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異世界での過ごし方  作者: 太郎
魔女
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カールの口から突然語られた“魔女”情報に、クリスは辺りに視線を走らせ女将がいない事を確かめると、自分の感情が表に出ないようにいったん目を瞑る。


「で? わたしがそうだと言ったらどうするの? 悪いけどお金なんてあまり持ってないわよ」


「金じゃない。借りを返したいんだ。あいつの居場所を知りたいんだろ?」


口を開こうとするユリをクリスが手を上げて制する。


「ユリはお相子って言ってたけど? まあ、あなたが教えてくれるなら、わたしは願ってもないんだけど、この村はそれでいいの? わたし達が何のために“魔女”を探してるのか知ってる?」


「知らない。だが、仮に“魔女”がいなくなっても、俺は構わない」


決意の表情でクリスを見つめるカール。


「まあ、別にわたし達は戦いに来た訳じゃないんだけどね。でも、もし“魔女”がいなくなったら困るんじゃないの? この村の人達は仕事をしてる様に見えないしね」


クリスが暗に匂わせた事を、カールは悩む間もなく肯定する。


「あいつの薬はたしかに金になるさ。だけど、誰かが盗まないか疑心暗鬼になっている。実際、ジミーさんはあの後……」


口を濁すカールの態度から、クリスはこの村で薬とやらを盗んだ村人がすでにいて、私刑にあった事を察する。

一人で私腹を肥やそうとした人間が出た以上、それに続こうとする者が現れてもおかしくない。

下手をすれば、村人達の間で殺し合いが始まるかもしれない。

だったら……


「あなた、村での立場が悪くなるかもしれないわよ」


「俺は構わない」


「そう。じゃあ一度帰りなさい」


「え?」


予想外のクリスの返事に、カールが気の抜けた声を出す。


「しばらくしたら、あなたがゴブリンから逃げてきた森に来なさい。他の村人に見つからないようにね。そうすれば、もし“魔女”がいなくなっても、知らぬ存ぜぬで逃げられるでしょ」


「ああ……」


思いもしなかった者に出会ったかのような表情をカールが浮かべる。


「わかったら女将が帰ってくる前にさっさと行きなさい」


クリスの言う通りこの場を立ち去ろうとするカールだったが、最後に残っていた疑問を口にする。


「……“魔女”を殺すのか?」


「違うわよ」


「……そうだよな。ユリが一緒だもんな」


カールは自分が名を呼んだ少女を一瞥する。


「あら、ずいぶんユリの事を買ってるのね」


「普通、見も知らずの奴を助けるために、自分の命を危険にさらす奴はいない」


「そうね、普通はいないわね……」


クリスは一瞬昔を懐かしむが、気を取り直してカールを見る。


「じゃあ、心が決まったら森まで来なさい」


「必ず行く。その時に、なんであいつを探しているのか聞いていいか?」


クリスがカールににやりと笑うその時


「あれ~? カールさんだっけ? ユリが心配になって見に来たの? あ、せっかくだから保存食一緒に食べる?」


両手に今日の朝食を持ったイヴが階段から降りてきた。


「食べないわよ。ユリの顔を見て安心したから今帰るところよ」


「そうなんだ、残念」


また後でと言い残したカールをその場で見送ると、イヴが席に着きながら不思議そうにする。


「また会う約束したの? よっぽどユリの事気になってるのかな?」


保存食の包みを開けながらイヴが疑問を口にする。


「違うわよ。“魔女”のいる場所教えてくれるんだって」


「えっ! あたしがいない間に もごっ!」


宿の入り口に女将の姿が見えた瞬間、クリスは保存食の堅いパンをイヴの口に突っ込む。


「ちょっと~、いくらお腹が空いてるからって、一気に食べたらのどに詰まるわよ。しょうがないわね~ すみませ~ん、お水もらえますか~」


女将はちらりと一瞥すると奥に向かう。


「ねえ、クランさん。女将が飲み物持ってきてくれるか賭けない?」


「もご~~~!」


案の定オーダーを無視した女将が戻って来ないので、イヴをなだめつつカールからもたらされた話にどう対応するかを話し合う。

もちろんその場にいなかったイヴには何があったかの説明をしてからだ。


「ユリさんには残ってもらうとして、一人でっていう訳にもいかないわよね」


「付き添いはいた方がいいだろうな」


クリスとレナが誰が行くかを話し合っていると、ユリが申し訳なさそうに縮こまる。


「だったら、ユリさんの付き添いに、イヴさんと 」


「僕はもちろん行きますよ」


クリスに自分の名を言わせないようにクランが手を上げる。


「……危険よ、かなり」


クリスから普段のふざけた様子はなりを潜め、クランの決意を図るかの様に彼の瞳をのぞき込む。


「それはクリスさんもでしょう?」


しばらくクランを見ていたクリスだったが、肩をすくめて今度はレナを見る。


「ん? 私の顔に何か付いてるか?」


自分の意思を確認するかのようなクリスの態度に、レナは不愉快そうに顔をしかめる。

クリスは二人を交互に見た後、大きくため息を付く。


「何かあっても恨まないでね」


ユリの付き添いに指名されたイヴだったが、納得できないのかクリスに話しかける。


「あたしも一緒に 」


「あなたはユリさんの付き添いよ。ここの村人達に、わたし達が“魔女”にちょっかい掛けたと知られたら、襲われるかもしれない。だから、イヴさんにはユリさんを守ってもらいたいの。外の様子をしっかり見て、危険だと思ったら村から逃げ出して。村の様子がおかしいと思ったらグレックも戻ってくるだろうしね」


「……そんな言い方されたら、嫌だなんて言えないじゃない」


不承不承ながらイヴが頷くと、「じゃあ、とりあえず食事を済ませましょ」とのクリスの言葉で、皆保存食に手を付けた。

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