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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
19/130

17

翌朝。野生の雌鹿亭の前に、ルイザの街の北の森に向かうクランとレナ、そして、二人を見送るサラがいた。


「クランさん、気をつけてください。危ないと思ったら途中でも帰って来てください」


サラはクランが怪我をしないか心配で、すでに涙目になっていた。

レナが熟練の冒険者であり、クランもサラが思っているより腕が立つことも分かったが、それでも不安なのだろう。


「危なかったら戻ってくるよ、心配しないで」


クランがサラに一時の別れの言葉を掛けると、レナも悪戯っぽい笑みを浮かべて続ける。


「クラン君は無事サラの元へ返すよ。クラン君の十分の一位、私の事を信じてくれ」


サラは顔を真っ赤にしながら、二人を見送った。




ルイザの街の門を出ると、北にある森に向かって二人は黙々と歩き続けた。

昼食は適当なところに座り、固いパンと干し肉を水で流し込んでまた歩き出と、なんとか日が沈む頃には森の入り口に着いた。


明日の朝森に入ると決めていたので、今日は野営のため木の枝を集め火を起こす。

レナがパンと干し肉を出して、夕食にしようとするとクランがレナに尋ねた。


「ちょっと待ってください。夕食もそのまま食べるんですか?」


「ああ、調理するのも面倒だしね。そもそも、私は料理できないし」


レナの答えに、クランは眉をひそめる。


「じゃあ何で調理器具を持ってきたんですか?」


「だって、野営をするのに調理器具を持っていないなんて、料理できませんって言いふらしてるみたいじゃないか」


クランは姿勢を正すとレナに話しかけた。


「レナさん、いくらあなたが凄腕の冒険者だからって、余計な荷物を持ってきてどうするんですか。動きの妨げになるし、いくら軽いからってずっと背負っていれば疲労の原因になります」


「いや、その通りなんだけどね」


いつの間にかレナも正座をして、クランの小言を聞いていた。


「分かっているならちゃんとして下さい。周りの冒険者に注目されて迷惑みたいなこと言ってましたけど、自分だって意識してるからいらない物を持ち歩いているんでしょ」


「いや、そうかもしれないが……」


「人にとって衣食住は大切です。旅先であれば限られた物の中で出来る限りのことをして、

翌日に備えるべきだと思います。今日の夕食は僕が準備します。レナさんは周囲の警戒でもしてい下さい」


クランはレナに指示を出すと、バックパックから調理器具を取り出し夕食作りの準備を始めた。レナが何か手伝おうか? と声を掛けると、邪魔するなとばかりにフォークで森の方を指すのだった。


「レナさん、出来ました」


ずっと森を凝視していたレナは、クランに声を掛けられ恐る恐る振り向いた。

そこには、炙ったパンにお湯で柔らかくした干し肉を挟み、りんごのジャムを塗って甘めに味付けしたサンドイッチに、干し肉を暖めるのに使ったお湯に、ドライトマトと乾燥させた香草を入れ、塩で味を調えたスープが出来ていた。


「すごいな、これみんな君が作ったのか」


「当たり前です。他に誰が作るんですか」


クランにジト目で見られたレナは、そそくさとサンドイッチを頬張った。


「おいしいなこれは、甘めの味付けだが干し肉の塩気に良くあっている」


レナの言葉に気を良くしたクランは、スープも勧める。


「スープも、トマトの酸味がサンドイッチの甘さとよく合いますよ」


「ほんとだ、このスープも美味しいな」


味気ない食事のはずが、思いもかけず豪華な夕食になり、和気藹々と食事を過ごす。


「いや、やはり英気を養うためにも料理は大事だな。うん、私も料理を覚えようかな」


「どうしたんですか急に。調理なんか出来なくてもいいじゃないですか」


クランの言葉に首を傾げると、レナはクランに聞いた。


「いや、衣食住は大事だって言ってたじゃないか」


「そんな事言いましたっけ?また固いパンをそのまま食べると思うとイライラしてましたど」


レナはこめかみに汗をかきながら話題を変える。


「明日も早いし、見張りの順番を決めてそろそろ休もうか」


レナの言葉に頷くと、最初の見張りはクランが立つ事になった。

レナが毛布に包まり横になるのを確認すると、クランは日課の素振りを始める。

レナはそんなクランを見ながら思いを馳せていた。

人に物を教えるがらではない自分が、なぜこんなところで師匠の真似事などしているのかと。

そして、世間知らずな自分が、冒険者として生きることを選んだときのことを思い出していると、だんだんまぶたが重くなって来た。

眠りに着く直前、ルイザの街に帰ったら自分の心の平穏のため、硬くないパンを探そう、と心に刻み付けて意識を手放した。




朝目が覚めると、二人は軽く炙ったパンと干し肉の入ったスープで朝食を済ませ、装備を確認する。

クランは皮鎧に愛用のバスタードソードを帯剣し、レナは金属で補強した皮鎧に、今日は普通より細めのショートソードを二本身に着けていた。


「クラン君、君は狩人をやっていたんだろう?」


クランはレナの問いに頷く。


「じゃあ、先頭は君に任せるよ」


レナの言葉に従い、クランは森の入り口にある獣道を見つけ歩き出した。


気配を消して進むクランの後を歩きながら、レナはクランの狩人としての能力に舌を巻く。

まず、気配の消し方が凄まじい、目の前を歩いているはずなのに、ともすれば見失いそうになる。自分の目ではクランを見ているのに、気配を完全に消しているために、幻でも見ているような気分になる。

そして、周囲の状況を敏感に感じ取っている。

クランが人差し指で口元を押さえ、静かにするように伝えたあとその場でじっとしていると、熊が前を横切った。こちらが風下だったから熊に気付かれなかったが、クランは熊が近づいてくる気配を感じ取っていたようだ。

レナは熊がだいぶ近づくまで気配を感じ取れなかったが、それはレナが鈍いのではなくて、クランが鋭すぎる感覚を持っているからだった。


しばらく森の中を歩いていると、クランが違和感に気付き、レナに注意するように伝えると慎重に歩く。

それから少しの時間森を進むと、開けた場所を見つけた。

クランが辺りに気を使いながら風下からそっと覗くと、そこにはゴブリンの群れを発見した。

ゴブリンは140cmぐらいで醜悪な外見をしており、錆びた剣や、ぼろぼろの皮鎧を身に着け、濁った目で辺りを見回していた。

数はさほど多くなく、全部で30匹ぐらいだろうか、二人はゴブリンに気づかれないところまで静かに後退する。


「あそこがゴブリンのキャンプ地ですかね?」


クランはレナに確認する。


「あんな森の外に近い場所をキャンプ地にするかな? それに何かを警戒しているようだった……」


今までのレナの経験では考えられ無い様な所にキャンプを作り、何かにおびえるように周囲を警戒している姿に違和感を覚える。


「まさか、森の奥にゴブリンの脅威となるようなモンスターが現れたため、ここまで逃げてきたのか?」


考えが纏まったのだろうか、レナはクランに短く「森を出る。」と告げると、急いでこの場所を離れようとする。

だが、クランはレナの腕を掴み首を振った。レナがなぜ引き止めるのか理由を聞こうとしたとき、クランが前方を指差す。そこには2メートル程の銀色の毛皮に覆われた熊がいた。


「ウォーベアー! まさかこんなところにいるなんて……」


レナが苦虫を噛み潰したかのような表情をした。


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