していれば、何処にいるのかまったく察知されないからだ。

その考えにたどり着いた時、グレックは自分の血の気が引くのを感じた。

だが、クラン自身はこの任務で犠牲者を出したくないという強い思いが、自分の第六感ともいうべき物を急速に鍛え上げ、気配を感じ取ることに関して、自分が常人の到達できる地点を既に通り越している事に気付いていなかった。


「食べ終わったならしゃべってないでさっさと寝なさい。当直の番になったらわたしが起こすから」


クリスは凍りついたように動かない副官を見ながら、クランに声を掛ける。


「お願いします」


クリスが手をめんどくさそうに振ったのを見ると、クランはかろうじでつなぎ止めていた意識を手放した。

すぐにクランが寝息を立てだすと、レナは毛布を彼に掛けた後、彼が寄り掛れるように隣に腰を下ろす。

クリスはそれを横目で見た後立ち上がり、静かに部下達に話しだした。


「ここまで一人の脱落者も無く来た事、一応褒めておこう。だが、なぜそれができたか分かるか? それは、貴様らが安全なピクニックできるように、クランが身を削るような思いをしているからだ。なぜ貴様らより遥かに若い子供が、食事もせずに、疲労で意識を失うような思いをしているか分かるか?」


クリスは一旦言葉を区切り、厳しい視線で部下達を見渡す。


「それは、ここにいる全員が無能だからだ! このような至れり尽くせりの、子供でもできる様な任務で脱落者が出る事はわたしが許さん! もし、一人でも脱落するような者がいたら、街に戻ってから血を吐くまで再訓練だ! 分かったら当直を除いて明日のために休め! 以上だ!」


怒りを抑えることもせず部下達に話し終えた彼女は、毛布を準備し横になる。


「一人で抱え込むんじゃないわよ……」


そして、レナに寄りかかるクランを一瞥して、自分の無能さをかみ締めながら眠りに就いた。


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