石とキラキラ
「キラキラが、どっか行っちゃったの」
山の中、坂の途中で岩にすわって休んでいたら、ふいに小さな石が話しかけてきた。
「キラキラ?」
「うん、キラキラと石はね、いつもいっしょ。雨がたくさん降って、それで、キラキラがいないの」
「そうかあ、こまったね」
ボクはあたりを見まわした。雨上がりの山道には、木漏れ日がキラキラと光を落としていた。
「キラキラはお日さまの光?」
「ちがうよ」
ボクは道にしゃがみ込んだ。むき出しの土の道に、コガネムシが歩いている。
「キラキラは虫?」
「ちがうよ」
うーん、とボクはかんがえて、それから石に聞いてみる。
「キラキラはなに?」
「あのね! すごくきれいな石! まんまるくて透きとおってて、お日さまにキラキラ光るの! ねえ、いっしょにさがしてくれる?」
ボクは、うん、とうなずいて、石といっしょに坂道を下りはじめる。
道はデコボコで、石はまっすぐ進めない。あっちにコロン、ヨチヨチ上って、こっちでコロン。あっという間にドロだらけになりながら、キラキラをさがしてゆっくり進む。
そのうち、石はしょんぼりしたようにボクに言う。
「ねえ、ごめんね。石は進むのが遅いの。イヤじゃない?」
「別にいいよ」
とボクは答える。
石は、そう? と言って、またがんばって進みはじめる。
「キラキラはね、まんまるだから、早く坂道をおりられるの。だから、先に行っちゃったのかもしれない」
うん、とボクはうなずく。
「そうかもね」
「もしかして、石が遅いから、わざと石を置いて行っちゃった?」
「そうかもね」
石はピタリと道ばたに止まって、
「もしそうなら、どうしよう」
と泣きそうな声を出す。
ボクは首をかしげる。
「かんがえてもわからないよ。キラキラに聞かないと」
「えっ?」
「まずキラキラを見つけて、いっしょだと遅くてこまるか聞いて、ちがうならまたいっしょに行けばいい」
「でも、めいわくかも」
「キラキラも石とはぐれて泣いてるかもしれないよ。めいわくか、泣いてるか、会ってみないとどっちかわからない」
「そうかな」
「そうでしょ?」
「そうかぁ」
うん、とうなずいて、石はまた進みはじめた。
「でも、じゃまだから置いていったのに、っておこられたらつらいなあ」
「そしたら、そうだったんだ、じゃあさよなら、って言えばいいよ」
「えっ」
「そしたらもうさがさなくていいし、心配もしなくていい。よかったね」
「そうかな?」
「でも今はまだわからないから、泣いてるかもしれないからさがそう」
「そっか、そうだね」
またしばらく、ボクたちは坂道をおりながらキラキラをさがす。
石は、道のはしから下をのぞき込む。
「ここにもいないね」
「あ、道のはしっこ行くとあぶないよ。そっちはがけだから」
とボクが言ったときには、石は
「わあっ」
と声を上げて、ころりと道のはしから転がりおちた。
「あらら、だいじょうぶ?」
ボクが道からのぞくと、石は少し下にひっかかって、止まっていた。
ボクは手をのばして、石を助けあげる。
「助けてくれてありがとう。ビックリした、止まってよかった」
「よかったね」
そしてまた、キラキラをさがして歩きだす。
やがて、石はまたぽつりと言った。
「キラキラは、ぜったい石といっしょじゃないほうが早く進めると思う」
「そう?」
「だからさ、石とはぐれて泣いてたとしても、もしかしたら、さがさないほうがキラキラのためなんじゃないかな」
「うん? そう?」
「えっ」
「キラキラは、のぼり坂もきみより早い?」
「え?」
「あと、さっきみたいに道をはずれて転がっちゃったとき、君は止まれたじゃない? キラキラが転がっちゃっても、きみなら助けてあげられるかも」
「えっと?」
石は少しおどろいて、そして少しかんがえる。
「石もキラキラの役に立てるときがあるのかな」
「そうだね、役に立てたらいいね」
「うん」
「まあ、そんな理由がなくても、ただ石といっしょにいたいかもしれないしね」
「そっか……、そうならいいな」
元気になった石は、またいっしょうけんめい坂道を下りはじめる。
やがて、川に出た。
「キラキラは川まで転がって、川におちちゃったのかなぁ」
「そうかもね」
「もしそうなら、どうしよう」
「そういえば、石ってね、川を流れて海まで行くと、まるくなるんだって」
「えっ?」
「あちこちぶつかって、かどがけずれて、まんまるになるんだってさ。キラキラがまんまるなら、海から来たのかもしれないね」
「そうなのかな?」
「だから、海に帰ろうとして、また川を流れていったのかもしれない」
「そうかあ」
「わからないけどね」
「うーん」
石はしんけんにかんがえこんでいる。
「きめた! 石は川を流れて、海まで行く!」
「えっ? でも、キラキラが海まで行ったか、まだわからないよ?」
「行ってみて、いなかったら、またもどってくる!」
「もどってくるのもたいへんだよ? それでも行くの?」
「うん、きめたの。石はきれいなまんまるになって、キラキラと会う!」
「まんまるじゃないからできてることも、まんまるになったらできなくなっちゃうかもしれないよ?」
「それでもいい。石はまんまるになりたい!」
「そうかあ」
うーん、とかんがえてボクは言う。
「この川は流れがはやいから、まんまるになる前に、途中でこわれちゃうかもしれないよ?」
「だいじょうぶ! こわれてもくだけても、さいごにはちゃんとまんまるになれるよう、石はずっとがんばる!」
「でも……」
「ここまでありがとう!」
ボクの話をさえぎるようにそうさけぶと、石はエイッと川に飛びこんだ。
そしてそのまま、はげしい流れにのまれてすぐに水面から見えなくなった。
「だいじょうぶかなあ」
しばらく川を見ていたけど、もう石がどこにいるかわからない。
ちゃんと海まで転がって行けるかな。
「がんばってね」
ボクは小さくそう言うと、もとの道にもどろうとした。
そのとき。
なにかが川原でキラッと光った。
ひろってみたら、まるくてきれいなガラス玉。
「あれ、お前、もしかしてキラキラ?」
キラキラは、返事をするようにまたキラッと光った。
どうしよう。
ボクはあわてて川をふり返る。
でももう石は海へ向かって行っちゃった。
「うーん」
……まあいいか。
ボクはキラキラをだいじに両手でつつむ。
「海まで行ったらもどってくるって言ってたし、それまでいっしょに石を待っていよう」
ボクはまんまるでツルツルになった石を想像してすこし笑った。
そして、来た道を、キラキラといっしょにもどっていった。




