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異世界での過ごし方  作者: 太郎
目覚め
10/130

8

早朝、木陰亭の前に三つの人影があった。


「村に来ることがあったらまた来てね」


旅立つクランにユリが再会を願う。


「もちろん村に来るときは木陰亭に寄るよ。じゃ、また」


名残惜しむユリに別れを告げると、クランとグレンは自宅に向けて歩き出す。

クラン達を見送るユリは、二人が見えなくなるまでその場に佇んでいた。


ルイザ街道を休み無く歩き続けるクラン達は、昼は干し肉と水のみで簡単に済ますと、カルラの待つ家路へ急ぐ。

その成果もあり、日没にはだいぶ余裕のある時間に自宅に到着した。


「お帰りなさい。疲れたでしょう中に入って休んでください」


カルラが数日振りに戻った二人を笑顔で出迎える。

家に入った二人が荷物を降ろし食堂の椅子に座ると、カルラは木製のコップに一度沸騰させた水を入れて二人に用意してくれた。

無事家に着いた事にほっとしたクランが水を一気に飲み干す。


「あー、疲れたー」


椅子の上で脱力しているクランにカルラが微笑む。


「初めての旅はどうでしたか?」


クランはエリム村であった出来事や、街で見たことなどを身振り手振りで話した。

ユリの事を聞くときはなんともいえない表情をしていたカルラだったが、終始笑顔を浮かべ相槌を打つ。


「あ、お土産があったんだ」


クランはバックパックの中からルイザの街で買った髪留めを出し、カルラに渡す。


「ごめん、気に入らなかった?」


髪留めを見つめたまま微動だにしないカルラに、クランは不安を覚え尋ねた。


「ううん、すごく嬉しい。なんて言っていいかわからなくて……」


答えている間にもカルラの目には涙があふれる。

突然の涙に、クランが何て声を掛かけたらいいか悩んでいる間に、カルラは「ごめんなさい」と言い残して自室に戻ってしまった。

クランが呆然としていると、グレンが何事も無かったかのように街で買ってきた荷物の整理を始める。

それを見たクランも、仕方なくノロノロと荷物の整理を始めるのだった。


その後、夕食の時間になってもカルラは部屋から出てこなかったので、二人はパンと干し肉で夕食を済ませて旅の疲れから深い眠りに就くのだった。




翌日、まだ深夜と呼ばれる時間にクランは起きた。

狩りに行くときに着る服に着替え、壁に立てかけてあったバスタードソードを手に持つと、グレン達を起こさないように気を付けながら外に出る。

腰に鞘を吊るすと剣を正眼に構えた。

一呼吸してから剣を大きく振り上げると、右足を大きく踏み込むと同時に振り下ろす。

それを延々と繰り返した。




朝日が昇るとグレンが木刀を2本持って家から出てきた。


「おはよう」


クランは剣を振るのをやめてグレンに挨拶をする。


「ああ」


言葉少なくグレンが答えると、もっていた木刀をクランに投げた。

木刀を受け取ったクランは、剣を鞘に納め腰からはずして近くの木に立てかける。

二人は5メートルほど離れて向かい合うと、日課の稽古を始めた。

クランは、木刀を大きく振りかぶりグレンに切りかかる。

グレンは木刀を横に寝かせて受け止めると、クランを蹴り飛ばす。

ただがむしゃらに正面から斬りつけるクランの剣を受け止めては、弾く。

クランが稽古に集中していると、いつの間にか家の外に出ていたカルラが二人を見ていた。

自分を見ている人影にクランが気付くと、カルラは朝食の準備のためそそくさと家の中に戻る。




朝食の時間になり食堂に行くと、席に着いた二人にカルラが朝食を並る。


「昨日は急に泣き出したりしてごめんなさい」


「いいよ、気にしてないから。それより今日見てた?」


カルラが自分の席に着きながら目を伏せていると、彼女がなぜ泣き出したのか気になりつつもクランは話題を変えようとする。


「普段どんな訓練をしているのかと思いまして」


クランの気遣いに、どこかホッとしたような表情を浮かべてカルラが答えた。

すると突然、それまで黙って食事をしていたグレンがカルラに聞く。


「カルラから見てクランはどうだ?」


「クランさんは、何で正面から決まったように袈裟懸けに切り付けるのですか?」


カルラは少し考えた後、朝の訓練を見て気になっていた事をクランに尋ねた。


「んー、こだわりというか、体が勝手に動くというか……」


要領を得ないクランの説明にカルラが厳しい顔をする。


「くだらないこだわりを持って剣を振るのはよくないと思います。クランさんがなぜ剣の修練を始めたかは分かりませんが、戦闘時に選択肢を狭めるようなこだわりは自分を殺すことになります。そんな中途半端な気持ちだったら、剣を手放すべきです」


「ごめん、これからは気をつけるよ」


カルラの厳しい指摘に驚きつつも、クランは申し訳なさそうな顔をする。

そんなクランに笑顔を向けるとカルラはやさしく話しかけた。


「でも、踏み込む速さと、剣を切り下ろす速さはすごかったと思います。もっと幅広い戦い方を身に着ければ、クランさんは立派な剣士になれると思います」


この日から、朝の訓練中毎日カルラを見かけるようになった。

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