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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
28/130

26

路地裏から血の付いたダガーを握り締めた男が走ってきた。その目は血走り、口からは狂ったような笑い声を上げていた。


クランに突き飛ばされたリズは、目の前で肩から血を流しているクランを信じられないような目で見ていた。


「怪我はないかな」


クランの言葉にリズは我に返る。


「お前は何を考えている! なぜ私をかばった!」


クランは痛みを堪えながらリズに答える。


「僕は、サラが傷つくのは見たくないんだ」


クランの言葉にリズは呆れたようにつぶやく。


「お前は馬鹿なのか? 私など助けてどうする。これからお前を殺すかも知れないんだぞ」


「それでも僕は、今、自分に出来ることをしたいんだ」


クランの言葉にリズは絶句すると、後ろを向きその場を離れようとした。


「待って!」


クランがリズを呼び止めようと声を上げる。


「もうお前と話すことは無い。もし、次に私達の前に現れたら、その時は、命は無いと思え」


そういい残すとリズは走り去った。




「よろしかったのですか?」


グレックは隠れて一部始終を見ていたクリスに話しかける。


「良いも悪いも無い。わたしの後ろで睨んでるやつがいたらうかつに手を出せないだろ」


クリスは自分の後ろに佇むレナを見ながら口にする。

グレックは小さく頷くとリズを追うように手下たちに指示を出した。


「まあ、逃げられると思いますがね」


手下がリズを追うために散っていったのを見てグレックがつぶやいた。


しばらくして裏路地から現れたクランに、レナが歩み寄る。


「傷は大丈夫かな?」


頷くクランの腕を取ると、自分の服の袖を破き傷口に巻きつけた。


「宿に戻ったら消毒しよう。歩けるかな?」


宿に向かい歩き出したクランは、消え入りそうな声を出す。


「僕はどうしたらいいんでしょうか?」


「私がクランぐらいの年齢だったら、きっと不条理な運命を呪い、周りにいる人間に当り散らすだけだろうな。自分で何かを決めて行動することは無いと思う」


思ってもみない答えに、クランは驚きレナの顔を見る。


「私は臆病で、自分勝手な女なんだ。失望したかい?」


肩をすくめながら、レナが言う。


「私が君ぐらいの時は、世間の事を何も知らない、それでいて傲慢な子供でな。自分の周りで起きた事をすべて他人のせいにして、自分は何も悪くないとわめいているだけだった。自分で自分の進む道も決められずにね。私は最後の最後まで追い詰められて、やっと自分の進む道を決められたんだ」


そこで話を区切ると、レナはクランの目を見て話を続ける。


「だがクラン、君は私と違い自分の道は自分で決められる人間だ。君の過去に何が有ったか私は知らない。だが、君の剣を振る姿を見て私はそう思う。どれだけの時間剣を振り続けたのか、ただ愚直に何万、何十万と剣を振る。それは、簡単な事ではない、誰にでも出来ることではない、君のように強い心を持った人間だけが出来るんだ。だから私は、君がどんな選択をしたとしても、君が決めた事を尊重する。だが、それでも君がどうするか決められず、最悪の結果が訪れた時は」


そこでもう一度話を区切ると、レナは笑った。


「その時は、お姉さんが慰めてやる。だから、君は君の正しいと思ったことをすればいいんだ」


「ありがとうございます」


クランは俯き、レナに礼の言葉を伝えた。その後、二人は無言で宿の帰路についた。


完全に蚊帳の外にされたクリスは、苦笑しながらつぶやく。


「レナ、あんたわたしに釘を刺したつもり? まあいいけどね、わたしはサラだかリズだか知らないけど、あの子さえ殺せればいいんだし。ただ、あなたのお気に入りの子の選ぶ道は、きっと辛いわよ。素直にルイザの街の”殺人鬼”に殺させておけば良かったと思うくらいにはね」


クリスは、後ろにいるであろうグレックに「アジトに戻る」と言うと歩き出した。




野生の雌鹿亭に戻ったクランは、自室にレナと共にいた。

レナはクランの肩の傷を手桶の水で洗い流すと、薬草で作った傷薬を塗り、その上から包帯を巻いた。


「すみません」


「気にするな」


クランは少し考えた後、手当て道具を片付けているレナに聞く。


「ネイの高司祭に掛けられた呪いを解くのは難しいんでしょうか?」


クランの問いかけに、レナは片付けていた手を止めて言葉を選びながら答える。


「そうだね、高司祭ともなるとかなりの力を持っている。その呪いを解ける神官となると、この国に数人しか居ないだろう。教会への寄付も莫大な金額になるだろうし、よほどのコネ、例えば王族からの依頼でもない限り断られるだろうね」


