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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
27/130

25

わたしの名前はサラ。

ヘリオン帝国の貧しい村に生まれた。

わたしの村では冬になると、飢えのため少なくない人が死んでいった。

わたしが物心ついた頃、村は凶作で税も納められない状況になった。大人達は役人と話し合い、貨幣や作物ではなく数人の子供を税として納めた。

そして、その中の一人がわたしだった。

わたし達は黒いフードを被った男の荷馬車に乗せられて、森の中へ連れて行かれた。

そこには、隠すように建てられた建物があり、大きな地下室に沢山の子供たちが囚われていた。

そして、その日からわたし達は、その子供達の仲間入りをした。

次の日から、知らない液体を飲まされたり、よく分からない魔法を掛けられたりした。

最初は沢山いた仲間達も突然血を吐いて死んだり、狂ったように叫びだして大人達に連れて行かれ戻ってこなかった。わたしも何度も血を吐いたり気絶したりした。

男達は、「お前達がこんな目にあうのも、全てグランデル公国のせいだ」「グランデル公国の人間を憎め」とひつようにわたし達に言い聞かせた。

途中で何回か新しい子供達が連れて来られたけれど、三年ほど経つと残っているのはわたしを含めて7人になっていた。


ある日、わたし達は手に枷を嵌められて、きらびやかな法衣に身を包んだ男の前に連れて行かれた。

「おめでとう。君達は暗黒の女神ネイに選ばれた。今までの試練によく耐え抜いた。君達に神の祝福を二つ授けよう」

恍惚とした表情を浮かべた神官がわたし達を祝福した。

ただ、それは一般的に『呪い』と呼ばれるものだった。

『組織の人間に逆らうことを許さず』という呪いを掛けられた日、わたしはここに連れて来られてから始めて泣いた。

税の代わりに連れて来られた時も、変な薬を飲んで苦しい思いをした時も、村の人達が助かればと思って我慢してきた。

でも、暗黒の女神に選ばれたと聞かされ、呪いを掛けられた時、それまで抑え込んでいた気持ちが溢れて涙が止まらなくなった。

そして、次の日から地獄が始まった。


人を殺すための訓練をし、大人達に人に言えないような恥ずかしいことや、ひどいことをされ、痛みで気絶すると神聖魔法で治されそれを繰り返された。

生きていくことに絶望して、何度も死のうとしたが『自殺すること許さず』というもう一つの呪いのせいで、自殺しようとすると全身に激痛が走り死ぬことも出来なかった。

そんな日々の中で、わたしはグランデル公国を憎むようになり、心は徐々に壊れていった。

ある日、いつもの様に濁った目をした男が、荒い息をしながらわたしにひどい事をしようとした。

意識を失ったわたしが次に目を覚ましたとき、お腹から上下に切断された男が目の前で死んでいた。周囲の男達は狂ったように「成功だ!」と叫んでいた。

そんな周囲を気の抜けた表情で見ていたわたしの頭の中で、話しかけてくる声を聞いた。

「私はリズ、あなたの心にある絶望と、憎しみから生まれたもう一人のあなた」

その日からリズは、わたしの代わりにわたしを傷つける人達を殺すようになった。

リズが手を振ると『風の刃』が生まれ、それを見た黒いフードの男達は狂喜した。

わたし達の力が使えることが分かると、ネイの神官は『組織以外の憎い人間を殺せ』という呪いを更に掛けた。

そして、わたし達は黒いフードの男に連れられ、街道を歩くグランデル公国の商人達を無差別に殺し、積荷を略奪した。


だがある日、いつもの様に黒いフードの男に連れられ街道を歩く商人達に襲い掛かると、商人達の護衛の放った矢が偶然黒いフードの男に刺さり男が絶命した。

わたしが突然のことに呆然としていると、リズが声を掛けてきた。

「このまま逃げないか。私達を監視する男も死んだ。このままルイザの街に行けば、”殺人鬼”と呼ばれている女もいる。あいつらの追っ手も手を出しづらいだろう」

わたしは頷くとルイザの街に向かって歩き出した。

ルイザの街に潜伏したわたしは、髪を青色に染め、野生の雌鹿亭という宿屋の住み込みとして働き出した。

『組織以外の憎い人間を殺せ』という呪いは、心を失ったわたしには効果が薄く、たまに耐えられないぐらいの痛みに見舞われると、リズがルイザ街道を行く人を殺した。


そんな生活をしている時にクランさんに出会った。

クランさんは、なぜだか分からないけれどわたしに優しく接した。

長い間人に傷つけられ続けたわたしは、どうしていいか分からず逃げ出した。

それでも話しかけてくるクランさんに、わたしはいつの間にか怖がらずに話すようになっていた。

そして、あの日がやって来た。

わたしを騙して人通りの少ないところに連れて来た男達が、わたしの腕を掴んだ。

リズが男達を『風の刃』で殺すため、わたしと入れ替わろうとした時、頭を掻きながらクランさんが現れた。

わたしが呆然としている間に男を倒して、あとからやって来た男達からわたしを守るため、背中にかばってくれた。

その背中を見た時、壊れたと思っていた心が本当は壊れてなどなく、ただ地獄のような日々に耐えられなくなったわたしは、心を殺していただけだったことに気付いた。

