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異世界での過ごし方  作者: 太郎
魔女
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「は~、疲れたわね」


フォーク伯爵の屋敷を後にしたクリスは、暗い夜道を今日泊る宿屋に向かいながら肩を鳴らす。


「折角のご馳走だったのに、味がしなかった……」


その隣には、緊張の余り何を食べたか最後まで分からなかったイヴ。


「やはり私達が来た理由を知りたがっていたな」


レナもまた、しつこく旅の目的を尋ねるフォークを思い出し、辟易したように言う。


「突然思ってもいなかった人物が現れたんだもの、気になるでしょう」


クリスが投げやりに答える一方、伯爵にかけられた言葉に感動したユリは、気だるそうにする皆に話しかける。


「でも、もう二度とエリム村のような事は起こさせないと、フォーク伯爵は約束してくださいました!」


瞳を輝かせるユリに見えぬよう苦笑したクリスは、伯爵の屋敷を出てから、一言も口を開かないで歩くクランに話しかける。


「そういえばクランさん。あなた、食事にもあまり手を付けなかったし、ほとんど喋らなかったじゃない? どうしたの?」


「フォーク伯爵はだいたい首都にいると仰ってましたけど、領主なら自分の領地で過ごすのが普通じゃないんですか?」


突然のクランの問いに一寸驚きつつも、クリスは辺りに人影が無い事を確かめた後に答える。


「フォーク伯爵は、対帝国の諜報活動の責任者として大公に任命されたの。それで自分は首都に居を構え、部下の密偵に情報を集めさせ、必要だったら大公に直接報告しているの。だから、自分の領地運営は、息子であるベルク子爵と、長年伯爵家に使えている執事長にある程度任せているの。もちろん、重大なことに関しては自分で決済しているし、定期的には領地に戻っているわよ」


「そうなんですか。大変そうですね」


「そうね。忙しいんだから、いっその事、帝国の実験体施設の事は任せてくれればこっちも楽なのに」


思わずこぼれるクリスの本音に、クランは笑う。


「じゃあ、今日はさっさと休んで、明日に備えましょう」






翌朝、十分な睡眠を取ったクラン達は、首都を後にし、“魔女”が住むという村に向かった。

フォーク伯爵との会談を済ませたクリスは、最初こそ足取り軽く、珍しく上機嫌なのを隠そうともせずに歩いていたが、グレックの言う目的地に近づくにつれ、徐々にそのなりも潜めていった。

そして、村の全貌が見える距離になると、ついにクリスが口を開く。


「本当にここで合ってるの?」


そこには、周囲に雑草がうっそうと茂り、何年も人が住んでいない、まるで打ち捨てられたような村が有ったからだ。


「ここに間違いありません」


グレックが答えると、怪訝そうな顔をしつつも、クリスは黙って村に向かった。






「なんかじろじろ見られてる気がする……」


村に足を踏み入れて早々、自分達を値踏む様な村人達の視線に晒されたイヴが呟く。


「外から余り人の訪れない村なんてこんなものだよ」


レナが答えるが、彼女も村人からの突き刺さるような視線に、居心地の悪さを感じていた。

そのくせクランがこちらを見ている村人の方を見ると、露骨に視線をそらされる。


「警戒されてますね」


「そうね、それに村の寂れた様子と、村人達の身に付けている服がちぐはぐね」


クリスの指摘に、改めて村人にさりげなく視線を走らせるクラン。


「確かに変ですね。上等な服とは言えませんが、それほどくたびれた感じはしませんね。それに、痩せた人を見かけません」


ここまでの道を思い出し、荒野の中にぽつんとある村の周囲に、特産と言えるものを見かけなかった事からも、村人の収入は多いとは考えられない。

それなのに、今まで旅の途中で見てきた同規模の村と比べても、村人達の生活水準は高そうに見えた。


「まあいいわ。とりあえず今日の宿を決めて、それから“魔女”がどこにいるか村人に聞きましょう」


村に一軒だけある宿屋の扉を潜り、女将に宿泊の意思を告げる。

その際、魔女の噂を聞いて訪ねて来たと口にすると、


「っ! 知らないよ!」


と、けんもほろろに告げ、女将は奥に引っ込んでいった。




「怪しいわね」


勝手に食堂のテーブルに陣取ったクリスが、感想を口にする。


「はい。宿屋の女将さんにしては、愛想があまり良く無いように感じられました」


だいぶオブラートに包んだ感想と共に、元宿屋の娘らしくユリが同意する。


「ああいうのは無愛想って言うと思うんだけど、クランはどう思う?」


イヴの問い掛けにクランが答える。


「村人の様子といい、女将さんの様子といい、ちょっと不自然ですよね。なにか隠しているように感じます」


「私もそう思うよ」


レナの意見が出たところで、クリスが今後の行動を告げる。


「皆で村の中を探索しましょうか。その際、村人を見かけたら軽く挨拶をするだけにして、あまり込み入った話をしない様にして。悪戯に警戒心を持たせたくないから。もし、口を開きそうな村人がいたら、わたしかグレックに報告する事。踏み込んだ話しは、わたし達がするから」


日暮れにこの宿に戻る事を決めると、クリスの指示に従い各自情報収集に向かった。


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