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過去に訪れたことのあるクリスのアジトで、依頼の詳しい説明を聞くことになった。
「適当に座って」
クランとレナに声を掛けると、クリスは自分の机につく。
二人は顔を見合わせ、クリスの対面にある椅子に腰下ろした。
それとほぼ同時に、ドアからグレックが入室する。
「さてと、悪いんだけど詳しい説明をする前に依頼を受けるか返事を聞かせてもらえるかしら? 疑うわけじゃないんだけど、どこから情報が漏れるか分からないしね。ただ、危険な仕事だとだけ言っておくわ。いまなら断ってくれてもかまわないわよ?」
面子がそろった所でクリスが口を開いた。
「僕は受けようと思います」
クランが間をおかずに答える。
その間レナはクリスの顔を見つめていた。クランの答えを聞いたクリスもレナを見る。
「……わかった。依頼を受ける。だが報酬はクランの分だけでいい」
しばらくクリスを見ていたレナが答えた。
「なに? 貸しを作るつもり?」
レナの答えにクリスが笑う。
「借りを返すだけだ」
「貸しを作った覚えは無いんだけどね。まあいいわ」
言葉少なく答えたレナにクリスが言った。
「じゃあ、説明してグレック」
「レナ様、クラン様、お会いするのは二回目になりますが、私はグレックと申します。今回の依頼について説明させていただきます」
クラン達はクリスに指示を受けた男を見た。
男はこの世界の男性としては小柄で身長は160Cm強、茶髪に黒い瞳をし、密偵らしくバランスよく鍛えられた体をしていた。
「帝国の南の森の中、迷いの森の範囲の手前に帝国の実験体研究施設が在るとの情報を入手しました。今回の依頼は、その施設の所在が確認できしだいの突入となります。帝国の重要施設のため、かなり激しい戦闘が想像されます。また、今回の作戦には当組織の腕利きの密偵20名を投入する予定です」
グレックの説明を聞いたクランが口を開く。
「人数が少ないのは帝国に察知されないようにするためですか?」
「ええ、その通りよ。わざわざ迷いの森の近くに在るんだから、向こうの人員は多くないと判断したわ。人が多ければそれだけ荷物や人の出入りで目立つしね」
クランが頷くと、クリスが説明を続ける。
「まず第一陣として精鋭で施設に突入するわ。その後、第二陣が突入する。それで、レナとクランさんにはわたしと一緒に最初に施設に突入してもらう予定。なにか質問あるかしら?」
「……」
何か考え込んでいる様子のクランにクリスが小首を傾げる。
「どうしたの? 何か気になることあるのクランさん」
「……いえ、一陣と二陣を分けるって事は、複数の突入口があるという想定ですか?」
クランの答えにグレックが一瞬驚いた表情を浮かべる。
「そうね、その通りよ。他には何かある?」
クリスの問いかけにクランはおずおずと口を開いた。
「……迷いの森ってなんですか?」
「……レナ、説明して」
クランの質問に、クリスが説明役のレナに声を掛ける。
レナはクリスに苦笑すると、迷いの森について知っている事を説明する。
迷いの森。
それは、ヘリオン帝国がドワーフ達との戦争に勝利した次の標的に、帝国の南の森に住むエルフ達へ侵攻を始めたときに生まれた。
帝国の猛攻に晒されたエルフ達は、生き残るために森を閉ざす。
そこへ入った帝国の兵士達は一人として帰ってこなかった。
帝国は撤退し、それ以降エルフの閉ざした森は‘迷いの森’と呼ばれるようになった。
「……という感じかな?」
説明を終えたレナがクランを見た。
クランはレナに礼を言った後、クリスに向き直る。
「僕の聞きたいことは以上です。レナさんは?」
クランの問いかけにレナは首を振って答える。
「じゃあ話はこれで終わりね。先発組みは今日の夜に出発するけど、わたし達は2日後の夜に出発予定よ。グレックが宿まで迎えに行くから、それまでに準備を済ませておいてね。わかってると思うけど、ここでの話は他言無用よ」
