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異世界での過ごし方  作者: 太郎
魔女
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ゴブリンから逃れるために逃げ込んだ洞窟で、いつの間にか眠りに落ちていたカールが目覚める。

少しの間ぼんやりとしていたカールだったが、意識が覚醒するにつれ、自分の置かれた状況を把握するために、周囲に視線を走らせる。


「すみません。起しちゃいましたか?」


カールは隣からの声で、ユリと一緒に洞窟でつかの間の休息を取っていた事を思い出す。


「すまない。俺はどの位寝ていた?」


苦渋の表情をするカール。


「一時間位でしょうか? 私は、体力を温存するのも冒険者に必要な事だと教えられました。ジョンさんを逃がすために今まで走り回ったカールさんは、体力を回復させる必要が有ったと思います。ですから、謝る必要なんてありませんよ」


「だが・・・・・・」


尚も言葉を続けようとするカールに、ユリが小悪魔的な表情をする。


「それなら、夕暮れ時までもう少し時間が有ります。寝起きで洞窟から出るのも危険だと思いますので、それまでお話をして下さい」


「俺が?」


突然のユリの要望に、困るカール。


「はい。出来たらカールさんの事を」


くすくす笑いながらユリが答えると、カールは居眠りをした罰だと思いしぶしぶ語りだす。


「俺の事なんか、つまらない話だぞ」


きらきらした瞳で真っ直ぐ自分を見つめるユリに赤面しながらも、覚悟を決め話し出す。


「村で歳が近かったジョン、そしてロッテとハンナでよく一緒に遊んでいた。小さな村だ、子供も俺達位しかいなかったからな。その頃は村の中で鬼ごっこをしたりしてた。・・・・・・ユリは俺達の村に寄ったか?」


「はい」


「そうか・・・・・・。俺は今の村が嫌いだ」


自分の住む村を、臆面も無く嫌いだと言い捨てるカールにユリが驚く。


「だってそうだろう? あいつが来てから村は変わってしまった。村の連中は狩もせず、畑も耕さず、お互いを監視するだけだ。ユリだったら住みたいか? 皆が自分を監視してるんだぞ」


「でも、なんで?」


「働かなくても、あいつの言う通りにしていれば生きていけるからだ」


言葉を一旦切るカール。

続きを口にするか躊躇していたが、覚悟を決めとつとつと語る。


「週一回来る商人に、あいつに渡された物を渡すと金が貰えるんだ。だけど、ある日その役目をしていた村人が、別の商人に渡して金を貰って、自分の物にしたんだ。偶然それを見ていた村人がいて、それから皆、疑心暗鬼になって、狩もせず、畑も耕さず、お互いを監視するようになったんだ。俺はそれが嫌で、成人したらこの村から出て行こうと決めた」


じっと耳を傾けるユリに、長年蓄積された思いを吐き出す。


「俺は、人を疑うんじゃなくて、信じたいんだ。だから、村を出て王都に行って、騎士になりたいんだ。心から信じられる仲間達と、信じたもののために戦いたいんだ。でも、俺は頭が良い訳じゃない。身分が高い訳じゃない。無理な事は分かっている。だけど、このまま村にいても、生きているとは言えないじゃないか。あいつの渡すものに縋って、それを売って暮らすなんて、そんなの生きてるって言わない! 生かされているだけだ! 家畜と変わらないじゃないか! 俺は、自分自身の足で立ちたいんだ!」


ゴブリンに見つからないように声こそ押さえていたが、それは彼の魂の叫びだった。


「ごめん。訳わかんないよな、こんな事言われても・・・・・・」


我に返ったカールを真っ直ぐ見つめるユリ。


「そんな事ありません。立派だと思います。私はカールさん位の頃に、そこまで強い思いを持っていなかったです。きっとカールさんだったら、なれますよ。素敵な騎士に」


カールは、照れくさそうに答える。


「ありがとう。今まで誰にも言わなかったけど、ユリに話したらすっきりした。難しいかもしれないけど、俺は騎士を目指してみる」


「はい。じゃあ、こんな森さっさと出ちゃいましょう。将来騎士になるカールさんと一緒です。絶対無事に村に戻れます」


両手で握りこぶしを作って胸の前で構えるユリ。

カールが呆けた様に彼女を見ていると、ユリは小首を傾げる。


「どうしたんですか? 森を出る事くらい騎士になる事より簡単です。カールさんと一緒だったら、朝飯前ってやつですよ?」


カールは悟る。

なぜユリは自分の事を聞きたがったか? きっと、これからゴブリンに立ち向かおうとする俺《カール》を勇気付けるためだ。

黙り込むカールを不思議そうに見るユリに、無理やり余裕の有る笑みを作る。


「あたりまえだ、ゴブリンなんかひとひねりだ!」


「あっ! でも、見つからないに越した事はないですからね?!」


慌てて言い直すユリに、カールは自然と笑い声を上げた。






ゴブリンのうろつく森を急いで、だが、決して大きな音を立てぬよう走るユリとカール。

先程までいたゴブリンはすでに諦めたのだろうか、見渡す範囲には見当たらなかった。


「行けるぞ!」


手のひらを汗でびっしょりにして短剣を握り締めていたカールの表情に、若干の余裕が見て取れるようになった。

だが、ユリは喉に魚の骨の刺さったような違和感を覚えていた。

森の出口が近づくにつれ足早になるカール。


「もう少しだ! がんばれ!」


全速力といっても良いような速度になった所で、二人の目の前に大きな影が躍り出る。

目を見開き急停止するカールの目前に、現れたのは・・・・・・


「ゴブリンリーダー・・・・・・」


思わず呟くユリが感じていた違和感がこれだった。

ゴブリンは通常統率の取れた行動など行わない。

だが、先程二人が見かけたゴブリンは、場所を動かず周囲を警戒していた。

それは、彼等の集団の中で、普通のゴブリンに命令できる統率者がいるという事だった。

経験の無さから、そこまで思い至らなかったユリが痛恨の表情を浮かべていると、ゴブリンリーダーから視線を切らず、隣にカールが立つ。


「リーダー?」


「はい、仲間から聞きました。数百体に一体の割合で生まれるゴブリンの上級種です。その能力は、人間でいうと、中級の戦士に匹敵するそうです」


ユリの言葉に、二人は絶望に包まれる事になった。


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