夜の帳が辺りを包む静まり返った街の中、ヨーロッパで見られるような大きな石造りの建物の前に照らされる二つの人影があった。
距離を開けて向かい合う二人を照らすのは月明かりと、青白い光を放つまったく揺らめく事の無い街灯。
だが、街灯は見渡す限りここにしか見当たらず、この施設が重要な施設だとうかがい知る事が出来る。
月明かりの照らす範囲に人影は見当たらず、光の届かない路地裏には人の気配は感じられなかった。
よほどの田舎か、それとも、中世と呼ばれるような時代なのだろうか。
それは、今見える景観だけでは判断できなかった。
青白い光の中で向かい合っている人物を見ると、一人は黒髪の少年。
簡素な服を身に付け、驚くべき事に腰には剣のような物を下げていた。
その少年に向かい合っていたのは、コットと呼ばれる服を身に纏った一人の少女。
この場所では一般的な服装だったが、今日少女が着ていたのは彼女の一番のお気に入だった。
距離を開けたまま二人は会話をしている。
何かに耐えているような苦しそうな表情をしている少年に、少女が困惑した視線を向ける。
話が終わったのだろう、唇を固く結んだ少年はおもむろに腰に吊るした剣を抜き上段に構える。
すると、それまで歪んでいた少年の表情から感情が消える。
それはまるで、そうする事によって彼の意思とは関係なく、目に前の人間を殺すために作られた機械が動き出したような豹変だった。
少女が一瞬驚きの表情を浮かべるが、少年は能面のような表情で少女に踊りかかる。
少女は少年に手を差し出す。
その瞳には、後悔、慈愛、憎しみ、感謝、何色もの感情が含まれていた。
次の瞬間、少女の鮮血が飛び散り地面に染み込んでゆく。
そして、辺りに怨嗟の声が響く。
本人の意思とは関係なく訪れた悲劇に。