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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
15/130

13

昨日の夕食中、顔こそにこにこ笑っていたが、目が怒っていたユリの機嫌を取るため、朝早くから起きたクランはファムの神殿まで彼女を送って行く事にした。

神殿に着く頃には、すっかり機嫌の良くなったユリがクランに礼を言った後、昼に待ち合わせの約束をして神殿の入り口をくぐる。


ユリを見送り、特に今日の予定が無かったクランが壁に寄りかかりながら、今日もいい天気だな、などと年寄りくさく空を見ていると声を掛けられた。


「あの、クランさんですよね。昨日はすみませんでした」


クランが声の主を見ると、そこには挨拶のため一旦下げた頭を上げるサラがいた。

昨日までのおどおどした態度が幾分和らぎ、彼女はクランの顔を見ながら話すようになっていた。


「おはよう。足の具合はどう?」


クランはほうけた顔を見られて、ばつが悪そうに頭をかきながらサラに尋ねる。


「はい、だいぶ良くなりました」


そう答えたサラの立ち姿を見たクランは、「ちょっと待って」と言い残して走り出す。

突然走り去ったクランに呆然としながらも、サラがしばらく待っていると手に綺麗な赤い布を持ったクランが戻って来た。

彼女を置き去りにした理由を説明するでもなく、クランはサラの足元に跪き、自分の肩につかまらせてバランスを取らせると足に布を巻きだした。


「どう、ちょっとは楽になったでしょ?」


足首に布を巻き終えたクランが笑顔で話しかける。


「はい、さっきよりも歩く時に痛くないような気がします」


彼が自分の足の状態を察してしてくれた事に、サラは困惑した表情を和らげながら答えた。


「うん、歩きづらいかもしれないけど我慢してね」


そう言ったクランの腹が鳴る。

すると、クランは自分の腹の辺りをなでながらサラに問いかける。


「ねえ、朝食食べた?」


クランの突然の言葉にサラが反射的に首を振ると、クランは「じゃあ、一緒に食べよう」と言うと歩き出す。

サラは一瞬躊躇するが、先程からころころ変わるクランの表情に親近感を覚えたのか、彼の後に着いて行く事にした。


朝から客を呼び込む声が響き渡る市場通りを、野生の雌鹿亭の方向に歩きながら開いている露店を探す。

パンに焼いた鹿の肉と、野菜を挟んだサンドイッチを売っている店があったので、クランは二つ買う。

一つをサラに渡した後、クランはサンドイッチにかぶり付いた。


「サラも食べなよ」


サラは、クランの顔と手に持ったサンドイッチを何度か見て、少し考えた後、口元に運んだ。






「今日もいろいろすみませんでした」


宿まで送ってもらったサラが、クランに頭を下げる。


「こういう時は、すみませんじゃないと思うよ」


やさしそうに微笑むクランを見て、サラはクランに言い直す。


「……ありがとう」


どこか恥ずかしそうにしたサラは、そそくさと宿の中に入るのだった。

クランはサラを見送りながら、少しベタだったかなと考えていると


「あれ、クラン君どうしたんだい?」


丁度宿から出てきたレナと出くわした。


「おはようございます。ファムの神殿でサラさんに会ったんですけど、足もまだ痛そうだったので朝食を買うついでにここまで一緒に来ました」


「そうか、私は早速剣の稽古をしに来たのかと思ったよ」


レナが笑うと、クランはすまなそうに言うのだった。


「この後、なにか予定ありますか?」




クランとレナは街の北西に向かって歩いていた。

会って早々、剣の稽古の希望をしたクランに苦笑した後、レナは冒険者ギルドに有る訓練場で教えることにした。

二人で冒険者ギルドに向かって歩いている間、冒険者ギルドの事を知らないクランにレナが簡単に説明をする。


通称、冒険者と呼ばれる何でも屋に仕事の依頼をする時は、冒険者が良く出入りする酒場や宿屋が仕事の仲介していた。

しかし、依頼者と冒険者の間の金銭的トラブルが少なくなかったため、冒険者ギルドが作られた。

冒険者ギルドは基本的に国の下位機関として発足したため、国家間を超えての交流はほとんど行われることはない。

また、依頼を受ける時には、自分の力量と依頼内容を吟味して、全て自己責任で依頼を受けるようになっている。

ギルドは冒険者に多少のアドバイスを行うぐらいだったが、依頼者と冒険者の間から中間マージンを取っているため双方から不満の声が上がった。

そのため最近では、訓練場の提供や、冒険者や各職人ギルドの紹介などのサービスをするようになっていた。




冒険者ギルドに到着すると、レナは受付を済ませクランと一緒に訓練場へ向かう。

最初に訓練場の脇にある備品置き場に入ると、クランに今使っている剣に近い木剣を選ぶように指示した。


「結構いろんな物があるな」


クランは壁に掛けられた剣や盾、床や棚に無造作に置かれた鞭やダガー等の中から、自分の持っている剣に近い木剣を探した。何とか使えそうな木剣を見つけると、先に訓練場に行ったレナの所へ向かう。


