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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
21/130

19

ここはどこだろう?

真っ暗で何も見えないところに漂っている。

すると声が聞こえてきた。


「いつまでこんな所にいるんだ。その心に秘められた怒りを、憎悪を閉じ込めて。これは呪いだ、お前に掛けられた呪いだ。いつまでもこのままでいられるとは思うな……」








クランはベッドから跳ね起きた。

辺りを見回すと部屋にはベッドが二つ置いてあり、隣のベッドにはレナが寝ている。

クランはレナの胸が上下しているのを確認すると、今度は、包帯を巻かれた自分の体を確認した。

体には所々傷があるようだが、特に両足と、右の掌は真っ黒いあざが出来ていた。

なぜこんな所に寝ているのか混乱している記憶を整理してみると、先ほどまでウォーベアーと戦っていたことを思い出す。


「何で僕は生きているんだ」


クランはレナに止めを刺そうとしていたウォーベアーの背後から、剣を構えて飛び出したことまでは覚えているが、その後の記憶が無かった。

いくらその後の事を思い出そうとしても思い出せないので、レナが目を覚ましたら聞こうと考える事を放棄した。

クランがベッドに横になっていると、初老の男部屋に入ってきた。


「どうやら目を覚ましたようじゃな」

男は、クランが自分を見ているのに気づくと声を掛けてきた。

「わしの名は、エイブじゃ。この村の村長をしておる。アルがお前達を連れて来た時は、心臓が止まるかと思ったわい。二人とも血まみれで、女の方はかなりひどい怪我をしていたからな。あんな所でどうしたんじゃ?」

エイブの話をまとめると、クランを肩に担いだレナが、村のほうに向かって歩いていた。途中でこの村の住人、アルに偶然会うと「クランを助けてやってくれ」と伝えてそのまま気を失ったようだ。

クランは、怪我した体に鞭打ち、自分を助けようとしてくれたレナに感謝した。

エイブの話を聞き終えたクランは、なぜ自分達があんな所に居たかを話した。

「なんと、あの森にウォーベアーがいたのか、それを二人で倒したと・・・」

エイブは二人の言葉に絶句した。エイブが子供の頃に聞いた話だと、曽祖父達がこの村を作ったときにウォーベアーが現れ、村に甚大な被害が出た。

ルイザの街の冒険者ギルドから討伐隊が組まれたが、15人の冒険者のうち2人が帰らぬ人となり、3人が重症を負った。いくら子供だったとはいえ、ウォーベアーをこんな少年と、隣のベッドで寝ている女二人だけで倒したなど、とても信じられなかった。

「森の入った所に開けた場所が有ります。そこでウォーベアーを倒したので、まだ死体が残っていると思います。」

エイブはクランの言葉に頷くと、ゴブリン達も自分たちを脅かすものが無くなったのなら、森の奥のキャンプに戻ったと思い、村の男達にウォーベアーの死体を確認させようと決めた。

「まだ、怪我も体力も戻ってないだろう。ゆっくり休むといい。」

エイブはクランに言い残すと、部屋を後にした。話し疲れたのか、クランも眠りに着くのだった。




ドアをノックした後、ミルクに漬けて柔らかくしたパンの入った器を、お盆に載せたエイブが部屋に入ってきた。

「どうじゃ、ちょっとは食欲も出てきたか?」

クランはエイブに頷くと、食べ物の入っている器を受け取った。食事をしているクランを見ながら、エイブは口を開いた。

「村の男達に森の中を調べさせた。たしかにウォーベアーの死体があった。わしも子供の頃に、話に聞いていただけなんで初めて見たわい。見つけた村人なんぞ、話も聞いたことが無いから唯の熊の死体だと思っておった。なんにせよ、お前さん達のお陰で村人達が危険に晒されずにすんだ。村長として礼を言う。ありがとう。」

クランに深々と頭を下げたエイブに、「頭を上げて下さい」とクランが声を掛けようとした時、隣から声が聞こえた。

「助かったようだね、私達は。」

クランが声のした方を見ると、痛みに顔をしかめたレナがクランを見ていた。

「起こしてしまったようじゃな。お前さん達は村の恩人じゃ。傷が癒えるまでゆっくりしていってほしい。」

エイブが部屋から出て行った後、二人はまた眠りに着くのだった。


レナの傷がふさがると、二人はルイザの街に戻ることにした。

村人達は、傷が完全に癒えるまで逗留するように勧めたが、冒険者ギルドに報告しなければならないし、サラも心配しているからと丁寧に断った。

クランは、ウォーベアーをどうやって倒したかレナに尋ねたが、レナも記憶が混濁してよく覚えていないようだった。

あれほどの死闘だったのだ、仕方の無いことだろう。ただ、クランの剣がウォーベアーの背骨を粉砕し、それが勝利を引き寄せたのは確かだった。


ルイザの街に出発する日になった。

村人達はせめてもの礼にと、二人を荷馬車でルイザの街まで送ることにした。

荷馬車には、二人が倒したウォーベアーの毛皮の他に、クランの愛用の剣と、レナの双剣が積まれていた。二人の皮鎧は、実用に耐えないぐらい破損していたので、村で処分してもらっていた。

「クラン君、あの時何で戻って来たんだい?私は逃げろと言ったはずだよ。」

荷馬車に揺られながら、レナは厳しい顔でクランの目を見た。

クランはレナから目を逸らさず答えた。

「あそこで逃げ出したら、レナさんはやられると思いました。僕はレナさんのことを見捨てて逃げ出すことなんて出来ません。」

「師匠の言うことを聞けない人間を、わたしは弟子には出来ないよ。」

レナの言葉に、クランは俯くと拳を握り締めた。

「だから、今日から私達は仲間だ。君が危険に晒されたら私は命がけで助ける。どうかな?クラン。」

クランがレナの言葉に驚いて顔を上げると、レナは微笑んでいた。

「はい、よろしくお願いします。レナさん。」

姿勢を正し、真摯に答えたクランの言葉に、レナは不満そうに言った。

「‘さん’は要らないよ」

「いえ、レナさんは先輩ですから。」

「それは、わたしが年増だってことかな?」

「何でそうなるんですか。」

手綱を握っていた村人は、そんな二人を見て、笑いを堪えるのだった。

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