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異世界での過ごし方  作者: 太郎
魔女
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121

だいぶ間の空いた更新になってしまいました。

読んでいただいていた方には申し訳ありませんでした。

この話を投稿するまでの間に、あるヒロインの前日譚の『親に売られたわたしは、アサシンになるようです。』を書いていました。

『異世界での過ごし方』のネタバレを壮大に含んでいますが、一応完結していますので興味のある方はいかがでしょうか?

では、本編をよろしくお願いいたします。


「おはよう、クランさん。いつも早いわね~」


日課の訓練を終えたクランが宿の食堂で一息ついていると、あくびをしながら現れたクリスが彼の愛用のコップを奪い取り、注がれていた水を一気に飲み干す。


「おはようございます、クリスさん」


咎めるような視線を向けるクランに、クリスが悪びれた様子も無く答える。


「あら、勝手にお水飲んだの怒ってる? でもしょうがないじゃない? 女将に頼んでも、きっと夜まで飲み物なんて出てこないから」


クランの隣に座りながらクリスが言う。


「別に怒ってないですよ」


「ならもう少し楽しそうな顔をしなさい。ユリさんも問題なかったんでしょ?」


思わず驚きの声をもらしそうになったクランだったが、一つの可能性に思い至る。


「見てたんですか?」


責めるようなクランに、クリスが唇を吊り上げながら答える。


「見られたくないんだったら、ユリさんにもう少し忍び足が上手く出来るように教えなさい」


「なんで宿の中で足音を消して歩かなければならないんですか……」


くすりと笑うクリス。


「気の緩みは大敵って事よ。ここの村人達には快く思われていないでしょ。それとなくユリさんに伝えておきなさい。もしかしたら、ゴブリンのいる森に上手く誘導されてたかもしれないのよ」