クラン達に質問することが無いことを確認すると、出立の予定を伝えてクリスが席を立つ。
「じゃあグレック。二人をお見送りしなさい」
クリスの言葉にグレックはドアを開けてクラン達を待つ。
「じゃあまたな、クリス」
「失礼します」
二人が挨拶を言い部屋を後にすると、ドアを閉めたグレックが感心した様子でクリスに話しかける。
「クラン様はずいぶん頭の回転が速いですね」
「そうだな、かなり高度な知識も持っているし、きっと十分な教育を受けていたのだろう。もしかしたら、異国の貴族なのかも知れないな」
「そうですね、それでしたら納得できます」
などと、クランが聞いたら全力で否定するような推測をしていた。
アジトから出たクランとレナは、その足でグレンの店に向かった。
「こんにちは、親父さん居るかな」
いつもの様にレナが店の中に入り奥に声をかける。
「おう、譲ちゃんか。頼まれてた物出来てるから、こっちに来てくれ」
奥から顔を出したグレンがレナに気付くと、手招きする。
レナはクランに行ってくると声を掛けて店の奥に向かった。
クランがしばらく店で鎧や盾を見て時間を潰していると、ウォーベアーの毛皮で作られた白銀の革鎧を身に着けたレナが奥から出てきた。
「どうかな、クラン」
「戦乙女が現れたのかと思いました」
一瞬レナの姿に見とれたクランが思わず口にする。
「バカ、年上をからかうな」
恥ずかしそうにしたレナが口を尖らせ、だがどこかうれしそうな表情を浮かべながら言った。
「クランにも来てもらいたいんだが、なんだか頼みづらい雰囲気だな」
奥から顔を覗かせたグレンが二人に声をかける。
グレンの言葉に顔を真っ赤にしたレナが、店のカウンターの上に置いてあった物を反射的にグレンに投げつける。
グレンは自分の顔の数センチ横に刺さったナイフを見て青い顔をした。
「からかうのも命がけだな……」
そうつぶやくとすごすごと奥へ戻っていく。
「ちょっと行ってきますね」
クランはレナに声をかけ、小走りで奥へ向かった。
レナはしばらくグレックの居るほうを睨んだ後、小さくつぶやく。
「戦乙女か……」
そして、しばらく笑顔で自分の新しい鎧を見つめていた。
クランが革鎧を身に着け店に戻る頃には、レナはすっかり落ち着いていた。
グレンはカウンターから引っ張り出した椅子に腰掛けると、クランとレナに鎧の説明をする。
「その革鎧の傷みそうな所は修理しやすいように、所々鹿の皮を使ってる。だが強度的には問題ないから心配するな。それと動きやすいように、クゥイスは着けずにタセットとパウレインで補うようにしてある。問題があるようだったら後で言ってくれ。それで着けてみてどうだ? どこかおかしい所はあるか?」
レナは首を振って問題ない事を伝える。
グレンは頷くと、クランはどうかと彼を見る。
「お願いしたい事があるんですけれどいいですか?」
グレンの視線を受けたクランが口を開く。
「なんだ?」
「ガントレットですけれど、甲の部分から手の第二間接まで覆うようには出来ますか?」
グレンは首を傾げながら聞き返す。
「それは可能だが、指一本づつか?」
「はい」
「なんだ? 剣がないときに殴りつけるのか?」
グレンが笑いながら言う。
「はい」
「本気か?」
クランの答えに思わず聞き返す。
「はい」
クランが再度返事をすると、グレンは腕を組み返事をする。
「わかった、作っておく。だが、顔に似合わず攻撃的なんだな」
「攻撃の手段は多いいほどいいですからね」
クランが苦笑しながら答えた。
「……あ、それともう一つお願いがあります」
「なんだ?」
グレンは苦笑しながらクランの二つ目のお願いを聞く。
「……もちろん準備出来るがどうするんだそんなもの?」
「ちょっと使う予定が出来まして」
グレンは不思議そうにクランを見つめた。