手当て道具を片付けたレナは、力無くうなだれるクランに「ゆっくり休むんだよ」と言い残して部屋を後にした。

クランは裏路地でのサラとの会話を思い出し、朝日が昇るまで自分がどうすればいいかを考えていた。



その日からクランは、毎日ファムの神殿に通うようになっていた。

そして、クランがリズと裏路地で出会った日から、新たな斬殺死体は発見されていなかった。


レナが野生の雌鹿亭で昼食を取っていると、宿の入り口からレナを見つけたクリスが歩いて来る。


「もう怪我はいいの?」


サラが居なくなったため、新しく給仕として雇われた少女にエールを注文したクリスがレナに話しかけた。


「ああ、怪我のほうはほとんど問題無い。剣を振ったりすると痛むけどね」


「そう、それはよかったわ。それでクランさんは今日もファムの神殿?」


クリスの問いに食事の手を止めたレナが答える。


「今日で三日目になるな。そっちは何の手掛かりもないのか?」


「ええ、相変わらずね。髪を染めていたようだから、そっち方面も当たってみたんだけどね。まったく嫌になるわね、三日前に組織の人間を動かしたら、その隙をつかれて帝国の工作員にアジトを一つ潰されるし、このままじゃ割りに合わないわよ」


給仕の持ってきたエールに口を付けながらクリスが愚痴る。


「そんな事私に話していいのか? 機密事項だろう?」


クリスの思わぬ話の内容に、レナは形の良い眉をひそめた。


「別にいいわよ。今回の件はレナも関係有るし。それに、余計なことは言わないでしょ、あなたは」


クリスの言葉に憮然とした表情を浮かべた後、レナは食事を再開した。

クリスはそんなレナを見ながらエールを飲み干し、「何かあったら連絡ちょうだい」と言い残して席を立った。


レナとクリスが食堂で話している頃、クランはファムの神殿にいた。

この三日間、日の出と同時に開門される教会に入り、日の入りと同時に閉門される教会から追い出されるように退出していた。

クランは毎日神殿に来ているが、ファムに祈る事もなく、神殿の隅のほうで自分がどうするべきかを考えていた。

神殿の職員達も、そんなクランの事を奇異な目で見ていた。

日の入りの時刻になり、クランが神殿から出ようと入り口の扉を押すと、何かで抑えられているようで扉が開かなかった。

クランはいぶかしみながら力を込めて再度扉を押そうとすると、扉の向こうから声を掛けられた。


「クランさんですか?」


クランは扉の向こうから掛けられた聞き覚えのある声に、一瞬息を呑むとおそるおそる声を掛けた。


「サラさん?」


「はい」


サラはクランの問いかけに、しっかりとした声で答えた。


「サラさん、僕は  」


「クランさん、なんであの時リズを助けたの? リズにひどいこと言ってもらったのに。せっかく嫌われようとしたのに。全部無駄になったじゃない」


クランの言葉を途中で遮り、サラがすねたように話す。


「ごめん」


クランの謝罪の言葉を聞いたサラは、悲しそうに笑った。


「クランさん、謝ることないのに。私に謝る必要なんてないんですよ」


「でも、  」


「わたしはクランさんに感謝してるの。あなたのおかげで心を取戻せた、人を好きになることが出来た、最後に人として死ねる事ができるんだから。わたし達には『組織の人間に逆らうことを許さず』『自殺すること許さず』『組織以外の憎い人間を殺せ』という呪いが掛けられていたんだから、どちらにしろグランデル公国の人間に殺されていた。だからあなたは気にしないで」


再度、クランの言葉を途中で遮りサラが言葉を紡ぐ。


「でも、僕は何も出来なかった。サラさん達の事を知っても何も出来なかった」


搾り出すようなクランの言葉に、サラは口を開く。


「それならお願いがあります、冒険者のクランさんに」


クランが無言で言葉の続きを求める。


「今、ルイザの街で起きている殺人事件の犯人を殺してください」


サラの言葉にクランは息を呑んだ。


「もうその殺人犯は三日間も人を殺していません。その殺人犯は掛けられた呪いに必死で耐えてきましたが、限界みたいです。今晩、呪いに耐えられなくなった犯人は殺人を犯します。もう、嫌なんです、誰かが死ぬのは。だから、クランさんあなたはその犯人を殺してください。報酬にはわたしの命を差し上げます。わたしの依頼受けてもらえますか?」


サラが話し終えると周囲に沈黙が訪れた。


クランはサラの言葉を何度も反芻し、サラはクランの返事を空を見上げながら待った。


「……わかった」


どの位の時間が流れただろう、クランは血を吐くような思いで了解の言葉を口にした。


「ありがとう。最後にクランさんの顔を見たかったけど、もう呪いに耐えられそうにないから、クランさんを傷つけそうだから行きます。ばいばい、わたしの大好きな人」


サラはそういい残すと、扉の前から離れていった。

クランは扉を開けることも出来ずにその場に佇んでいた。

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