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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
25/130

23

朝、目覚めたクランは、サラに用があるから水汲みを手伝えないと謝り、春の木陰亭へ向かった。


クランは春の木陰亭の前で、乗合馬車で帰ると言っていたユリを見送ろうと待っていた。

しばらくすると、ユリとユリの父親のヨーゼフが宿から出てきた。


「おはよう」


クランが声を掛けると、一瞬驚いた顔をした後ユリがうれしそうな顔をする。


「おはようございます。見送りに来てくれたんですね」


ユリとクランが話していると、ヨーゼフが「先に行っている」と言い残して一人乗合馬車の乗車場所に向かった。


「気を使わせちゃったかな」


遠ざかるヨーゼフの後姿を見ながらクランがつぶやくと、「気にしないで下さい」と上機嫌なユリが笑みを浮かべる。

クランは終始機嫌のよいユリと一緒に、馬車の乗車場所まで他愛の無いことを話しながら歩く。


「じゃ、またね」

「はい、またルイザの街に来たら必ず会いに行きます」


出発時間直前まで話していた二人は、再会の約束をして別れた。


クランがユリを見送った後、野生の雌鹿亭に戻るとそこにはクランを尋ねてきた女性が待っていた。

年齢は18歳位で、身長は160cmを少し超えているだろう、ダークブルーの髪を腰まで伸ばし、黒い瞳をしている。

そして、スタイルの良さを強調するような露出の多い服を身に着けていた。

その女性は、妖艶な笑みを浮かべながらクランに話しかける。


「こんにちは、わたしはクリス。あなたがクランさんかしら?」


突然知らない美女に声を掛けられたクランは、驚きながら答える。


「はい、そうですけれど。なにか御用ですか?」


クリスは黒い瞳で注意深くクランを観察しながら口を開く。


「ちょっと聞きたいことが有るのですけれど、お時間よろしいかしら?」


「はい、かまいませんけれど……」


「では、ここでお話するのもなんですし、場所を変えたいと思うのですけれどいいかしら?」


クランが不審に思いつつ了承の意を伝えようとすると、丁度二階からサラに肩を借りながらレナが降りてきた。

クリスはレナを見て一瞬緊張した表情を浮かべたが、すぐにそれを隠すと笑みを作りレナが降りて来るのを待つ。


「何か用かな、クリス」


まだ傷が痛むのか、つらそうな表情をしたレナがクリスに話しかける。


「わたしはクランさんに用があるのだけれど?」


クリスが微笑みを崩さないように注意して答える。


「冒険者ギルドで言ったことは覚えているか?」


クリスとは対象的に、剣呑な雰囲気を発するレナ。

クリスは身にまとわせていた妖艶な雰囲気を霧散させ、肩をすくめながら口を開いた。


「話をするだけなら構わないでしょ、なんならあなたも同席してもいいわよ、レナ」


レナはクランに視線を向けると、食堂のほうへ歩いて行った。

それを自分の提案を了承したのだと思ったクリスも、後に付いて行く。

クランは二人の会話に呆気にとられていたが、気を取り直して二人の後を追いかけた。


クランが食堂に行き席に着くと、すでに席についていたクリスが待っていたように口を開く。


「ウォーベアーを倒したって聞いたけれど、その時受けた怪我は良くなったの?」


「ああ、まだ動くと痛むが問題ない。それより聞きたい事ってなんだ?」


腕を組みながら不機嫌そうにレナが催促する。


「ちょっと確認したい事があってね。この二日間、男の斬殺死体が発見されたのは知ってる?」


クリスはどんな些細なしぐさも見逃すまいと、注意深く二人を観察する。

そんなクリスの意図を察し、一層不機嫌そうにレナが答える。


「聞いたこと無いな」


レナの言葉にクランも頷く。


「そう、何か知っていると思ったのに残念ね。被害者はかなり鋭い刃物で、ばっさりやられたみたいでね。よほど腕の立つ人間が犯人かと思ったわけ。ウォーベアーを倒すほどの人には聞いてみたくなるじゃない? その日何をしていたのかを」


