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異世界での過ごし方  作者: 太郎
魔女
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「ちょっと遅いわね」


愛想の悪い宿の女将が散々待たせた挙句持ってきたエールを、ちびちびやっていたクリスが呟く。


「探しにいきましょうか」


食事も取らずに(頼んでも出てくるかは分からないが)ユリを待っていたクラン達だったが、日没近くになりそわそわしだしていた。

そこでクリスの口から発せられた言葉に、クランが直ぐに反応する。


「そうね。もし何か有ったとしたら、日が沈んだら見つけるのがやっかいになるわ。手分けして探しに行きましょう。行き違いになると不味いから、イヴさんはここに残って。その他の人達は、ユリさんを見つけても、見つけられなかったとしても一時間後には戻って」


クリスが腰を上げると同時に、残りの者達も腰をあげ宿の出入り口に向かおうとする。

と、丁度その時、勢い良く外から扉が開かれ、背中に何かを背負った少年が、息も切れ切れに宿の中に転がり込む。

クラン達が突然の闖入者を見ると同時に、少年もクラン達に視線を向けた。


「あんた達、ユリの仲間か!?」


少年の口にした言葉と、彼が背中に担いでいるのが黒髪の少女だと分かった瞬間、クランが駆け寄る。

クランは、少年に背負われたユリの意識が無い事を見て取ると、彼女の首筋に手を触れた後に口元に耳を寄せ、息がある事を確かめほっと一息つく。


「何があったんですか?」


突然仲間を背負って現れた少年に問いかける。


「ああ、顔色が悪かったんで声を掛けたらその場で倒れたんだ」


「傷を負っていたり、倒れた時に痙攣などはしていませんでしたか?」


「細かい傷は分からないが、大きな怪我などは無いはずだ。倒れた時に痙攣もしていない」


「分かりました」


クランは少年に答えた後、徐にレナに声を掛ける。


「レナさん。ユリさんを部屋に運びます。手伝って下さい」


少年の背からユリを降ろし抱きかかえながらクランが言う。

ユリを抱きかかえたクランと一緒に、レナも部屋のある2階に向かうと、所々服が破れ、泥まみれの少年にクリスが話しかける。


「あなたも大変だったみたいだけど、話を聞かせてくれるかしら?」


少年はクリスに頷き、彼女達と同じテーブルにつく。


「さて、何でユリが意識を失っていて、あなたと一緒に現れたかを教えてくれるかしら?」


口調こそ丁寧だが、有無を言わせぬクリスの様子に、少年が唾を飲む。


「……ユリとは、森の中で会ったんだ」




◆ ◆ ◆




「そう……、ゴブリン達が森にいたの。その上ゴブリンリーダーまで……」


少年の話を聞き終えたクリスが考え込みながら呟く。

黙り込んだクリスを皆が見つめていると、思考の底から帰ってきたクリスが笑う。


「ごめんなさい、考え込んでしまって。ユリが世話になったようね。パーティーを代表して礼を言うわ」


「ユリがいなかったら俺だって無事だったかどうか……。多分あそこで果てていたと思う。礼を言うのは俺の方だ」


「そう。じゃあ、今回の事はお互い様って事でいいわね」


クリスにカールが頷く。


「だが、ユリは平気なのか?」


クラン達が上った階段を一瞥したカールが、不安そうな表情をしながら尋ねると、丁度その時、階段からクランが姿を現す。

クランが椅子に腰を降ろすと同時に、クリスがユリの事を問いかける。


「脈も安定していましたし、呼吸もしっかりしています。倒れる時に痙攣などもなかったので、安静にしていれば意識を取り戻すと思います」


病院も無く、医者もいるとは思えないような世界だ。

大して出来る事など無く、後は本人の体力に任せるしかないだろう。


「レナは?」


「ユリさんの体の負担を軽くするために、楽な服に着替えさせてもらっています。その後、傍に付いていると言ってくれました」


「分かったわ」


クランの言葉に、とりあえずユリの身に直ぐ何かが起こる事は無いと胸を撫で下ろしたクリスが、何か言いたそうにしているカールをクランに紹介し、ユリとカールが出会った所からを説明する。

一通り説明が終わったところで、それまで黙っていたカールがクランを見る。


「ユリは本当に大事無いのか?」


クランの言った事を信じていないのか、カールは不信感をにじませた表情を隠そうともしない。


「カールさんの話を聞く限り、脳溢血や心筋梗塞の可能性は低いと思いました。過度の緊張状態のストレスや、僕は専門外なので憶測ですが、神聖魔法を使った事による魔力切れなどの可能性が高いと思います」


ユリの事を心配していない訳が無いクランだったが、勤めて自分の不安を表に出さないように答える。

医学の知識も乏しいのだ、断定など出来ない。

しかし、悪戯に皆の不安を駆り立てても仕方が無い。

なにせ、ユリがいれば神聖魔法など試してみる事は出来るのだが、当のユリ自身が倒れてしまったのだ、安静にする事ぐらいしか出来る事は無い。

村人達に助けを求めても、いままでの様子から、けんもほろろにあしらわれるだろう。

だが、クランが可能な限り詳しく説明しても、彼の言った事が理解できないカールは眉間に皺を寄せるだけだった。


「あまり悩まない方がいいわよ」


すでにクランの言う事を理解する事を諦めつつあるクリスが、カールに言う。


「分かった」


納得していない様子を隠そうともせず、答えるカール。

二人の間のやり取りを微妙な表情でクランが見ていると、クラン言う事を信じたイヴが口を開く。


「途中でレナさんと代わって、あたしもユリに付き添うよ。それより、村の近くの森にゴブリンがいるんじゃ、この村危険じゃないの?」


最もな疑問にカールが答える。


「問題ない。今までゴブリンを見かけた事もあったが、村に被害が出た事は無い」


カールの言葉にクラン達が疑問を投げるよりも早く、少年は席を立つ。


「また明日来る」


そう言い残して。


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