「分かりました」


言っている事はもっともなので、クランは素直に頷く事にした。


「おはよ、クラン。良い話よ!」


階段を降りてきたイヴが、開口一番話し出すと同時にクリスが言葉をかぶせる。


「ユリさん起きたみたいね」


「えっ! 何で知ってるの?」


驚くイヴにクリスがニヤニヤしながら答える。


「夜中にクランさんとユリさんが二人でこそこそ話している所を見たからかしらね」


「そっか、だからいつの間にかあたしに毛織物がかけてあったんだ……」


「そういう事」


「ふ~ん、そっか~。……って! ふ~んじゃないよ、わたし! ちょっとクラン、夜中にユリと二人で何してたのよ!」


突然般若の仮面をかぶったかの様にイヴが豹変する。


「何もしてないよ! ただ話をしてただけだよ」


少しもやましい事などないのになぜか焦るクラン。


「でも、ただ話をするのに夜中で二人っきりなんて変よね~。どんな話をしてたのかしらね~。もしかしたら人に聞かれたくないような話だったりしてね~」


面白そうに燃料を投下するクリス。

流石にこれは無いと呆れ顔のクランだったが……


「そうよ! 何の話をしてたの?!」


クリスの思惑通り引火するイヴ。


「ばかな!」


思わず絶句するクラン。

二人が騒いでいると、食堂に遅れてきたレナが眉をひそめる。


「朝からどうしたんだい?」


「ユリさんとクランさんが夜二人っきりでいた事を、イヴさんが問い詰めているところかしら?」


大きく溜め息を付きながらレナが席に着く。


「あまり二人をからかうのは感心しないな、クリス」


「まあ、いいじゃない」


「ユリも目を覚ました様だし、浮かれるのは分かるが……」


「心配してたのよ、二人とも」


レナは小さく笑うと、二人に声をかける。


「他の人に迷惑になる。そろそろ許してあげたらどうかな?」


不満そうな表情をしながらレナの言葉に従うイヴ。

一方のクランはほっとした顔。


「それで、今日はどうする?」


レナが腕を組みクリスに尋ねる。


「……そうね。昨日の事もあるし、今日は二人一組で回りましょうか」


「そうか、ではグレックが食事すませたら出かけようか」


「グレックならもう出かけたわよ」


「そうなんですか?」


グレックが一人で出かけた事を心配するクラン。


「大丈夫よ。わたし達が何年密偵をやってると思うのよ。ユリさんには留守番をお願いして、わたしとクランさん。レナとイヴさんで回りましょうか?」


「何でクリスさんがクランと一緒なんですか?」


組み合わせに不満があるのか、イヴが文句を言う。


「ユリさんが目を覚ましたなら、出かける前に昨日の事を注意しなきゃ。あなたがやってくれるなら、わたしはレナと一緒に出かけても良いけど?」


「それは……」


思わず考え込むイヴ。


「嫌な仕事はわたしに任せなさい。それよりイヴさんは朝食の催促をして来て。このまま待っててもきっと出てこないわよ」


これだけ騒いでいるのに女将がが顔を出さないところをみると、クリスの言っている事もあながち間違いではないだろう。

イヴがキッチンにいるであろう女将を探しに行くと、その間に若干おぼつかない足取りで二階からユリが降りてくる。


「おはようございます」


「おはよう」

「体は平気かい?」

「遅かったわね」


ユリを各々の言葉が出迎える。


「昨日は申し訳ありませんでした」


頭を下げるユリにクランが椅子を引く。


「座ってよ。また倒れたら大変だから」


ユリは小さく謝罪を口にすると、椅子に座る。


「どう? 体の調子は?」


「まだちょっとふらふらしますけど、もう平気です」


クリスがユリの顔色を見ながら告げる。


「今日は部屋で休んでなさい。青い顔をして一緒にいられても迷惑だから」


「……はい」


ユリがうつむき小さく答える。

もう少し言い方があるんじゃないかとクランが視線で咎めるが、クリスはどこ吹く風といった様子で取り合わない。


「どうしたの?」


女将の探索から戻ってきたイヴが重い空気を感じてクランに耳打ちする。


「クリスさんがユリさんを注意したから」


ふ~ん、といった感じでイヴが席に着く。


「まあ、次気を付ければいいじゃない。みんな心配したけどね」


クリスがイヴを見る。


「で? 食事はどうなったの?」


「女将さんいないみたい」


「……」


客がいるのに職場放棄をした宿の主に絶句する。


「保存食まだ残ってたよね」


クランがつぶやく。


「なんで食堂で持ってきた保存食食べなきゃならないのよ。 ……イヴさん取って来て」


クリスは文句を言いつつイヴに頼む。


「なんであたしが……」


こちらも文句を言いつつ部屋の荷物を探しにイヴが行く。

ここまでを見ると、女将の地味な嫌がらせは効果を上げているようだ。


「だが、クリス。このままやみくもに動いて見つかると思うか?」


「そうね~ 村人達がここまでだんまりを決め込むなんて思わなかったわね」


レナとクリスがこれからどうするかを相談しようとすると、宿の入り口の扉が開く。

不在の女将が戻ってきたかと思ったが、昨日また来ると言い残したカールが入ってきた。


「あら、早くからご苦労様」


クリスが声を掛けると、カールは一直線にユリの元に向かう。


「ユリ、大丈夫か?」


ユリは立ち上がってカールに答える。


「はい。私は平気です。カールさんはどこか具合の悪い所はありませんか?」


「俺はユリのお陰で大事ない」


「良かったです。それと、私を宿まで運んでいただいてありがとうございます」


ユリが律儀に頭を下げると、カールは困った顔をする。


「ユリがいなければ俺は死んでいた。礼を言うのは俺の方だ」


「だったらお相子ですね。お互い気にするのはこれで終わりにしましょう」


「だが……」


それでは釣り合いが取れないとカールが言うより早くクリスが口を出す。


「本人が良いって言ってるんだから良いじゃない。しつこい男は嫌われるわよ」


ちょっと悩むそぶりを見せた後答える。


「……わかった」


「用が済んだらさっさと帰りなさい。わたしたちと一緒にいると、ろくな事にならないわよ」


「そうだな」


返事と裏腹にこの場を離れないカール。


「……あんた、村での立場が 」


クリスの言葉にかぶせるようにカールが言う。


「ロッテとハンナに聞いたが、あいつを探してるんだってな」


「あいつ?」


「“魔女”って呼ばれてる奴の事だ」

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