クリスは目を細めながら二人を見た。

レナは不愉快だとばかりにクリスを睨み、クランはレナとクリスの間の張り詰めた空気に怯みながらも、この数日間何をしていたかを説明する。


「そう。レナは怪我で動けなくて、クランさんは夜一人で寝ていたの。だったら、二人とも証言してくれる人はいないわね。残念ね、わたしは二人の潔白を確認しに来たのに」


クリスの物言いに、レナはこれ以上不機嫌になれるのかと思う程不機嫌な表情を浮かべる。

クランは、そんなレナをどこか面白そうに見ているクリスに話しかけた。


「お二人は、お知り合いなんですか?」


クランの問いに、クリスが答える。


「ええ、昔からの知り合いよ。ね、レナ」


「ああ、そうだな。残念なことに。しかし、白々しくよく言うな、お前が来たって事は私達が疑われてるって事だろう?」


「あら、ずいぶんな言われようね。友達を心配して来たのに」


レナが鼻を鳴らす。


「まあ、今日の所はこれで失礼するわ。また寄らせてもらうから。じゃあね、レナ」


そう言うとクリスは席を立ち、野生の雌鹿亭を後にする。


レナはクランに「あの女には気を付けろ」と言い残して、傷の痛みを堪えながら自分の部屋に戻る。

クランが椅子に座ったまま先ほどのやり取りについて考えていると、サラが心配そうな表情を浮かべながらやって来た。


「大丈夫でしたか? クランさん」


「なんだか街で殺人があったみたいで、僕達が疑われているみたいなんだ」


クランはサラに心配させないように、わざと大した事無いように軽く答える。


「クランさん達がですか?」


サラはよほど心配なのか、みるみる内に青い顔になり、お盆を持っている手は小刻みに振るえ出した。


「大丈夫だよ、何かの間違いだから。クリスって人はレナさんの知り合いらしいし、分かってくれると思うよ」


クランの言葉にサラは首を振る。


「クランさんは、クリスって人の事を分かってないからそんな事を言えるんです。あの人は”殺人鬼”って言われているような人なんですよ」


「”殺人鬼”?」


クランは不吉な二つ名に思わず聞き返す。


「はい、あの人は人を殺すことをなんとも思っていません。ヘリオン帝国から工作員として送り込まれた子供達を捕らえると、眉ひとつ動かさずに全員を切り殺したって聞きました。クランさん、あの人には気を付けて下さい」


息を飲みながらクランはサラの言葉に頷くのだった。




翌朝、三人目の斬殺死体が発見され、クリスは薄暗い室内でグレックの報告を受けていた。

三人目の被害者が出た以上、レナに遠慮してクランへの追及を緩めるわけにもいかないな、などと腕を組みながらクリスは考える。


「どちらにしろ、クランにはご足労願うことになるな」


クリスは報告が終わり指示を待っていたグレックに、クランをアジトまで招待するよう命令する。

命令を復唱したグレックは、慇懃に一礼して部屋を後にした。

自分一人だけになった部屋で、クリスはクランを呼び出した事をレナが知ったときの事を想像して憂鬱そうな表情を浮かべていた。




その日、クランはいつもの様に日の昇る前から宿の裏で素振りをしていた。

宿の裏口からサラが現れると、一緒に水汲みをした後ファムの神殿まで行き、礼拝の後いつもより若干はしゃぎぎみなサラと宿への帰り道に市場を見て回る。

サラと一緒に宿に戻り朝食を済ませたクランが部屋にいると、ドアがノックされた。

返事をしても反応が無いため、廊下を見るとそこには一枚のメモが置かれており、クランはいぶかしみながらメモを拾い上げた。


クランがメモに書かれた場所に向かうと、そこは人の住んでいる気配の無い廃屋だった。

半ば朽ちたドアを開け中に入りメモに書かれていた場所を探すと、壊れたチェストの裏に隠し階段を見つけた。

階段を下るとそこには扉があり、目が闇に慣れるまで待ってからクランが扉を開け恐る恐る中に入ると、薄暗い部屋の中で机についたクリスが待っていた。


「ようこそ、クランさん。秘密のアジトへ」

クリスが歓迎の言葉を言い終えたと同時に、部屋の中で気配を消していたグレックが扉を閉める。

薄暗い部屋の中には、クランと机についたクリス、扉を閉めたグレック、そしてレナがいた。

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