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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
29/130

27

サラと別れ、野生の雌鹿亭に戻ったクランはレナの部屋の扉をノックする。


「クランです。レナさんいますか?」


「ああ、どうぞ」


返事を確認するとクランはレナの部屋に入る。

レナは思いつめた様子のクランに椅子を勧めると、自分はベッドに腰掛けた。


「こんな時間にどうしたんだい?」


「サラさんに会いました」


レナはクランの答えを聞くと一瞬驚いたようだったが、すぐにいつもの表情に戻るとクランの瞳を見る。


「そうか……」


言葉少なく答えたレナは、クランが自分で話し出すまで辛抱強く待った。


「サラさんに殺人犯を殺すよう依頼されました。報酬はサラさんの命だそうです」


「……クランはなんて答えたんだい?」


クランの話に衝撃を受けたレナだったが、なんとかそれを隠すとクランに問いかける。


「わかった、と」


「そうか…… 私も一緒に行っていいかな?」


心配そうな表情を浮かべるレナの問いかけに、クランは首を振った。


「わかった。それなら今回の依頼はクランに任せるよ」


クランは頷くとレナの部屋を出た。

レナはしばらく考えた後、宿の外に出るとクリスの居るアジトに向かって歩き出す。


「クリスに力を借りる事になるとはね…… クランが知ったら怒るだろうな、でも、君は仲間であると同時に、私の命の恩人だ。たとえ後で恨まれる事になっても、君の安全を可能な限り優先するよ」


深夜、クランはファムの神殿の前にいた。

クランはリズを待っている間、サラを斬ることができるか自問していた。

すると突然、クランの脳裏にフラッシュバックしたようにある情景が思い出された。

それは、自分を見つめる優しい瞳。自分に伸ばされた手。そして、自分の腕の中で徐々に失われてゆく体温。クランは、見た記憶のない情景に心を揺れ動かされるのだった。


レナに今晩のことを聞いたクリスも、レナと一緒に近くの貴族の館の陰に隠れて、神殿の周囲に掛けられた魔法の光に照らされたクランを見ていた。


「二人の決着が着いた後でいいのね、わたし達が突入するのは」


クリスの問いかけにレナは頷く。


「あの子、死ぬかも知れないわよ。いいのね?」


「ああ、流石に最初から手出しするほど無神経じゃないよ」


レナが不安を押し殺した顔でクリスに答えた。

(そんなに不安だったら、わたし達に任せればいいのに)

クリスは心の中でつぶやくと、グレックを呼ぶ。


「突入は二人の決着が着いた後。最優先事項は帝国の実験体の殺害だ。それはわたしがやるから、お前達はクランの身柄の確保、必要だったら魔法の傷薬を使ってもいい。わかったか?」


グレックは復唱すると、他の仲間に連絡するためその場から気配を殺して離れた。


「さて、今回の任務はどうなるかしら」


クリスは一人ごちると、レナを見た後、視線を前方に移した。




クランがファムの神殿の前でしばらく待っていると、黒髪の少女が現れた。


「リズか?」


クランに声を掛けられた少女は不機嫌そうに答えた。


「またお前か、よほど私に殺されたいらしいな」


「別に殺されたくはないさ、ただちょっとした依頼を受けてね」


クランは震える手を握り締め、泣き出しそうになるのを隠しながらリズの正面に立つ。


「ふん、どんな依頼かは大体予想できるが…… 依頼主はサラか。私が寝ている間にどこに行っていたと思えば、こんなやつのところに行っていたとはな。今までもサラの事は私が守ってきたし、お前を殺す事もそのついでだ、まあいいだろう」


「悪いな、余計な手間を掛けさせて」


「気にするな、お前程度の奴を殺すのにたいした手間は掛からん。さっさと腰の物を抜け」


リズはめんどくさそうに吐き捨てた。

クランは震える手をゆっくり剣の柄に伸ばしながら、リズに話しかける。


「すまない。僕は君達に掛けられた呪いを解く事ができない。君達を助ける事ができない。許してくれとは言わない、恨んでくれ」


クランの言葉にリズは声を上げて笑った。


「これから殺す奴に恨むと言われた事はあったが、恨んでくれと言われたのは初めてだ。お前は本当に面白い奴だ。そうだな、ではお前には私を恨む事を許そう。こんな事を言うのは初めてだ、感謝しろ」


クランは迷っていた、自分にリズが斬れるのかと。

守ると約束した人を斬る事に恐怖し、必死に隠していたが、この場所から一刻も早く逃げ出したかった。

だが剣を抜いた瞬間、手の震えが止まった。

そしてクランは、聞いた記憶の無い言葉を思い出していた。


「力を振るうのには覚悟が必要じゃ、その場で命を落とす覚悟が出来ないようだったら逃げろ。だが、相手に力を振るうと決めたら躊躇するな。たとえ相手が誰であろうと。それが、お主がこれから進もうとする道じゃ」


