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ドワーフ達に案内されながら一時間程歩いたクラン達は、山中にある洞窟の中にいた。
こぢんまりとした部屋の壁に掛けられた松明が、ドワーフの彫りの深い顔と、小柄だがまるで筋肉の鎧をまとった様な体を照らす。
クラン達は精巧な彫刻がされたテーブルを挟んで、長とその側近と思われるドワーフと対面していた。
「わしがこの集落をまとめる長のフンベルトだ。そして隣にいるのが側近のグスタフだ」
フンベルトが長らしく、威厳のある声で名乗る。
「お目にかかれて光栄です。私はクリス、そして私の右に座るのがレナ、左がクランと申します」
テーブルの中央に座ったクリスが、ドワーフの長が共通語で名乗ったため同じく共通語で自己紹介をした。
「今回は同胞の最後を看取ってくれた人間に、恩を仇で返すところだった。すまなかった」
クリスはフンベルトの言葉に首を振りながら答える。
「とんでもございません。お互い怪我も無かったのですから、私達には過分なお言葉です」
「そう言ってもらえると助かる」
フンベルトが表情を和らげる。
「亡くなったドワーフの方は、アダルブレヒトと名乗っていました。そして、これがその時譲り受けた剣です」
フンベルトの言葉で幾分和らいだ雰囲気になったのを感じたクリスは、ドワーフ達が気にかけている話題を切り出しクランの剣をテーブルの上に置く。
「その剣を確認させてもらってよいか?」
クリスの了解を得ると、フンベルトは剣を手に取り熱心に見る。
側近もそれとなく剣に視線を向けていた。
(やけに剣に興味を持つのね、数年前まで作られていた剣のはずなのに。ヴィルヘルムが死んでいるとはいえ、なんか妙ね)
クリスは剣を熱心に見るドワーフ達を眺めながら考えていた。
しばらく剣を検めていたフンベルトは、それを鞘に戻しテーブルの上に置くと、二言三言側近と話しクリスに向き直る。
「残念ながらアダルブレヒトという名に聞き覚えは無い。だが、ヴィルヘルムの剣を持っていたという事は、我らが同胞に間違いは無い。知らせてくれた事、改めて感謝する。なにか礼でもしたいが、今日はもう遅い。我らの集落で休んでいってくれ。ただ、疑うわけではないがお前達の武器は預からせてもらう」
フンベルトに武器を預けたクリス達は、あてがわれた部屋で今日感じた違和感を話し合っていた。
「なんか妙な感じだったわね~。レナ、あなたはどう感じた?」
「……そうだな、確かに違和感を感じたな」
クリスの問いかけに、少し考えてレナが答える。
「まあいいわ、明日の状況を見て考えましょ。しかしここ肌寒いわね。ドワーフ達が置いてきた荷物取って来てくれて助かったわね」
自分の荷物から毛布を引っ張り出すと、クリスは部屋に置かれたベッドに横になる。
「あなた達も休みなさい」
そう言うと瞬く間に寝息を立てだした。
翌朝、ドワーフ達が部屋に運んでくれた食事を食べたクラン達は、礼がしたいと言うフンベルトに「レナに合った剣があれば頂きたい」と言うと武器庫に案内された。
「ここには我らの作った武器、全てが納められている。どれでも構わぬ、好きな物を選べ」
フンベルトが言うと、クラン達はレナに合いそうな細身の剣を探す事にした。
剣を探しながら、ふと気になったクランが何本かの剣を松明の光にかざしていると
「どうした? 何か気になる事でもあるのか?」
フンベルトがクランに声を掛ける。
「いえ、鍛造で作られているんだなと感心していたところです」
「ほう、人間のわりには鉄のことが分かるようだな。それでどうだ、我らの作った武器は?」
フンベルトが岩のような顔に笑顔を浮かべて問う。
「そうですね、お気を悪くしないでほしいのですが、それほど鍛えられているようには感じませんでした」
「面白いことを言うな。おまえは鉄の鍛え方を知っているのか?」
どこか探るような感じでフンベルトがクランに聞く。
「ええ、何種類も知っている訳ではないのですが、多少の知識は持っているつもりです」
クランの言葉にフンベルトは一瞬我を失う。
そして、「人間達よ、付いて来てくれるか」と言うと、武器庫を出て歩き出す。クリスとレナは持っていた武器を置くと慌てて後を追った。
「ちょっと、クランさん。なに話していたのよ?」
クリスがフンベルトの後ろを歩くクランに近づき、小声で話しかける。
「フンベルトの機嫌損ねて剣は無しなんていやよ」
「見ていた剣の事を聞かれたので、ちょっと思った事を言っただけです」
「思った事って、なに言ったのよ?」
「『あまり鍛えられていないように見えます』って言いました」
クランの言葉にクリスは絶句する。
「あなたが剣を見てどう思ったか知らないけど、何でも正直に言えばいいってものじゃないわよ。わかる?」
「はい」
「まあいいわ、嘘でも何でもいいからちゃんとフォローしなさいよ」
そう言うとクリスはクランから離れた。
クラン達は少し大きめの部屋に通されると、フンベルトに「椅子に座って待っててくれ」と言われ椅子に腰掛け待つことにした。
(さてと、どうしようかしら?)
クリスは腕を組み考える。
クランがドワーフ達の作った武器にいちゃもんを付け、彼らの自尊心を傷付けたのだ、かなり機嫌を損ねただろう。
彼にはフォローしなさいと言ったが、期待できないだろう。
やはり自分が何とかしなくてはならない。
どのように会話を進めようかと考えながら、何気無くレナを見ると、彼女は目を瞑りテーブルの上で手を組みじっとしていた。
(レナは交渉事苦手だものね、不器用だから)
クリスは心の中でつぶやき、やはり自分が何とかしなければと心に決める。
そのため、最初の時のようなちょっとした創作ではなく、完全な嘘八百を並べようと決意した所で部屋の扉が開いた。
(げっ! 何人いるのよ)
部屋に入室してくるドワーフが5人を超えたところで、クリスがあまり上品ではない言葉で心の中で毒づく。
最終的に部屋には、椅子に腰を下ろしたドワーフが4人、その後ろに6人のドワーフが狭そうに並んでいた。
部屋には重苦しい沈黙が立ち込めていた。
ドワーフ達は口を閉ざしたまま厳しい視線をクラン達に向けている。
あまりに厳しい雰囲気にクリスも話を切り出せないでいた。
「聞きたいことがある」
しばらくすると、フンベルトが重い口を開く。
「人間よ、お前の知っている鉄の鍛え方を我らに教えてくれぬか? ヴィルヘルムとその側近が死に、我らは鉄の鍛え方を失ってしまったのだ……」