クランさんと一緒に帰った帰り道で、信じられないことにわたしは笑っていた。

そして、クランさんと一緒にいるわたしは徐々に心を取り戻し、呪いの効果も日増しに強くなっていった。

クランさんが冒険者ギルドで依頼を受けて旅立った後、わたしはクランさんが怪我をするのじゃないかと、心配で夜も寝られなかった。

やっぱりファムの神殿でお守りを買って渡しておけばよかったんじゃないかと、わたしは後悔した。

だけど、すぐにファムのお守りを買わなくて良かったと思い直した。

だって、わたしはファムの加護を授かれなかったのだから。

クランさんにわたしがファムのお守りを渡しても、きっと効果はないのだから。

クランさんに、ファムを信仰しているか聞かれて曖昧に笑ったけれど、わたしはファムの事が嫌いだった。

だって、わたしと同じ名前をしているファムの神官は光の神に愛されているのに、わたしはこんなにも汚いのだから。

だから、わたしはファムの神殿でファムに問い続けた。

なぜわたしは生まれてきたのかと、なぜわたしにはファムの慈悲が授かれなかったのかと。慈悲が授かれないのなら、なぜわたしを生き残らせたのかと。

だけど、やっぱりわたしの問いに神は答えてくれなかった。

野生の雌鹿亭で仕事をしていると、たまたま来ていた冒険者の人が、レナさんのパーティーがウォーベアーと戦ったと話していた。

わたしはその話を聞いたとき心臓が止まるかと思った。

ウォーベアーは、リズが訓練で戦わされた事があったけれどかなり苦戦していた。

そんな相手に、たった二人の軽戦士が挑んでも倒せるとは思えなかった。

それからわたしは、毎日ファムの神殿でクランさんの無事を祈った。

わたしの様な人間の祈りをファムが聞くとは思えなかったけれど、居ても立ってもいられなかった。

クランさんが野生の雌鹿亭に帰って来たのを見たとき、わたしは泣きながらクランさんを出迎えた。

クランさんが子供みたいに泣いているわたしを抱きしめてくれた時、わたしはクランさんを好きな事に気づいた。

わたしみたいなものは人を好きになってはいけないのに、わたしみたいなものに好かれても、クランさんが迷惑するのは分かっているのに。

それでもわたしは、クランさんを愛しいと思う気持ちを抑えられなかった。

そして、ネイの呪いの本当の恐ろしさを知ったのもこの時だった。


わたしが人を好きになる気持ちを取戻した時、同時に今まであまり感じなかった憎しみや怒りの感情も取戻した。

それからの日々は、グランデル公国の人間を憎むように作られたわたしに、常にネイの呪いが降り掛かるようになった。

全身に感じる痛みに耐えていると、クランさんに悪意を持って接する人間に出会った。

その日の夜、あまりに激しい怒りに全身を駆け巡る激痛に歯を噛締めて耐えていると、いつの間にか意識を失っていた。

次に意識を取戻すと、目の前にはクランさんの頭を踏みつけた男が死んでいた。

「呪いに耐えられないようだったから始末しておいた」

リズの言葉に、わたしは夢遊病者のような足取りで歩くと、いつの間にかクランさんの部屋の前にいた。

クランさんを起こさないように部屋の中に入り、クランさんの手を握ろうとするのを思いとどまり声を殺して泣いた。

その後の男を殺した後も、クランさんの部屋へ勝手に入り、クランさんの寝顔を見ながら声を殺して泣いた。

ファムの神殿での帰りに、クランさんと話しながら歩いているユリさんを見た時、わたしは愕然とした。

わたしは、わたしが並んで歩くことが出来ない人の隣で、笑顔を浮かべながら歩いている女性に嫉妬した、それも憎しみを持つほどに。

もうわたしは駄目だ、きっとクランさんの周りにいる人をみんな殺してしまう。

もしかしたら、わたしの逆恨みでクランさんも殺してしまうかもしれない。

そう考えた時、あまりの恐怖にわたしは声を出して泣いた。

わたしは、クランさんのそばに居られない。

でも、クランさんから離れて生きていくことも考えられない。

そう遠くない未来、わたしはグランデル公国の人間に殺されるだろう。

だったら、どこの誰か知らない人間に殺されるよりは、クランさんに斬られたい。

最後に好きな人の顔を見ながら死んで逝きたい。

いままで沢山の人間を殺してきたわたしは、地獄に落ちるだろう。

でも、最後に好きな人の顔を見ること位、許されるのではないか、わたしはそう決め付けると宿を後にした。

そう、好きな人に殺されるために。

その人はやさしい人だから、きっとわたしを斬った後、後悔してしまうだろう。

だから、わたしは憎まれなければならない。

それはとても悲しいことだけど、クランさんにはいつも笑顔でいてもらいたいから。

無理を承知でサラの一人称を書いてみました。

やっぱり無理でした。これが限界です。すみません。

駄作ですが、お気に入りに登録していただいている方には感謝しています。

最近忙しくなってきたので、更新が遅くなるかもしれませんが、今回の話が一区切りつくまでは更新のペースを維持していきたいと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。

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