127
“魔女”に協力を依頼しに行って、留守だったのでその娘が手伝ってくれる事になった。
クリスがイヴに説明すると、何言ってんだこの人みたいな顔をされる。
「いいじゃない別に。魔法使えるんだから」
「ここに来る前に毒を使うのもいとわないなんて言ってたのに、なんかぐだぐだだなと思っただけです。文句はありません」
すねるイヴに、それでもあなたは付いて来ちゃったけどね、とクリスが胸の内で笑う。
「とりあえず顔合わせしましょ」
六人でアリスの住む家に向かう。
クリスが扉をノックすると、少ししてローブを頭から被ったアリスが出てきた。
不審者としか思えない出で立に、イヴが「この人?」と視線でクランに尋ねると、クランは「そうだよ」と頷き返す。
クラン、クリス、レナの三人は既に会っているため、イヴがアリスの前に立つ。
「あたしはイヴ。よろしくね!」
元気に手を差し出すが、アリスの反応はない。
「……」
「……」
クリスがクランを突っつく。
「アリスさん。イヴさんは握手をしようとしてます」
「わからない」
「え~と」
どう説明すれば良いか悩むが、見せた方が早いと思いクランはイヴの手を握る。
「ちょっと!」
急に手を握られたイヴが声を上げる。
「これが握手です。挨拶する時にします」
「赤くする?」
アリスがフードの奥からイヴの顔を見る。
「赤くないわよ!」
イヴはクランの手をほどくと、アリスの目の前に突き出す。
アリスは差し出された手を確かめるかのように握りしめる。
その時見えたアリスの腕の細さに、イヴは息を飲む。
「次はユリさんね」
クリスが声を掛けると、イヴが横に退きユリがアリスの前に立つ。
「ユリといいます。よろしくお願いします」
アリスがユリの差し出す手を握ると、ユリは笑顔で答える。
「あとはグレックね」
グレックは慇懃に一礼して「グレックです」と自己紹介した。
「さて、まずは薬を作らなければならないのよね。わたし達に手伝える事ある?」
「薬草を集める」
「ふ~ん、どんな薬草?」
クリスが尋ねると、アリスが家の中に入る。
「ねえ、わたし達も入っていいの?」
「いい」
奥から返事が聞こえると、クリスは遠慮なく家に入り込む。
「すごいわね」
壁際に置かれた本の山、天井から吊るされた乾燥した薬草、暖炉に掛けられた鍋。
適当に掃除はしているのだろうが埃っぽい空気と、それを忘れさせるほどの臭いが鍋から漂っている。
「クランさん、ちょっと来て」
クリスに呼ばれたクランがお邪魔しますと家に入ると、臭いに驚きながらも辺りを見る。
「僕達だけでいっぱいですね」
本の山を崩したりしないように気を付けてクリスの隣に移動する。
「ねえ、どの薬草がいるの?」
天井を見上げながら、奥にいるであろうアリスに聞こえるようクリスが声を張り上げる。
「これ」
奥から乾燥する前の薬草を持ってきたアリスが差し出す。
「……クランさん見たことある?」
しばらく薬草を眺めていたクリスがクランに聞く。
「狩人をやっていたので森の中にはよく入っていたんですが、初めて見ますね」
それほど詳しくない前の世界での草木の知識にもなかった。
「クランさんも知らないのね。レナも知らないだろうし…… イヴさんは森の中で暮らしてたって言ってたわよね?」
「そうですね」
アリスから薬草を受け取るとクリスがイヴに知ってるか聞きに家を出る。
「イヴさん、この薬草知ってる?」
「ん~ 初めて見たかも」
グレックを見ると、彼も首を横に振る。
街の中が仕事場だ、当然だろう。
クリスがあきらめて家の中に戻る。
「みんな知らないわね」
「そうですか、だったら手分けして探す訳にはいきませんね。干した薬草を見て探しても、ちゃんと合っているか識別できないですよね」
しょうがないと首を振りながらアリスに向く。
「ごめんなさい。皆で薬草の採取をしようと思ったんだけど、この薬草の事知っているメンバーがいないから難しいみたい。アリスさんに付いて行くから、どんな所に生えているか教えてもらってもいい? 慣れてきたら手分けして探すから」
「問題ない」
「ありがとう。手間かけるけどよろしくね」
これから薬草の生息する場所の当たりを付けて、皆が慣れた頃に手分けをして探す事に費やす時間を想像してげんなりするクリス。
一瞬、アリスの事を連れて行くのを諦めようかとも思うが、クランが危惧するように、ワイバーンみたいな厄介なモンスターが帝国の施設を守っている可能性も考慮すると、魔法を使える仲間は欲しい。
しょうがない、必要経費だと思ってあきらめよう、と納得する。
「問題ない。生えてる場所は決まっている」
「最初に言ってよ!」
「……」
クリスの言葉の意味を理解できないアリスはクランを見る。
「ごめんね。薬草を探すのに皆で手分けして森の中を探索しようと考えてたから、生えてる場所がわかってるなら悩まなくて済んだんだ。他にもわかってる事が有ったら教えてくれるかな」
「理解した」
「じゃあそこまで案内してくれるかな?」
「……崖に生えている。生えている場所の近くの土に魔法を使って下に落としていた」
「それは大変そうだね……」
「何回も魔法を使う。火球はダメ。薬草が燃える」
ここに来るまでにあった、アリスが使ったであろう魔法の形跡を見ると確かに彼女の言う通りなのだろう。
「崖よね? 登るか上から降りてくればいいんじゃない?」
「私はできない」
「クランさんがやるわよ」
僕ですか…… クランが心の中でつぶやく。
「じゃあ行きましょうか」
クリスの掛け声でアリスの後について薬草の生えている場所に向かう。