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異世界での過ごし方  作者: 太郎
魔女
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「気を付けてください」


“魔女”がいるであろう場所に向かう三人にユリが無事を祈り、その隣のイヴには「ケガなんかしてきたら怒るから」と言葉とは裏腹な表情で見送られた。


三人は約束の森まで来ると、木の合間に身を隠してカールが来るのを待つ。


「しつこいようだけど、二人とも本当にいいのね?」


「ここまで来て、やぱっりやめたなんて言うわけないだろう」


「そう…… で、クランさんは?」


「えっ 何ですか?」


考え事をして話を聞いていなかったクランを鼻で笑う。


「死んでも恨まないでねって言ったの。これから会うのは悪逆非道な“魔女”なんだから」


丁度その時現れたカールがクリスに尋ねる。


「そんな危険な奴に何の用があるんだ?」


カールが歩み寄るときに発していた音を聞き分けていたクリスは、驚くでもなく答える。


「ちょっと力を貸してほしくてね」


「何のためにだ?」


「あまり詳しく言えないんだけど、子供をいじめる悪い奴をやっつけたくてね」


「そんな事にあいつが力を貸すか? 悪い奴なんだろ?」


クリスは肩をすくめるが、考えに耽っていたクランが答える。


「力を貸してくれるかは分かりませんが、僕にはそんなに危険な人には思えないんですが」


「どうして?」


「村人が“魔女”を恐れているように感じないんで」


「お金になる薬をくれるから、嫌々共存しているとは考えられない?」


「いくらお金があっても、死んだら意味ないでしょう」


「まあ、そりゃあそうよね」


「村人達がお金目当てで争うのを待ってるって可能性もありますけど、ここに来るまでにクリスさんから聞いた“魔女”の話だと、そんな悠長な性格には思えなくて…… でも、今の状況で人がどう動くか心理学的な研究をしてる可能性も考えられるのか…… だったら、狡猾な性格なのかも……」


「さて、みんな揃ったし案内してくれるかしら?」


ぶつぶつ言ってるクランを無視してクリスがカールに案内を頼む。

カール達がゴブリンに襲われた森という事もあり、辺りに注意しながら歩いていると、木々が焼け落ち、ちょっと開けた場所が目についた。


「山火事にしてはずいぶん狭い範囲ね」


クリスが焼け跡を見渡す。


「ゴブリンが出たから、あいつがやったんだろ。あいつが来てから、ゴブリンを見かけなくなったって聞くしな」


それなのに森の中でゴブリンに出会ってしまった自分の運のなさを呪いそうになったカールだったが、ユリに出会えたことを考えて神に悪態を付くのを見送った。


「どうやらカール君の言う通りだね」


レナが炭化したゴブリンの死体に気付く。


「魔法でしょうか?」


辺りを興味深く観察するクランにクリスが答える。


「そうでしょうね。この範囲を消し炭にするって事は、多分炎の嵐かしら」


焼け焦げた範囲が6m位である事から、クリスが使用された魔法を断定する。


「やはり中級の魔法の力はすごいな」


レナが炭化した木を指先で崩しながら、うすら寒い笑みを浮かべる。


「いいじゃない。力を借りられれば心強いって事なんだから。さあ行きましょ」


クリスは努めて軽く言うとカールに案内を頼む。


「ああ、こっちだ」


カールが案内してくれる最中、所々で炭化した木が目に付く。


(範囲が狭いところを見ると、火球の魔法みたいね。だけど、どれだけ連発してるのよ。同じ中級の炎の嵐より簡単な魔法だけど、見かけたの2回や3回じゃないわよ)


改めて思い知らされた“魔女”すさまじさに、自然軽口を叩いていたクリスの顔にも緊張が見られるようになった。

そしてカールが立ち止まると、森の一部を拓いて作られた広場に、丸太を組んで作られた一軒の家があった。


「あいつはここに住んでいる」


カールが断言するが、クリスは半信半疑で家を見る。


「……ずいぶん普通の所に住んでるのね。人違いじゃないの?」


クリスの言う通り、だれがどう見ても村人が住むような建物だった。

あっ、煙突もある。


「そんな事はない。俺達はフードの付いたローブを頭からかぶった奴をこの目で見たんだ」


確かにここに来る間に見た魔法の痕跡を考えれば、魔法を使える人がいなければつじつまが合わない。

通りすがりの魔法使いが憂さ晴らしに魔法をぶっぱなしながら歩いていたのなら別だが。


「どちらにしろ接触するんだから、嫌でもその時分かるはずだよ」


レナのもっとな話にクランが同意する。


「それはそうですね。でも、どうやって接触しましょうか? ドアをノックします?」


“魔女”の住む家のドアをノックして帝国の組織と戦う交渉をする。

その時、お茶を出してくれるかもしてないから、手土産を用意した方がいいのか?


(いやいや、あり得ないから。そんなの持って行ったら、交渉失敗する未来しか予想できないわよ)


どうしようか悩んでいると、クランが呟く。


「誰か来ます」


皆近くの茂みに反射的に身を隠す。

相手に気付かれないようにそっと様子を伺っていると、カールの言った通りローブを頭からかぶった人物が現れた。

魔法を唱える時に使うと思われる杖を持ち、ゆっくり歩く。

近づくにつれローブはかなり薄汚れており、足を進めるたびにちらちら見える腕は枯れ木のように細いのが見て取れる。

息をひそめるクラン達に気付いた様子もなく、自宅だと思われる家の入り口を潜った。


「あいつだ」


カールが“魔女”に気付かれないように、用心して小声で話す。


「見た目は魔法使いみたいでしたね」


とは言っても、本物の魔法使いを見たことのないクランは、元の世界での魔法使いのイメージを元にした感想だ。

クリスはどう接触するか考えたが、結局いい考えが浮かばず皆に意見を求める。


「さて、どうしようかしら?」


もちろん他の皆もいい考えが思い浮かぶはずもなく、下手な策を弄して機嫌を損ねるのが一番不味いという事で、結局ドアをノックしてみようという事になった。


「じゃあ、レナは何かあったらユリさんとイヴさんに連絡とってもらいたいから、ここで待機してもらえるかしら。カールさんは危ないから村に戻って。それで……」


クリスは考えるそぶりをした後にクランを見る。


「クランさんは、わたしと一緒に“魔女”のお宅訪問でいいかしら?」


本当は一人で行こうと考えていたクリスだったが、自分の知らない知識を持っているクランなら“魔女”の興味を引ける話題がある可能性があると思い、危険を承知で一緒に行ってくれるかを尋ねる。


「いいですよ」


あっさり答えたクランに拍子抜けしながら、クリスが決定を下す。


「さて、行きましょうかクランさん。カールさんは気になるかもしれないけど、さっさと村に帰って。どうなったかはちゃんと教えるから」


「……わかった」


不満そうに答えたカールが村への道をたどり出すのを見届けると、クリスとクランがおっかなびっくり二人で“魔女”の家に向かうが、拍子抜けするぐらい何もなく玄関の前に立つ事ができた。


「さて……」


クリスは唇を舐めてからノックする手を上げる。

“魔女”の家だ、ノックした瞬間何が起こるか分からない。

ちらりとクランを見た後、意を決して扉を叩いた。

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