クランは鞘を投げ捨てた後、剣を両手で握り締め、剣の柄が顔の右横に来るように構えた。

切っ先はやや後方に寝かせ、刃をやや外側に傾ける。


リズは、初めて目にする構えをしているクランを興味深そうに見る。

そこには、隠そうとしていた先ほどまでの戸惑いや、悲痛な表情は無く、ただ純粋に己の力をもって、目の前の立ち塞がるものを討つという決意が見て取れた。

今までクランが積み上げてきた時間や努力、それらの思いが込められた瞳を見て、リズは知らずに笑みを浮かべていた。


「では始めようか、殺し合いを」


そう言い放ったリズは力を放つべく右手を振り上げ、クランはリズとの間合いを詰めるために大きく踏み込んだ。













「なんではずした?」


クランは左頬に付いた傷から血を流し、外れるはずのないリズの攻撃が外れた事を疑問に思いながら、地面に倒れているリズに話しかけた。


「もうどうでもよくなっていたからな……」


左肩から胸にかけ一目で致命傷とわかる傷からとめどなく血を流しながら、倒れたリズが痛みに顔を歪めながら答える。


「いままでずっと憎んでいた、私のようなものを作り出したこの世界を。この世界に生きているものを全て壊してやろうと思っていた」


クランはリズの血の付いた剣を置くと、膝を突き血を流しすぎ蒼白になったリズの上半身を抱きかかえた。


「お前のせいだ」


そう言ったリズの目は、全てのものを憎み、忌み嫌っていた時とは違い、おだやかな目をしていた。


「サラが見ていたものは、私も見ていた。憎しみしか知らなかった私に、ほかの気持ちをお前が教えたんだ。お前を殺せなかったあの時から、こうなる運命だったのかもな。 ゴホッ」


苦しそうにそういうと、リズは口から血を吐きながら咳き込んだ。


「そろそろサラに代わるな、もう時間もないし、サラもお前と話したがっている」


そう言ったリズに、クランは顔を歪めながら話しかける。


「すまない。こうする事しかできなかった」


そんなクランに少し恥ずかしそうに微笑みながらリズが答えた。


「泣くな馬鹿、コレでよかったんだよ。おまえに会えてよかったよ」


そう答えるとリズは静かに目を閉じた。




「ごめんなさい」


そう言いながらサラはゆっくり目を開けた。彼女は痛みに耐えながら、すまなそうな顔をする。


「わたし達はいままでたくさん悪い事をしてきた、わたし達が悪いんじゃないって思いながら。でも、わたしなんかにも好きな人が出来て、自分がやったことが許されないことだって分かったから…… わたしはよかったって思ってる。どこの誰か知らない人にこうされるより、クランさんにこうされて。自分勝手だよね、あなたの気持ちも考えなくて」


目を伏せながらサラが話す。


「こんなこと言ったらリズは怒るけど、リズもあなたのこと好きだったんだよ。一度だけリズと出かけたことがあったのわかったかな? わたし少しやきもちやいちゃった」


サラはクランの方に手を伸ばす。


「もう目が見えなくなってきちゃった。クランさんの顔見えなくなっちゃった。これで最後なのに、わたしボロボロだね、最後は綺麗な私でさよならしたかったのに。今度生まれ変わったらまた会えるかな、綺麗なんかじゃなくてもいいから、また会えるかな……」


『こんな地獄みたいな世界でもあなたに会えてよかった、ありがとう』


そう言い残して二人はゆっくり目を閉じた。

その瞬間、クランの失われていた記憶がよみがえり、腕の中にいる少女と瓜二つの少女の事を思い出した。

クランはサラの手を握り締めながら亡骸に話しかけた。


「俺はヘリオン帝国を許さない。お前達みたいな人を生み出した帝国を許さない。お前達の変わりに俺が帝国に復讐する。そして俺は俺自身を許さない。二度も大切な人を助けられなかった俺自身を」


そう言うとクランは空を見上げた。零れ落ちそうになる涙を止めるために。


「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


深夜の街にクランの慟哭が響き渡った。




いつの間にか建物の影に隠れるのをやめたレナは、じっとクランを見ていた。

そして、その目には光る物が浮かんでいた。


「いわんこっちゃない、だからわたし達に任せておけばよかったのに」


クリスはつぶやくとグレックに指示を出す。


「実験体の遺体を回収しろ、後で解剖する。クランが邪魔するようだったら、力ずくで奪え。でも殺さないようにな、レナが怒る。それと、実験体が殺した男の検死担当者も呼べ」


クリスは、クランから外れた『風の刃』が切断した神殿の煉瓦を指差した。

その切断面は、まるでガラスの様に滑らかだった。


「あれだけ綺麗な切断面を、刃物なんかで付けられるはずが無い。殺害現場の周囲を調べもせずに、死体を見て思い込みで凶器の予測をしたんだろう。検死担当者の再教育が必要だ。以上、作業に掛れ」


グレックは頷くと、周囲に潜んでいた仲間に指示し作業に取り掛かった。


「本当に手間が掛かったわね。この隙にアジトが襲撃されてなければいいけど……」


クリスは再度つぶやくと、部下の作業を監視するため歩きだした。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

なんとか一章に当たる部分を書き終えることができました。

それも、ここまでお付き合いいただいた皆様のおかげです。

特にお気に入りに登録していただいた方々には、感謝しています。

文才も無いのに書き続けていく上で、大変励みになりました。

この後、リズの事も掘り下げてみたいと思うのですが、最近忙しいこともあり、更新も遅くなると思いますが、よろしくお願いいたします。


H24.9.3 人物名を間違えていたのを訂正いたしました。

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