「見つかったかな?」


練習場では軽く木剣を振りながらレナが待っていた。

クランは彼女に頷くと、怪我をしないように体が温まるまで素振りをする。

そろそろ頃合かなと思ったところで、ちょうどレナに声を掛けられた。


「準備はいいかな?」


「はい」


クランは答えるとレナと向き合う。

クランは木剣を正眼に構え、対するレナは、右手に木剣を持ち左手は前と同じように空けていた。

クランはレナに視線で始める合図をし、軽くフェイントを掛けた後、左から胴を薙ぎに踏み込んだ。

レナはクランの攻撃を剣で受けた瞬間、素早く左にサイドステップすると、バランスを崩したクランに袈裟懸けで切りつけた。

クランは剣を寝かせてレナの攻撃を何とか受け止める。

一瞬怪訝そうな表情をレナが浮かべたが、彼女はすぐに気持ちを切り替えると、一旦距離を取った後、再度クランに打ち込むのだった。




それから一時間程訓練をして、二人は休憩することにした。


「目は相手の動きを捉えているのに、全体的に反応がワンテンポ遅れているな。間合いも使っている剣の長さから考えると近すぎるようだし、相手の攻撃を受けるのも、剣の腹で受ける時がある。もしかして剣が合っていないんじゃないのかな」


レナはベンチに座りながら、今日の訓練で感じたことを口にする。


「確かに違和感が無いわけじゃないんですけれど、他に合う武器もありませんし、慣れるしかないかなと。それと、剣の腹で受けるのは良くないと言われていたんですけど、直らなくて、この剣なら大丈夫だからって事で今に至ります……」


クランがぼそぼそ話していると、レナはクランに剣を見せてほしいと頼む。

彼から剣を渡されたレナは、鞘から剣を抜き剣身をまじまじと見る。

しばらく剣身を見ていたレナは、満足そうに頷くと剣を鞘に納めてクランに返した。


「古いがすばらしい剣だ。この剣ならよほどのことが無い限り折れたりしないだろう。君はドワーフに知り合いがいるのかい?」


「へ?」


レナの問いかけにクランは間抜けな顔をして聞き返す。


「ドワーフって、あのドワーフですか?」


「多分そのドワーフだ」


クランの浮かべた表情がおかしかったのか、レナは笑いながら答えた。


「いえ、知り合いにはいませんね」


クランは赤面しつつも返事をする。


「そうか、ドワーフの作った武具はほとんど市場に出ないから、知り合いがいるのかと思った。悪かったな」


レナは、クランに申し訳なさそうに言った。


「いえ、気にしないで下さい。僕もこの剣はたまたま倉庫で見つけただけなんで」


「そうか。まあ無理して剣に合わせる必要は無いが、他に自分に合った剣が無いのなら、せっかくだから使ったほうがいいだろうな。そのうち慣れるだろう」


立ち上がったレナは、クランにまだ訓練を続けるか視線で問いかけると、クランは小さく頷く。

そして木剣を打ち合う音が再び訓練場に響き渡る。

しばらく訓練に集中していたクランは、唐突にユリと待ち合わせをしていた事を思い出し、レナに謝るとファムの神殿に向かって走り出した。




「遅いです」

その頃、ファムの神殿の前で、頬を膨らませたユリがクランを待っていた。






「ごめん」


ファムの神殿に着く早々、クランは待っていたユリに謝る。


「別にいいです。クランさんも忙しいでしょうし、私が勝手に約束しただけですから」


そこにはすっかりへそを曲げたユリがいた。

取り付く島も無いユリに、クランはどうしていいか分からず、取り合えず宿に戻ろうと歩き出す。


「ごめんなさい」


歩き出したクランの袖を掴み、俯きながらユリが謝った。


「ごめんなさい。私が頼んで一緒に来てもらったのに。クランさんにも都合があるのにわがまま言って。ごめんなさい、怒らないでください」


だんだん涙声になるユリに、クランは大丈夫だからと彼女の頭を撫でる。

その後、クランは自己嫌悪に陥ったユリと一緒に市場に行くことにした。


H25.1。12 人物名の間違いを訂正させていただきました。

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