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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
20/130

18

クラン達は絶望的な戦いに身を置いていた。

ウォーベアーは普通臆病な性格の熊と異なり、攻撃的で凶暴な性格をしている。

通常は四本足で移動するが、獲物を見つけると立ち上がり襲い掛かる。

体は最大で3メートル近くまで成長し、その爪は鉄のような硬度を持ち、チェインメイルですら容易に切り裂く。

そして最大の特徴は全身を覆う体毛にある。

銀色の体毛は爪と同じく鉄と同等の硬度を持ち、それが生える皮膚もまた煮固めた皮鎧より硬い。

通常ウォーベアーを討伐する際は、魔法を使える者か、両手斧や両手剣、両手鎚などを使う重戦士が攻撃する。

クランやレナのような、斬撃の速度や技で戦う軽戦士などでは、鉄のような体毛と硬い皮膚に阻まれ、効果的な攻撃を与えることが出来ない。

今回遭遇したウォーベアーは、2メートル程度とまだ子供に分類されるが、二人にとっては十分脅威だった。


「やはり抜けきらないか!」


レナは最初、相手の攻撃を警戒して距離を置きながら隙を見て攻撃していたが、敵の厚い防御に阻まれ、有効的なダメージを与えられなかった。

そのため、今では足を止め真正面での打ち合いにシフトし、相手の攻撃をぎりぎりで避け、弱点の目や喉を狙うようにしたが、すべて丸太のような腕で防がれてしまう。

クランも隙を見て切りかかっているが、こちらも相手に有効打を与えられないでいた。

レナはこのままでは拙いと、状況を覆せる手段を考えていた。


「クラン君、近くの村まで行って助けを呼んで来てくれないか」


ウォーベアーから一旦距離を取ったレナが敵から目を離さず言う。


「え、レナさん一人じゃ無理です」


クランも敵から目を逸らさずに答える。


「だが、このままでは二人ともやられてしまう。君も熊の走る速さは知っているだろう? ましてや森の中を二人で逃げても追いつかれてしまう」


「でも!」


一人で逃げることを渋るクランに、レナが言い放つ。


「君がいても足手まといなんだ! 今君が出来ることは、助けを呼んで来る事だけだ!」


クランは躊躇するが、一瞬レナを見ると走り出しす。

レナはクランの気配が遠ざかると、一人苦笑しながらつぶやいた。


「すまないね、クラン君。こうでも言わないと、君は行ってくれなかっただろう。師匠らしい事もしてやれなかったが、最後にサラとの約束は守れそうだ」


そして、ウォーベアーを見ながら、自分の気持ちを奮い立たせるため声を張り上げた。


「わたし一人では、お前には勝てないだろう。だが、やすやすとはやられてやらん。死ぬ気で来い!」


レナの決意を感じたのだろうか、ウォーベアーは雄叫びを上げるとレナに襲い掛る。

レナは、ウォーベアーの攻撃を紙一重で避け、時には剣で受け流し、隙を見ては鋭い斬激をみまった。

どれくらいの時間戦っていたかすでに分からなかったが、剣は所々刃こぼれし、皮鎧は避けきれなかった攻撃でボロボロになっていた。

流れる血を手の甲でぬぐうと、剣を握りなおす。

一瞬のにらみ合いの後、ウォーベアーが躍り掛かってきた。


「っ!」


長時間の戦闘による疲労だろうか、または出血による貧血だろうか、ウォーベアーの攻撃を避けようとした瞬間、膝の力が抜けレナは攻撃を避け切れなかった。

咄嗟に左の剣で攻撃を受けたが、相手の攻撃を吸収しきれずそのまま肩に爪を受けたレナは、近くの木まで吹き飛ばされた。

口から血を流し、木に背中をもたれかからせながらレナは立ち上がる。


「ここまでか、せめて最後に一太刀でも……」


覚悟を決めたレナは、先ほどの攻撃を受けたときに折れた左の剣を投げ捨て、残った剣を両手で握り締めた。

そうでもしなければ、満身創痍のレナは一本の剣の重量を支えきれなかったのだ。

ウォーベアーはゆっくりレナに近づくと、右腕を振り上げる。

レナは相手の攻撃に合わせて最後に一太刀浴びせるために、右目に狙いを定めた。

瞬間、鈍い音が響き渡った。









クランは一度走り去った後、ウォーベアーと遭遇した場所まで戻っていた。

クランは戦いながら、この敵を倒すには捨て身の攻撃でしかダメージを与えられないと考えていた。

だが、自分の力すべてを乗せた攻撃は動作も大きくなり、野生の動物の勘で気付かれ簡単に避けられる。野生の動物は、人間が考えるよりはるかに敏感に周囲の雰囲気を感じ取ることを、クランは経験として知っていた。

そんな時、レナがクランに逃げろと言ったことを利用し、相手に逃げ出したと思わせることにした。

そして、クランはレナとウォーベアーが戦っている間、ウォーベアーの背後の木に身を隠しながら、気配を殺しチャンスを待っていた。

レナがウォーベアーに吹き飛ばされ、木に背中をもたれかからせながら立ち上がった時に、チャンスが訪れた。

ウォーベアーがレナに恐怖を与えるため、ゆっくり近づき右腕を振り上げた瞬間、クランは飛び出した。

腰を落としながら、左足のつま先をやや外側に向け激しく踏み込むと、その衝撃で地面がめくれ上がる。

クランはその力を利用し、5メートル程離れたウォーベアーの背中に向かって跳んだ。

一瞬で間合いを詰めると、着地の瞬間両足で地面を踏みつけ、衝撃で地面がめくれ上がるほどの力を利用し、剣を突き出した。


「ぅぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」


クランは、自然に心の底から湧き上る殺意に叫び声を上げる。

クランが渾身の力で放った一撃は、ウォーベアーの厚い皮膚を貫き太い背骨まで達していた。


「ぐるああああぁぁぁぁぁぁ」


ウォーベアーが今まで味わったことの無い激痛に怒りの叫びを上げる。

クランは、敵に致命傷を与えられなかったことを手ごたえで感じると剣を離し、踏み込んだ右足を一瞬戻すと、再度、右足を地面がめくれ上がるほどの力で踏み込み、柄頭に掌底を放った。

その攻撃は、ウォーベアーの背骨を突き破り、切っ先を60cm程体に埋め込ませた。


「ぐぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ」


ウォーベアーは叫び声を上げながら崩れ落ちる、

が、それでも生きているウォーベアーは、動かなくなった下半身の変わりに腕を使い後ろに向くと、すべての力を使い果たしたのか、両腕を力なく垂らし、俯いたままその場から動かないクランに攻撃しようと、左腕で体を支え右腕を振り上げた。


「私の事を忘れてないかい」


レナは最後の力でウォーベアーの右目に剣を突き立てた。


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